第169話 井伊直人と本多太鳳
「羽柴陽菜に清き一票を!!」「徳川伊緒奈をよろしくお願いします!!」
生徒会長選挙の公示がされ伊緒奈と陽菜さんの各陣営は選挙活動を必死に行っている。
勿論、俺も伊緒奈陣営として直人と一緒に中庭付近でチラシ配りを頑張っていた。
「颯さん、選挙チラシをもっと印刷した方がいいですかね?」
直人が汗を流しながら俺に聞いてくる。
「そうだな。もう少しチラシを増やそうか。っていうか凄い汗だけど大丈夫なのか? 少し休憩をとったほうがいいんじゃないか?」
「いえいえ、皆、頑張っているのに俺だけ休憩なんてあり得ませんよ。それに俺は昔から汗かきなので気にしないでください」
「大丈夫なら別に構わないけどさ……」
そう言えば直人って伊緒奈の事をどう思っているんだろう?
直人に初めて会った時は伊緒奈の許嫁だと言いながら俺に詰め寄ってきたくらいだからな。
「ところでさ、直人……?」
「はい、何でしょう?」
「直人って今も伊緒奈の事を許嫁だと思っているのかい?」
「えーっ!? こんな時に変な質問は止めてくださいよぉ!!」
「ゴメン……少し気になったものだからさ……」
「でもまぁ颯さんの質問に答えないわけにはいかないので……フフフ、ご心配なくですよ。俺はもう伊緒奈の事を許嫁だとは思っていませんし……正直言うと恋愛対象でも無かったので……」
えっ、そうなのか!?
当初、かなり許嫁って事にこだわっていたと思うんだけども……それに……
「恋愛対象でも無いっていうのは意外だったなぁ……」
「ですよね? でも本当にそうなんですよ。俺が伊緒奈の事を許嫁だと言っていたのには理由がありまして……ご存じのようにあいつはお嬢様で世間の事をあまり知らないところがあったんです。それに今でこそコミュ力高いですけど小さい頃は大人しくて引っ込み思案でしたし……俺達、幼馴染組くらいしか友達もいなかったんですよ」
「そうなんだ……」
「それで当時、俺が思ったのはこのままだと伊緒奈は恋愛もできなければ、将来、結婚なんてできる訳が無いと思い、グループの中で唯一、男子だった俺が伊緒奈の面倒を一生みないといけないという使命感から伊緒奈に無理矢理、お前は俺の許嫁だと宣言してしまいまして……」
そういういきさつがあったのか。やはり色々と話を聞いてみないと分からない事って多いんだなぁ……それに話を聞く限り、直人って強引なところはあるけど、伊緒奈思いの良い奴じゃないか。カッコイイとまで思ってしまう。
「直人……お前、カッコイイやつだな……」
「えーっ? そ、そんな俺なんてカッコよく無いですよ!! 颯さんの方が俺の百倍カッコイイですから!!」
俺のどこをどう見て百倍カッコイイなんて言えるんだ??
いずれにしても俺は直人の事をずっとヘタレ野郎だと思っていたけど、そうでは無かったって事が分かって嬉しかった。
あ、そうだ。
ついでにこれも聞いてみようかな?
「ところで、伊緒奈が恋愛対象では無いって事はよく分かったけど、それじゃぁ直人が本当に恋愛対象になる子っていうのはいるのかい? 簡単に言えば好きな子だけど……」
「へっ、す、す、好きな子ですか!!??」
何か凄い驚き方をしたんだけど……
「もしかしているんだな?」
「い、い、い、いや……そんな子はいませんよ!!」
「本当かぁ?」
めちゃくちゃ動揺しているじゃないか?
俺もこの前、天海さんにその手の事を聞かれて動揺したけどな。
「な、な、何なんですか、颯さん!? 今日は珍しくグイグイきますね!?」
「まぁ、いないのなら別にいいんだけど……」
「でも、颯さんの嘘をつくわけにはいきませんね」
え? やはり好きな子がいるのか!?
「ここだけの話ですよ。絶対に他の人には言わないでくださいね!?」
「も、勿論だよ。誰にも言わないよ」
誰何だろ? なんか俺の方がドキドキしてきたぞ。
「俺が好きなのは……小柄な子なんですけど……」
「ほぉ、小柄で……」
ってか、伊緒奈も小柄な方だけど……
「それで性格は少し気が強くてですねぇ……」
ん? 気が強い?
それは意外だな?
伊緒奈は気が強いというよりも芯が強いって感じだもんな。
「ほぉ、気が強くて??」
「見た目と違って力もあって……」
見た目と違って力もある?
直人の好きなタイプってちょっとだけ変わっている様な……
「そろそろ名前を教えてくれないか?」
「は、はい……じ、実は俺が好きなのは……」
「こらーっ、直人!! 何をさっきから颯さんの邪魔をしているのよ!? ちゃんと選挙活動しなさいよ!!」
太鳳かよ!?
急に大声で怒鳴るからビックリしたじゃないか。
「いや、太鳳……俺の方が直人の邪魔をしていたようなものなんだよ。ゴメン……」
「颯さんが謝る必要はありません!! 悪いのは直人に決まっているんですから!!」
「太鳳、お前は相変わらず失礼な女だな!!」
「何が失礼よ!? いつも直人が迷惑をかけているから、疑われるんじゃないの!!」
「でも太鳳、今回は本当に俺が直人に色々と話かけていたんだよ。だから直人は全然、悪くないから……」
「ほんと颯さんは誰にでも優しいですよね? でもまぁ、そういうところが素敵なんですけど、その優しさを利用する輩もいますのでどうか気を付けてくださいね?」
太鳳って直人にはめちゃくちゃ厳しいよなぁ?
「はぁ……ハイハイ、分かりました。俺がその輩ですよぉ……颯さんの邪魔をして申し訳ございませんでしたぁ……」
直人も太鳳に反論すれば余計に面倒だから仕方無しに認めてしまったぞ。
「そうよ。最初から素直に謝れば私は颯さんの前で怒った顔を見せなくて済んだのにさぁ……まぁ、いいわ。という事で直人は今から校門前でチラシ配りをしている知由と八雲と交代してちょうだい? 私は体育館前にいる華子と交代してくるから!! 頼むわよ、直人!?」
太鳳はそう言うと足早に体育館へと向かって行った。
「直人、ゴメンよ……後で太鳳にはちゃんと説明しておくから」
「ハハハ、謝らないでください。それに太鳳に説明する必要も無いですから……まぁ、俺は慣れていますので……」
「で、でもさぁ……」
「大丈夫です。昔から太鳳はあんな感じですから……し、しかしマジで太鳳はチビのくせに子供の頃から気は強いし、力も男の俺よりもはるかに強いから怖くて逆らえないんですよねぇ……ハハハ……」
直人、笑っている場合じゃないだろ?
ん?
あーっ!?
直人が好きな女の子って……もしかして……
なるほどな……そういう事だったんだな……
頑張れ、直人……
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