第142話 織田乃恵瑠の不安

 伊緒奈の家での合同合宿初日は無事に終わり魔冬達と一緒に帰りの電車に乗っている。


 さすがに魔冬以外のメンバーは初めての仕事という事で疲れ果てて眠っていた。


「みんなかなり疲れたみたいだね? 凄く気持ち良さそうに眠っているし……魔冬は大丈夫なのかい?」


「ウフッ、颯君、心配してくれてありがとね? でも私は全然、大丈夫だし、せっかく颯君に密着しながら座っているのに眠るなんて勿体ないわ」


「へ?」


 俺は魔冬のセリフが恥ずかしくて顔を横に向けてしまったけど、魔冬は気にせずに話を続ける。


「でも今日は颯君がヤンキー達をボコボコにするところを見れなくて残念だったなぁ……やっぱり颯君は私が思っていた通り、陰キャオタクのフリをしていたのね?」


「いや、別にボコボコにした訳じゃないし、それに俺は本当に陰キャオタクだよ。魔冬の思い違いだよ……」


「フフフ……まぁ、そういう事にしておくわ……」


『仙石中央、仙石中央でーす。出口は左側でーす』


「あ、それじゃぁ俺はここで。また明日よろしく」


「うん、お疲れ様。また明日ね」



 プシューッ


「はぁ……」


「ちょっとぉ、魔冬~!?」


「えっ? ビックリした!! こ、小町ちゃん起きていたの!?」


「起きていたのじゃないわよぉ。せっかく私達、寝たふりをしていたのにさぁ、もう少し竹中君にグイグイ迫らないといけないじゃない!!」


「そうですよぉ魔冬さん。逆に竹中さんの膝の上で寝ちゃっても良かったくらいですよ」


「つ、蕾ちゃん、大胆な事を言うわね?」


「ほんと二人の言う通りだぞ、魔冬!! 竹中君が座席から立ち上がる瞬間に頬にキスするとか色々と出来ることあるじゃない!? せっかく眠気を我慢していたのにさ……」


 忍ちゃん、我慢せずに寝れば良かったのに……


「いずれにしても魔冬は竹中君の前では余裕のある女を演じているけどさ、本当のあんたは『奥手』で『恋愛無知』なんだから、もっと積極的に行かないとライバル達には勝てないわよ」


「わ、分かっているけど……今でも結構、積極的だと思うんだけどなぁ……でも、明日は今日よりもっと積極的に頑張ってみるわ」


「明日は私達も魔冬が竹中君と一緒に行動できる様に協力するからね!!」


「そうですね。その為に魔冬さんは私達に臨時バイトを依頼されたのでしょうし……」


「み、みんな……ありがとね……」


―――――――――――――――――――



「ただいまぁ……はぁ、疲れたぁ……」


「おかえり、颯。今日はいつも以上に疲れた顔をしているわね?」


「母さん、ただいま……そうだねぇ……今日はマジで色々とあったからさ……あれ? 詩音はどうしたんだい? いつもなら一番に出迎えてくれるのに」


 母さんの出迎えも嬉しいけど、やはり詩音が笑顔で出迎えてくれた方が疲れが吹っ飛ぶんだけどななぁ……


「ああ、詩音は今日、乃恵瑠ちゃんのおうちでお泊りよ」


「えーっ!? ま、マジで!?」


 俺の知らないところで乃恵瑠さんはガンガン行動に出ているよな!?


 でも、そんなに詩音と親しくなったからといって俺と乃恵瑠さんが付き合うという事は無いんだけどなぁ……何故、そこまでして詩音に近づくんだろうか?


 もしかして乃恵瑠さんは俺がシスコンで詩音の言う事は何でも聞くとでも思っているのかもしれないぞ。


 お、俺はシスコンじゃねぇし!!


 ただ、詩音が可愛くて、可愛くて仕方がないだけだが、何か?



「詩音が言うには先日家に遊びに来てくれた武田さんと毛利さんも一緒にお泊りらしいわよ」


「更にえーっ!! としか言いようが無いぞ!!」


 マジであの三人は同盟を組む気なのか!?


