第170話 伊緒奈からの依頼
選挙戦もあっという間に半ばが過ぎ、各陣営は大いに盛り上がっていた。
そんな中、伊緒奈との協力関係を宣言した魔冬が校門前で生徒達に声をかけている。
「皆さん、徳川さんに清き一票をよろしくお願い致します!! 彼女はとても誠実で優しい女性です。きっとこれからの学園生活を今以上に楽しいものにしてくれますよ!!」
あの魔冬が伊緒奈の事を褒めているのって凄く違和感があるけども……
「伊達さんが味方についてくれたのは大きいですよねぇ?」
太鳳が嬉しそうに言っているけど、その通りだよな。
魔冬は一年を二分する人気者だし、そんな魔冬が伊緒奈の応援をしているんだから、魔冬推しだった生徒達も皆、伊緒奈に票を入れてくれるかもしれないもんな。
俺がそんな事を考えていると横にいる魔冬の従妹の伊達忍さんが小声でこう呟いた。
「魔冬って上に立つよりも誰かの補佐をする方が向いているのかもしれないわね……」
「え?」
俺が思わず忍さんの方を見てしまった。すると忍さんはニコッと微笑みながら俺の顔を見ると付け加えてこう言った。
「本当は竹中君の補佐を彼女としてやりたいんだとは思うんだけどね」
「ハ、ハハハ……」
俺は笑うしかなかった。
「ところで応援演説は誰がするのか決まっているの?」
忍さんの横にいる片倉さんがそう聞いてきた。
「い、いえ……まだ誰がするのかは決まっていないと思いますが……」
「へぇ、そうなんだ。それじゃぁ、竹中君が応援演説をしたらどう?」
「えーっ!? 俺が応援演説なんてできる訳無いじゃないですか!! 俺は人前に出るのがめちゃくちゃ苦手ですし、話をするのも苦手なので……」
冗談じゃないぞ。俺なんかが伊緒奈の応援演説なんてしたら勝てるものも勝てなくなってしまうぞ。
「颯さん!! 俺は颯さんが応援演説をされるのは大賛成ですよ!!」
「私もです!!」
黙れ、直人に太鳳!!
「ハハハ、竹中君、半分冗談だから気にしないでちょうだい」
ってことは半分本気ってことじゃないか。
「竹中センパーイ!!」
ギュッ!!
「うわっ、美月!? な、なんだよ、急に抱きついてくるんじゃないよ!!」
突然、美月が佳乃と千夏と一緒に現れた。
「こらこら美月ちゃん、いきなり颯君に抱きつかないでください。何故、あなたはいつも私がやりたいことを躊躇なくできるのですか?」
「フフフ……それは後輩の特権だからですよぉぉ」
そんな特権、いつできたんだ!?
「美月っち、そんな特権なんて無いっつーの!! だいたいあんたは最近現れた新参者なんだしぃ、少しは遠慮しろっつーの!!」
いや、千夏も佳乃も俺達から見れば新参者みたいな感じだけどな。
「遠慮なんてしていたら竹中先輩と付き合うなんて夢のまた夢じゃないですかぁ? 私はそんなのは嫌ですよぉ。せっかく好きになったんですからとことん攻めていかないとぉ」
しかし美月は俺に告白してきた最後の女子だけど、一番グイグイ押して来るよな!?
それでいて陽菜さんの応援をしているんだから良い根性をしているというか……でも、そんな美月を許している陽菜さんの方が良い根性をしているというか、心が広いというか、めちゃくちゃ凄い人なんだとは思うけども……
「ところであなた達は羽柴さんの応援に行かなくていいの?」
太鳳が少し不機嫌そうな顔をしながら三人に聞いている。
「はい、私達三人には羽柴先輩から特別な依頼がありまして……というか、美月ちゃん、いい加減、颯君から離れなさい!!」
特別な依頼?
「特別な依頼って何なの?」
「太鳳っち、あんた達に特別な依頼の内容をいう訳ないっつーの!! ってか、美月っち、今、よしのんが言っただろ!? 早く颯っちから離れろっつーの!!」
太鳳っち? いつの間にそう呼ぶようになったんだ?
「嫌だモーン!! 離れないモーン!!」
いや、マジで離れてくれ。俺も嫌だモーン!!
「そんな事よりも、私達が羽柴先輩に依頼された内容を皆さんに教えても別に構わないんじゃないですかぁ? どうせ失敗してしまつたんですしぃ……私達は織田先輩を応援するはずだった毛利先輩と武田先輩、そして直江先輩が立候補を辞退されたので上杉先輩とも同盟を結びに行ったんですよぉ……」
「 「 「な、何ですってーっ!?」 」 」
やはり陽菜さんはそう出たか。
「あれ? 皆さん、そんなに驚く様な事を私、言いましたかぁ? 普通はそういう作戦って考えますよねぇ? でもまぁ、安心してください。皆さんには拒否られちゃいましたので」
三人共、同盟を断ったのか……ってことは……
「美月ちゃん、皆さんに言ってしまいましたねぇ……羽柴先輩に叱られても知りませんよ?」
「ハハハ、大丈夫ですって」
「これはチャンスね。三人が羽柴さんとの同盟を断ったということは徳川さんと同盟を結ぶってことになるんだから」
うん、片倉さんの言う通りだ。まぁ、三人共、俺に対して熱が冷めたのなら話は別になるのだけども……それよりも肝心の陽菜さんの方が俺に対しての想いが薄れて今は俊哉の方に気持ちが向いていると推測しているんだけどな。
「ちょっとぉぉ、みんな何をサボっているの? 私だけに声掛けさせないでよ?」
魔冬が頬を膨らませながら俺達に言ってきた。
「ゴメンゴメン、魔冬。私達もちゃんとするから怒らないでよぉ」
「お願いよ? 特に小町ちゃんは二年生の票を集めるのに大切な役回りなんだからね?」
「分かった、分かった、今から私も声掛けをしてくるから……」
「わ、私も小町ちゃんと一緒に行くわ」
「私も頑張ります!!」
「まぁ、俺も行ってくるか……」
片倉さんと忍さん、そして太鳳と直人は慌てて魔冬が立っていた場所に行き、四人で伊緒奈の応援呼びかけを始めるのだった。
すると中庭の方で演説をしていた伊緒奈が一緒に行っていた知由、八雲、華子、そして支倉さんと共に戻って来た。
「みんな、お疲れさまぁ……魔冬もありがとね?」
「ううん、気にしないで伊緒奈……これは私の為でもあるのだから」
「フフフ……そうだね」
ん? 今、二人共、下の名前で呼び合っていなかったか?
「颯君、ちょうど良かったわ」
「え?」
「実は折り入ってお願いがあるの」
「え、俺にお願い?」
「うん、そうなの。実はね、投票前日に行われる応援演説を是非、颯君にやってもらいたいなぁと思って……それと石田さん、あなた、颯君に何で抱き着いているの? 今直ぐ離れなさい」
「えーっ!? お、俺が伊緒奈の応援演説を!? む、無理無理無理!! 俺の様な人前に出るのが苦手な奴が応援演説だなんて絶対に無理だから!!」
さっきの片倉さんとの会話が伏線みたいになっているじゃないか!!
「竹中センパーイ!! 私、先輩の応援演説楽しみにしてますねぇ?」
「は、颯君……あなたの応援演説の内容によっては羽柴先輩を裏切ってしまいそうです……」
「颯っち!! まぁ、頑張れっつーの!! あーしはあんたを全面的に応援するっつーの!!」
お、お前等、俺が応援演説をする前提で何を好き勝手なこと言っているんだよっ!?
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