第139話 十人目

 しかし、さっきの石田さんは何だったんだろう?


 マジで熱中症だったらマズいよな?


 陽菜さんに伝えた方がいいかもな?


「竹中君?」


「えっ? 何ですか、春日メイド長?」


「悪いけど、近くのコンビニで飲物を買ってきてくれないかしら? 今日はとても暑いから予想以上に皆さんの飲物を飲む量が多くて足らなくなるかもしれないのよ。とりあえず一人で持てる分だけでいいからお願いできるかしら?」


「はい、全然構いませんよ。それじゃ急いで買いに行ってきます!!」


 俺にとっては良い気分転換になりそうだな。


「ありがとね? それとこの封筒にお金が入っているからこれを使ってちょうだい?」


「分かりました」


「颯君、私も一緒に行こうか?」


「ありがとう、魔冬……でも、俺一人で大丈夫だと。それにこのバーベキュー会場を仕切れるのは魔冬しかいないしね? しばらくの間、頼むよ?」


「うん、分かった。気を付けて行ってね?」




「あれ? 伊達先輩、竹中先輩はどこに行かれたのですか?」


「え? ああ、竹中君なら近くのコンビニに飲物を買いに行ったわよ。っていうか、何故、石田さんが颯君の事を気にするのかしら?」


「別にいいじゃないですか? それよりも一人で飲物を持ち帰るのは大変でしょうから、私も行ってきます」


「は? 何を言っているの、石田さん? 合宿参加者のあなたが行かなくてもいいわよ。本来なら私達、メイドが一緒に行けばいいのだけど、颯君が大丈夫だって言うから行かなかっただけなんだし……」


「ハハハ、伊達先輩、そんな事は気になさらないでください!! 私はこの中でただ一人、中学生ですし、後輩がお手伝いするのは当然のことですから!! それでは行ってきます!!」


「ちょっと待ちなさい、石田さん!? って、あの子めちゃくちゃ足が速いわね……」


「どうしたの、伊達さん? 今、走って行った子って石田さんじゃなかった?」


「ああ、徳川さんか……ええ、そうよ。春日メイド長の指示で颯君が近くのコンビニに飲物を買いに行ったんだけど、何故か石田さんも後輩がお手伝いするのが当然だと言いながら颯君を追って行ったのよ」


「ふーん、あの石田さんがねぇ……あれだけ颯君の事を毛嫌いしていた石田さんがお手伝いをしようとするなんて珍しいわね? お天気大丈夫かな? 雨降らないかしら?」


「フフフ、そうよね? ほんと、石田さんの心境に何があったのかしら? でもまぁ、基本的に颯君の事を嫌っているだろうから変な事にはならないと思うけど……」


「そうね……石田さんが十人目ではないとは思うのだけど……」


「え? どういう事?」


「いえ、何でもないわ……こっちの話よ……」




 【徳川邸近くのコンビニ前】



 伊緒奈の家からコンビニまでめちゃくちゃ近くて助かったぞ。


 さて、何本くらいジュースを買おうか?


 というか俺は何本くらい持って帰れるかだよな?


 ん? 何かコンビニの駐車場で数人の男女が揉めているぞ。


 いや、あれは片方が絡まれている感じだな。


 ってか、絡まれている方の二人組って……



「何で私達があなた達にお金を渡さないといけないのよ!?」

「そうだよ!! 俺達がお前達に金を渡す必要なんて無いだろ!?」


 私服だから分かりづらいけど、どう見ても直江カノンさんとケイトさんの弟のカイトじゃないか。


 それと二人に絡んでいる奴等も見覚えのある顔のような……


「あんた達、綺麗な顔をしているわね? もしかしてハーフなの? 私達の言う事を聞かなくていいのかなぁ? 綺麗な顔に傷がついちゃうかもしれないわよぉ?」


「そうだぞぉ、お前等!! 蘭子が優しく言っているうちに大人しく金を出せば何もしねぇからさぁ……」


 あっ、あのヤンキー女!!


