第140話  颯、無双

「た、竹中君?」

「た、竹中、何しに来たんだよ!? お前が俺達を助ける理由なんて無いだろ!?」


「え? 今、竹中って言わなかった?」


「助ける理由はあるよ。同じ学校の人間を助けるのは普通だろ?」


「うっ!!」「た、竹中君……」



「お前等、何をごちゃごちゃ言ってやがる!? 瓶底メガネも謝るなら今のうちだぜ!? まぁ、謝ってもボコボコにはするけどよ!!」


「ちょっと、アンタ達……こいつ……いえ、この子の名前、竹中って……」


「はぁあ? うるせぇよ、蘭子!! 竹中がどうした!? そんなの関係ねぇんだよ!!」



「おい、竹中……もう直ぐ姉貴が来るから……姉貴はめちゃくちゃ強いからさ……お前がこんな奴等と喧嘩なんかしなくても……」


「黙れ、上杉カイト……ケイトさんだって女性だぞ。もし顔に傷でもついたらどうするんだ? こういう時は男が頑張るもんだろ?」


「うぅ……」


「ちょっと、カイト? 何だかいつもの竹中君じゃ無い感じがするんだけど……」




 【石田美月サイド・美月視点】


 な、何? 今から喧嘩が始まるの?


 それも竹中先輩一人で数名のヤンキーを相手にするの?


 無理無理無理!! あんな弱そうな竹中先輩に勝ち目なんて……でも私には何も出来なし……


「私が竹中君を助けに行きましょうか? いえ、助けたいし、守りたい!!」


「え? でも島津先輩は……」


「そうだぞ、よしのん!! あんたは空手の黒帯なんだしぃ、もし素人相手に喧嘩なんてしてしまったら大会とかに出れなくなるんじゃないかっつーの!?」


「フフフ……バレなかったら大丈夫でしょう?」


「 「イヤイヤイヤッ!! バレない保証は無いし!!」 」



―――――――――――――――――――



 なんか今の感情、あの時に似ているよなぁ……


 そう、神影が森達にイジメられて涙を流した時に沸いてきた感情と同じだ。


 本当は目立つようなことはしたくなかったけど、今だけ……今だけ『あの頃の俺』に戻らせてもらう。


「うりゃぁ、覚悟しろーっ!!」


 バシンッ


「何だと!? 俺のパンチを受け止めただと!?」


 ブンッ


「うわっ!!」


「か、軽く投げ飛ばされたぞ!? な、何だこいつは!? すげぇバカ力だ!!」


 やはり、こいつ等は昔のままだな?


 めちゃくちゃ弱い。


「ふ、二人同時に殴りかかろうぜ!?」

「おう!! そ、そうだな」



「あ、アンタ達……もう止めた方が……だってその人は……」


「 「うりゃーっ!!」 」


 バシッ バシッ


「何!? 二人同時のパンチまで受け止められただと!?」


「お前等、覚悟はいいか? 俺のパンチはめちゃくちゃ痛いぞ?」


「 「へ?」 」


 バッコーン!! ボッコーン!!


「 「ウギャーッ!!」 」


 バタンッ バタンッ


「 「うげぇ……」 」


「お前等、大丈夫か!? つっ、俺も投げ飛ばせれたから背中が痛い……」


「おい、どうする? まだやるか?」


「ヒエッ!!」



「な、何だ竹中の奴、めちゃくちゃ強いじゃないか……」


「カイト? わ、私……何故、武田先輩が竹中君に一目ぼれしたのか、何となく分かった気がするわ……」


「え? カノンちゃん、もしかして……」



「ご、ゴメンなさい!! もう喧嘩はしないし、カツアゲもやりませんから許してください!!」


 フンッ、やはりこいつ等は昔のままだな。

 格好だけで中身は弱虫のままだ。


「それじゃぁ、とっとと、倒れている奴等を連れてここから消えろ」


「は、はい、分かりました!! すみませんでした!! 蘭子、行くぞ!? お前はもう一人を頼む!!」



「た、竹中君? あなた竹中颯君なんでしょ……?」


「・・・・・・」


「えっ!? 竹中颯って……小学生の頃、一緒のクラスだった、あの竹中颯なのか!?」


「だからさっき言ったじゃない? 本当にあの竹中君なら、アンタらが勝てるはずないんだし……」


「マ、マジかよ……そんな瓶底メガネをしているから全然、気付かなかった……でも言われてみるとあの喧嘩の仕方は昔の颯と変わっていない気がする……」


「気安く俺の下の名前を呼ぶんじゃねぇよ。今後、仙石学園の生徒に手を出したら今度こそお前達を潰すから、覚悟しておけよ。俺は色々な意味で昔の俺じゃないんだからな」


 そう、今の俺は『陰キャオタク』だからな。

 俺の平穏をこんな奴等に邪魔されたくないんだよ。


「ヒエッ!! わ、分かった……絶対に手を出さねぇ……」


「竹中君……?」


「俺に話しかけるな、森蘭子!! 俺はお前の事は絶対に許さない。何も悪く無い神影を毎日毎日、イジメていたお前の事はな!!」


「ち、違うの、私の話を聞いて!?」


「は? 何が違うんだ!?」


 何が違うっていうんだ!? 俺は何度も森蘭子が中心になって神影をイジメているところを見ているんだ!!


「明智さんをイジメていたのは本当よ。でもそれはある人に頼まれて……それがエスカレートしちゃって小学生の私達には抑えることが出来なかったというか……それに私は昔から竹中君の事を……あ、さっき仙石学園って言っていたけど竹中君も通っているんでしょ? だったらその学園には……」


 ん? ある人に頼まれた……?



「竹中せんぱーい!!」


 ギューッ


「わっ、何だ!? ってか石田さん!? 何でこんなところに……っていうか、何で俺に抱き着くんだ!?」


「竹中先輩、めちゃくちゃカッコよかったです!! 先輩があんなにも喧嘩が強いだなんて驚きました!! 感動しました!! 惚れました!! 私と付き合ってください!!」


「は、はぁぁぁああ!? な、な、何を言っているんだ、石田さん? 君は俺の事をめちゃくちゃ嫌っていたじゃないか?」


 この短時間の間に何があったんだ?


「た、竹中君……まだ話が……」


「うるさい、このヤンキー女!! あっち行け!!」


「うっ!!」


「こらぁ、美月っち、あんたの気持ちはわかるけどさぁ、竹中君はあんただけのモノじゃないっつーの!!」


「そうですよ。この期間の竹中君は『みんなの竹中君』なんですから……」


「え!? 何で長曾我部さんや島津さんまでここにいるんだ? あ、もしかして今の喧嘩を見ていたのか?」


「見てたっつーの。さすがは私が惚れた男だよ。男三人相手に瞬殺だから私も驚いたし、惚れなおしたっつーの♡」


「私も助けに入ろうと思っていましたが、その前に決着がついてしまい驚いてしまいました。もしかしたら黒帯の私よりもお強いのでは?」


 あちゃーっ、まさか彼女達に見られていたとは不覚だったなぁ……


 っていうか、


「い、石田さん、そろそろ俺から離れてくれないかい? 暑いし、俺汗もかいているから匂いがするかもだし……」


「先輩の汗の匂いも素敵ですよぉぉ!!」


 何なんだ、この豹変ぶりは!?

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