「フフ、変な子ねぇ? 別にそこまで驚くこと無いじゃない? 逆に颯の知り合いの子達と詩音が仲良くなるんてお母さんは嬉しいなぁ……それに詩音は来年、本気で仙石学園高等部の外部受験を受けるみたいだし、もしかしたら彼女達に勉強を教えてもらっているかもしれないわよ」


 そうなのかぁ……詩音は本当にうちの学園に外部入学するつもりなんだな。


 しかし学園のトップクラスの三人に勉強を教えてもらえるとしたら、それは凄い事だよな?


 本当は俺だって教えて欲しいくらいだよ。


 ガチャッ

 

「ただいま~!!」


「あ、父さん、おかえり……はぁ……」


「あなた、おかえりさ~い!!」


「ハハハ、親子で対照的なお出迎えだな? しかし日美子の元気な顔を見ると仕事の疲れが一気に吹っ飛んでしまうよ!! ハッハッハッハ!!」


 さっき俺が心の中で思った事をいとも簡単に口に出せる父さんはある意味凄いよな?


 まぁ、そのお陰でうちの両親は俺や詩音が呆れるくらいにいつもラブラブだからな。


 家庭円満、夫婦円満の秘訣なのかもしれないけど、俺には絶対にマネ出来ないぞ。


「あなた、お食事はどうする? 時間も時間だからもう食べてきたのかしら?」


「いや、食べてないよ。俺は日美子の作った料理しか食べないって決めているからね!!」


 嘘つけ!! 前にファミレスで夕飯を食べていたじゃないか?

 それも俺がいない時に……


 しかしマジで疲れたな。合宿初日だというのにマーサさんから黒田先生について衝撃的な話を聞かされたのを皮切りに森蘭子達との再会、そしてケイトさん達の合宿参加……


 初日で色々と有り過ぎだろ!?


 はぁ……明日も今日に負けないくらいに何かと巻き起こるのだろうか?


「颯、どうだ? 久しぶりに父さんと一緒に風呂に入らないか?」


「えっ、い……嫌だよ、恥ずかしいいじゃないか?」


「はぁあ? 男同士で恥ずかしいって何を言っているんだ!? ハハハ、まぁいっか。それじゃぁ、日美子、久しぶりに一緒に風呂入ろうか?」


「ウフッ、あなたったらもう……OK、入りましょう♡」


「む、息子の前でいちゃつくなよな!!」


―――――――――――――――――――


 【乃恵瑠の部屋にて・乃恵瑠視点】



 ピコンッ


「あ、ラインだわ……」


 誰かしら……


 えっ!? 蘭子からだわ。こんな時間に何かしら?


「……えっ!?」


 ま、まさか蘭子が颯君と再会しただなんて……


「どうされたんですか、織田先輩?」


「い、いえ、何でも無いわよ、詩音ちゃん……」


「でも急に顔色が悪くなった感じがするんだけど大丈夫なの?」


「え? ええ、大丈夫ですよ、武田さん……」


「ホントに~? 全然、大丈夫な感じじゃないわよ~」


「も、毛利さんまで何を言っているんですかぁ? 私は全然、大丈夫です。それよりも今夜は『女子会』なんですから、早くこないだまで大学生とお付き合いしていたお話を聞かせてくださいよぉ?」


「あ、そうよね!! 私もその件については全然、知らないから興味あるわ!! 茂香、早く話してよ!?」


「わ、私も今後の参考に聞きたいです」


「えぇ、どうしよっかなぁ……でも今から話す内容は絶対に颯君には言わないでよね~? 刺激が強いかもしれないし……っていうか中学生の詩音ちゃんが最後まで私の話を聞けるのかしら~?」


「えっ、そんなに刺激が強いんですか!? す、少し不安になってきました……」


 不安……そう、蘭子からのラインを見て私の中で不安が一気に膨れ上がってしまった……


 蘭子は颯君とまともに会話はしていないみたいだけど、昔から颯君の事が好きだった蘭子の事だから颯君に『本当の事』を言う可能性が……

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