 小四の時、同じクラスだった森蘭子だ。


 そして神影をイジメていた中心人物……


 ドクン ドクン ドクン


 それに他の男子ヤンキー達も小四の途中まで俺と友達だったはずの奴等……そして俺が学校に行けなくなったキッカケを作った奴等……


 しばらく見ない間にあんなヤンキーになっていたのか。


 ドクン ドクン ドクン


 マジ、ダセぇな……



 ボコンッ


「ウグッ!!」「キャーッ!!」


「ほら、どうすんだよ? 次は腹じゃなくて綺麗な顔を殴っちゃうぞぉ?」


「カッ、カイト、大丈夫!?」


「うぅぅ……大丈夫……じゃない……っていうかカノンさん、本当は強いのに猫被ってないか?」


「か、被ってなんかいないわよ!! 私が強いのは腕相撲だけで、喧嘩なんてした事ないんだから……」


「お前等、何をごちゃごちゃ言ってやがる!?」


「ハッハッハッハ!! しかしダッセぇな、このイケメン野郎は!!」 


「ダセぇのはお前等だよ……」


 !!??


「 「 「はぁああ!? 誰だ、お前は!?」 」 」




 【石田美月視点】


 私、一体どうしたんだろう?


 手洗い場で竹中さんが顔を洗っている姿を見た途端に今まで感じた事の無い様な衝撃が身体中に走ってしまった。


 あの衝撃は何なの?


 それと同時に身体が熱くなり、竹中先輩を見れば更に身体が熱くなってしまう。


 バーベキュー会場に戻ってからも竹中先輩の事を目で追ってしまっている自分がいる。


 も、もしかしてこれって……


 恋なの?


 あれだけ嫌っていた竹中先輩の事を私は好きになってしまったというの!?


 信じられない。つい、さっきまで竹中先輩の事が大嫌いだったのに……


 でも、あのメガネを外した時の先輩の瞳を見た途端、私は先輩が本当に内面も素敵な人だという事が分かった感じがした。


 こうなると私の感情は抑えきれない。


 例え私の憧れの陽菜様が愛している人でも……


 それで、居ても立っても居られなくて竹中先輩を追いかけてコンビニ近くまで来たんだけど……


 何? コンビニの駐車場にヤンキーみたいな人達と竹中先輩が一触即発の雰囲気でいるんだけど……一体何があったというの!?


「おーい、美月っち、何でこんな所で立ち止まっているんだっつーの?」


「美月ちゃん、どうかされたのですか?」


「えっ!? 長曾我部先輩に島津先輩!? 先輩達こそ何でここにいるんですか!?」


「それはあんたの行動が不自然だったからさぁ、少し気になって付いて来たんだっつーの」


「千夏ちゃんの言う通りです。徳川さんが美月ちゃんは竹中君に付いて行ったと聞きまして……あれだけ毛嫌いしていた竹中君に付いて行くなんて違和感しか感じないですからね」


「……ですよね? そう思われても仕方がないですよね……」


「ん? 美月っち、どうしたんだっつーの? 元気が無いじゃないかっつーの」


「私……お二人が、いえ、陽菜様が竹中先輩の事が好きになった理由が分かった気がするんです……じ、実は……私も……」


「 「えーっ、まさか!?」 」


―――――――――――――――――――


「 「 「何だ、瓶底メガネ野郎!? この二人を助けようとでもしているのかなぁ?」 」 」


「はぁ……お前等、昔もクズだったけど、今はもっとクズになっていたんだな?」


「はぁああ、何だと!? 今、俺達の事をクズ呼ばわりしたよな!?」

「どの口が言っているんだ、オラッ!?」

「お前、ボコボコにされたいみたいだな!? ってか、お前から金を貰おうか!?」


「ちょっと待って? 今、こいつ昔もって言わなかった? それにこの声に聞き覚えが……」


「うるせぇよ、蘭子!! 俺達はまずこいつをボコボコにしないと気が済まねぇんだよ!!」


 ドクン ドクン ドクン


 メガネを外した方がいいかな? 壊れたら困るし……


 でも、こいつ等相手なら壊れる心配も無いか……

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