第145話 黒田かなえの真実➁
「さぁ、そろそろ本題に入りましょうかぁ?」
「え? は、はい……そうですね……」
徐々に何だったんだろうか? でも話を変えられた感があるから聞きづらいよな?
「竹中君から何か私に聞きたい事はあるかしらぁ?」
よし、やはり最初に疑問に思った事を聞いてみよう。
「は、はい……まずは何故、黒田先生は年齢を誤魔化したり、変装をしたり、それに偽名までつかって俺の家庭教師になったのですか? 別に隠す必要なんて無かったと思うんですが……」
そうなんだ。俺はそこを聞きたかったんだ。
何故、本当の事を隠す必要があったのかを……
「そうねぇ……まず、その質問に答える前に何故、私が竹中君の家庭教師をする事になったのかを説明させてもらってもいいかしら?」
「え? あ、はい……それはいいですけど……」
また話を変えるつもりなのかな……?
「マーサから聞いている通り、当時の私は高校三年生で生徒会長をやっていたの。その年の六月頃から竹中君の家庭教師をするのだけど……家庭教師をする数ヶ月前、三月の春休み前でまだ私がギリギリ二年生の時だったかなぁ……ある人が私を訪ねて来たの……」
ある人? 誰の事だろう?
「で、その人から突然、頼まれたのよねぇ……竹中君の家庭教師になってほしいってってね……」
えっ!? その謎の人が俺の家庭教師を黒田先生に頼んだのか!?
何故、その人は俺の為にわざわざ黒田先生にそんな事を……
「あ、あのぉ……? ある人って一体誰何ですか!? 俺が知っている人ですか? それとも黒田先生が前から知っている人なんでしょうか? あ、もしかして伊緒奈と一緒に陰から俺の事を見守っている人の事でしょうか!?」
「伊緒奈と一緒に? ああ、徳川さんの事ね? うーん、ゴメンねぇ、今はまだ『ある人』の事は言えないのよ。口止めされているからねぇ……でも時期が来たら絶対にその人から竹中君の前に現れるって言っているし……だからその時期が来るまで待っていてくれないかなぁ?」
その人から俺の前に現れる?
その時期が来るまで?
「その時期って何ですか? 俺が気付く様な時期が来るんですか?」
「そうね。気付くというか、もう、その時期はかなり近づいて来ているかもね。だから焦らなくてもいいわよ。そのまま『普通の学園生活』をおくってくれれば良いと思うわ」
今の俺って『普通の学園生活』をおくっているのか?
俺が思い描いていたのと真逆だし凄く違和感を感じているんだが……でも……
「わ、分かりました……それに関しては詮索しない様に努力します……では、何故、俺の家庭教師をするにあたり、年齢を誤魔化したり変装したり、偽名まで使ったんですか? そろそろ教えてください?」
「フフフ……まぁ、本当はそこまでしなくても良かったのかもしれないけど、今の時代ってさ、凄い情報化社会でしょ? どこでどう情報が洩れるか分からないし、私の素性から依頼してきた人の事を知られるかもしれないし……」
「知られるとマズいのですか?」
「そうだね。もし、その人の事が竹中君に知られちゃったら、あの頃のあなたは仙石学園中等部を受験していなかったかもしれないから……」
へ? あの頃の俺がその人の正体を知れば仙石学園中等部を受験していないかもしれないって?
どういう事だろう?
俺が嫌っている人なのか? いや、それは無いだろう。
って、詮索するのは止めるんだった……
「それに私もいくら生徒会長とはいえ、学園内には生徒だけではなく教師にも『敵対勢力』はいたからねぇ……『目的を達成』する前に邪魔をされては困るし、念には念をって事で……」
『目的を達成』? 『敵対勢力』?
黒田先生の目的って……
「俺がその人の事を知れば受験していないっていうのはどういう意味か分かりませんが、逆に言えば俺が仙石学園中等部を受験するありきで家庭教師を引き受けてくれたという事ですよね? それに先生の目的っていうのは……」
「まぁ、そういう事だねぇ。竹中君には仙石学園を受験してもらわないといけなかったの。それがその人の願いでもあったから……」
その人は仙石学園の関係者なのだろうか?
「その人が私を訪ねて来た理由、私に竹中君の家庭教師になって欲しいとお願いしてきた理由……どうも私が考えた学園内のイジメを無くす方法をどこからか知ったみたいでね、その方法に共感してくれたのよ」
そ、その方法が『人気投票制度』だってことなのか……
「それと不思議な事に今までイジメ問題に何も努力をせずにいた当時の理事長や学園長が突然解任されたかと思えば、急に四月から中高共に共学になったり……それに夏休み明けにはイジメの主犯格だと思われる数名の生徒が退学になっていたり……この時期は本当に不思議だったわぁ……」
なんか、黒田先生にとって凄く好都合な流れになったんだな!?
というか、この出来事を不思議な事で片付けていいのか?
第三者から見れば凄く不自然な出来事なんだけども……
「そして私が提案した『人気投票制度』は誰にも反対されず、あっさり採用される事になったの……」
「そして今もその制度が続いていて、その人気投票制度のお陰で学園には酷いイジメが無いんですね?」
「まぁ、そういうことになっているわねぇ……私としてはとても喜ばしい事だし、そんな学園に竹中君が通ってくれている事が私にとっては幸せだわ。あの時、頑張って家庭教師をやった甲斐があったわぁ」
「でも、俺のせいで黒田先生の妹さん……マーサさんがお姉ちゃんに全然、勉強を教えてもらえなかったって言っていましたけど……それを聞いてなんか申し訳なくて」
「そうだねぇ……あの子には悪い事をしたと思っているわ。でもあの頃は私の妹だし、私が勉強を教えなくても大丈夫だろうって思っていたのよ。でも……まさかあんなにバカだったなんて……ほんとビックリしたわ。まぁ、ギリギリでも仙石学園に入学できたから良かったけどねぇ……」
あ、あんなにバカって言っても大丈夫なのか!?
扉越しにマーサさん、立ち聞きしていないだろうな!?
その後、俺と黒田先生は当時の懐かしい話をたくさんすることに。
そして俺の休憩時間はあっという間に終わるのだが最後に黒田先生が一言……
「よしっ、先生も学生時代に戻って今日から徳川さんのお家で合宿するわぁ!!」
「え、えーーーっ!!??」
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