第137話 伝説の生徒会長

 俺は春日さんに頼まれた用事をすっかり忘れ、黒田マーサさんと一緒にリビングにいる。


「竹中君がどこまで知っているのか、どこまでお話してもいいのか、よく分からないから、君の反応を見ながら話すわね?」


 なんか大袈裟な言い方だな?


「もしかして陽菜さんも知らない様な話もあるんですか?」


「うーん、どうかな? 私が話していない事でも陽菜は知っている事もあるからねぇ……あの子、学園内の情報網が凄いから……」


 だよな。きっと今回の合宿を受けたのも伊緒奈が言う事を聞かざる負えない様な情報を知っているからだろうし……


「それで黒田さんは何で元気が無いんですか?」


「それは……簡単に言うとお姉ちゃんに対し負い目があるからかな? これは今に始まった事じゃないのよ。小学生の頃からなの。まぁ、いつも負い目を感じている訳ではないけど、今日みたいに黒田かなえが私の姉だと知られてしまった時にこんな感じになってしまうんだよねぇ……」


「前に黒田先生から聞いたんですが元生徒会長だったらしいですね? それで当時の先生達はお世話になったからといって新人教師の黒田先生の手伝いを結構されていたんですが、そんなに黒田先生って凄い人なんですか?」


 俺からすれば、ただセクシーで軽いだけの先生に見えるんだが……


「へぇ、お姉ちゃん、竹中君に自分が生徒会長だったって話したんだ……じゃぁ、今の仙石学園高等部で唯一、三年間、毎回のテストで全教科満点を取った『伝説の生徒』で、今の『人気投票制度』を提案した『伝説の生徒会長』だというのは知っているのかな?」


「えーっ!? そ、そうなんですか!?」


「あれ? そこまでの話はしてなかったんだ……」


 いや、マジで驚いたっていうよりもビビってしまったぞ!!


 三年間通じて全教科満点って……

 

 そんな天才が何で普通に高校教師をやっているんだ?

 他にもっとその天才ぶりを発揮できる仕事があるんじゃないのか?


 それに前に聞いた事があるけど、昔の仙石学園は『イジメ』が頻繁に問題になっていた学園だったけど、ある時、当時の生徒会長の提案で『人気投票制度』を導入した途端に学年から『イジメ』が減少していったって……


 その提案者も黒田先生だったのか!?


 いや、そりゃぁ、『伝説の生徒』『伝説の生徒会長』って呼ばれても不思議じゃないよな!?


 だから当時、『イジメ問題』で頭を悩ませていた先生達が『人気投票制度』を提案し、それを成功させた黒田先生に恩を感じているんだな?


 これで腑に落ちたぞ。


「驚きましたよ。黒田先生って見かけによらず凄い人だったんですね?」


「見かけによらずってのは妹として少し引っかかるけど、まぁいいわ。でもアレよね? 竹中君はお姉ちゃんから詳しい事は何も聞いていないみたいだね?」


「え? ああ、そうですね」


「って事はまだ竹中君に『あの話』をしちゃいけないって事なのかしら? でも話さないと私が元気の無い理由……私がお姉ちゃんの事を心から好きになれない理由を説明できないし……」


 そう言えばそうだよな。

 今の話だけじゃ何故、黒田さんが元気が無いのか分からないよな。


 ってか、えっ? お姉ちゃんを好きになれない理由?


 黒田先生の事が嫌いなのか……?


「黒田さん、お願いします。理由を教えてもらえませんか?」


「ふぅ……分かったわ……」


 黒田さんは軽く深呼吸をした後、続きを話し出した。


「私ね、お姉ちゃんと違ってね、勉強があまりできないの」


「え? そうなんですか? でも仙石学園って中等部から入学するのもある程度、勉強が出来ないと入学するのは難しいと思うんですが……」


「だから私は奇跡的にギリギリ合格したんだよ。だから未だにそうだけど授業についていくのがやっとなの……」


 そうだったのかぁ……姉妹でも違うんだな?


 でも、勉強だったら天才のお姉さんに教えてもらえば……


「私が小六の頃、お姉ちゃんに『仙石学園中等部』を受験したいから勉強教えて? って、お願いしたの……」


「そ、そうですよね? 普通に考えれば天才のお姉さんに勉強を教えてもらえれば受験だって苦労しなくて済みますよね?」


「でも断られたの……」


「えっ?」


「お姉ちゃんは受験生の実の妹よりも、誰に頼まれたのかは分からないけど、当時まだ五年生だった全然、知らない男の子の家庭教師を選んだのよ!!」


「えっ!?」


 黒田先生も昔、家庭教師をやっていたんだ……


 そう言えば丁度、俺が家庭教師の白畑先生に勉強を教えてもらっていた時期と同じだけど……


「それも何故だか分からないけど、その男の子やご家族には自分は大学生だと嘘をついていたそうよ。それに家庭教師をする日は黒髪のカツラをかぶって瓶底メガネをして……私からすれば意味が分からなかったわ……」


 い、いや、ちょっと待ってくれ!!


 たしか前に服部さんが言ってたよな?


 白畑たまえ先生って実は高校三年生で大学生だと偽って俺の家庭教師をしていたって……


 ま、まさか……黒田先生が白畑先生……?


「黒田さん、白畑たまえって分かりますか……?」


「え? ああ、その名前ね……その名前はうちのお姉ちゃんがよく使っていたSNSのアカウント名よ。『黒田』に対して『白畑』、そして『かなえ』の続きで浮かぶ言葉って『たまえ』でしょ? だから『白畑たまえ』なのよ。っていうか、竹中君? ようやく気が付いたみたいだね? そうよ。あなたが小学生の頃に家庭教師をしてくれていた女性は私のお姉ちゃん、黒田かなえよ!!」


 ガーンッ


 そ、そんな……あの地味な白畑先生がド派手でエロい黒田先生と同一人物だなんて……


 というよりも、黒田先生が俺を仙石学園に入学できるレベルにしてくれた恩人だっただなんて……


 だから今まで黒田先生の俺に対する言動が何かしら微妙だったんだな?


 でも、何故今までそれを俺に隠していたんだろう?


 別に言ってくれても問題無いと思うんだが……


「お、お礼を言わないと……」


「だよね? 竹中君はお姉ちゃんに感謝しないとね。でも私はお姉ちゃんにほったらかしにされて勉強もなかなか前に進まず……あの頃の私はお姉ちゃんとあなたの事を恨んでいたわ……」


「す、すみません……」


「竹中君は別に悪く無いわ。私が勝手に嫉妬していただけだから……それに竹中君に話が出来て少しスッとしたしね」


「く、黒田さん……」


「あ、私の事はこれからマーサって呼んでくれないかな? お姉ちゃんも黒田だし、ややこしいしね?」


「わ、分かりました……マーサさん……」


 いずれにしても二学期になったら黒田先生に直接お礼を言わなくちゃいけないよな。


 他にも聞きたい事もあるしな……



「颯くーん、飲物まだなのーっ!?」


「あ、魔冬の声だ!!」


 ヤバい!!


 俺は春日メイド長に言われて飲物を取りに来たんだった!!

 



―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


『恋愛戦国』の謎の一つが判明!!

なんと颯が小学生の頃の家庭教師は黒田かなえ先生だった!!

そして彼女こそ学園に『人気投票制度』を提案した『伝説の生徒会長』

今後の颯の成長に大事な夏になりそうな予感がする……

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