第134話 臨時アルバイト集合

 きっと、彼女達だろうとは思っていたけど……


「こんにちは~来週から数日間、臨時バイトをさせていただく事になりました、片倉小町でーす」


支倉蕾はせくらつぼみです。どうぞよろしくお願い致します」


「私は伊達忍……」


「こらこら忍ちゃん? ちゃんと皆に挨拶しないとダメじゃない?」


「フン、何で私がこの人達に頭を下げないといけないのよ!?」


 うわぁ、相変わらず魔冬の従妹は不機嫌そうだな?


「ちょっとあなた!? そんな不機嫌そうな顔でメイドなんか務まらないわよ!?」


「チッ、あんた誰? あんたも私と同じで不機嫌そうな顔をしているじゃない?」


「私は伊緒奈さんの友人の一人、本多太鳳よ!! ってか、私は不機嫌そうな顔なんてしていないわよ!! この顔は生まれつきよ!!」


「ふーん、それはお気の毒ね……」


「な、なんですって!?」


「まぁまぁ、太鳳ちゃん落ち着いて。私の家で喧嘩はしないでね? せっかく私達が合宿の間にアルバイトをしてくださる方達なんだから」


「忍ちゃんもあまり威圧的な態度は止めてちょうだいね? じゃないと後で後悔することになるわよ」


「な、何よ、魔冬!? 別に私は威圧的な態度なんてしてないわよ!! それに後で後悔するってどういう意味よ!?」


「こういう事よ」


「えっ、だ、誰!?」


「見て分からないの? 私は来週の数日間、あなたの上司になる徳川邸メイド長の春日よ。数日であなたの腐った性根を叩き直してあげるから、覚悟してちょうだいね? フフフ……」


 か、春日さんのオーラ……半端ねぇ!!


「げっ!! ま、魔冬……私、こんな恐ろしい人が上司になるなんて聞いて無いわよ!!」


「うん、そうね。だって言って無いもん……」


 さすが春日メイド長だな。


 あれだけ粋がっていた伊達忍さんを一瞬にしてビビらせるんだからな。


「春日さん? 私の事もこの子達に紹介してくれないかい?」


「え? ああ、申し訳ありません、本多執事長」


「 「 「本多執事長?」 」 」


「あなた達、この方は徳川邸執事長の本多太久磨さんよ。小柄な方だけど、私よりはるかに強い人だから絶対に逆らわないようにね? キレたら私よりも恐ろしい人だから」


「 「 「えっ!?」 」 」


「ホッホッホ……春日さん、この子達を怖がらせる様な事を言わないでいただけるかなぁ……ホッホッホ……」


「と、とてもカッコイイです!! 私、本多執事長について行きます!!」


 えっ? 何だ、伊達忍のこの変わりようは!?


「ホッホッホ、この歳になって女子高生からカッコイイと言ってもらえるとはお世辞でも嬉しいねぇ……」


「お世辞なんかではありません!! 私は昔から本多執事長の様に紳士の『おじ様』が大好きなんです!!」


 いや、どう考えても本多執事長は『おじ様』じゃなくて『おじい様』だろ!?


「颯君……」


 ん? 魔冬が耳元で何か言ってきたぞ。


「何、魔冬?」


「あのね、忍ちゃんは昔からおじ様好きなのよ」


 いや、おじ様好きでも限度ってものがあるだろう?


 まぁ、本多執事長は年齢のわりには若くは見えるけど、でもなぁ……


「伊達さん!! 私のお爺ちゃんが好きなタイプだなんて大笑いだわ!!」


「えっ!? あ、あんたのお爺ちゃんなの!? 本多……あっ!?」


 ガクッ


 あ~あ……太鳳の爺ちゃんだと分かってショックのあまりうずくまってしまったぞ。


「プッ、ハッハッハッハ!! ほんと忍は面白い子よねぇ? あんた見てたら全然、飽きないわ~ハッハッハッハ!!」


「か、片倉先輩、そんなに大笑いをされては忍ちゃんに失礼ですよ? プッ……」


「蕾、あんたも笑っているじゃないの!?」


 はぁ……何か先が思いやられるよなぁ……



「忍ちゃんだったね……大丈夫かい?」


 ムクッ!!


「は、はい、大丈夫です!! 太久磨様、よろしくお願い致します!!」


 た、太久磨様って……


「本多さん?」


「な、何よ!?」


「あんたの御爺様に免じて許してあげるわ」


「はぁああ!? あんた、何様のつもりよ!?」



「いずれにしてもさ、三人共、よろしく頼むよ……」


「はい、竹中さん……私達にお任せください」


 ふぅ……この支倉さんって子はまともそうだな。


「ところで魔冬ちゃん?」


「なーに、小町ちゃん?」


「来週の合宿に羽柴さん達もやって来るって言ってたけどさ、絶対にあの子、何か企んでいるわよ。魔冬ちゃんはバイトなんかして構わないの?」


 そっか。片倉さんは陽菜さんと同級生だから性格とかをよく知っているんだな。


「うん、大丈夫よ。私はバイトをやりながら徳川グループと羽柴グループとのやり取りを見学しているわ。それに私は颯君と一緒にお仕事をするのが楽しいしね」


「うーん!! ほんと、何て可愛い子なの、魔冬は!! 竹中君、あなた、こんな可愛い子に好かれているのに何も感じないの? 不感症なの!?」


 不感症の使い方、おかしくないか!?


「い、いや……そのぉ……好きだと言ってくれるのはとても嬉しいですけど……」


「だったら、魔冬と付き合いなさいよ!! 生徒会長選挙なんてどうでもいいじゃない!?」


「い、いや……それは……」


「片倉さん、それくらいにしていただけますか? 颯君が困っていますので」


「フフフ……そうね。ここは徳川さんのお家だったわね? 私としたことが少しでしゃばってしまったわ。まぁ、来週になれば数日間、竹中君と一緒にお仕事をするし、休憩時間にでも色々とお話をさせてもらうわ」


 お、俺……休憩取らずに働こう……


「一つお願いがあるんだけど!!」


「何かしら、伊達忍さん?」


「私の性格ではメイドはむいていないと思うから、私は太久磨様の下で執事として働くって訳にはいかないかしら!?」


 マジで伊達忍は本多執事長が気に入ったんだな?


「却下よ、忍ちゃん!!」


「な、何で魔冬が却下するのよ!?」


「だって本多執事長の部下って事は颯君の同僚って事になるから私よりも忍ちゃんの方が一緒し働く機会が増えるじゃない? そ、それは絶対に嫌!!」


「別に私はこんな『陰キャメガネ』になんか興味なんて無いから心配しなくていいよ」


「それでもダメ!!」


「伊達忍さん。私も伊達さんと同じで却下よ。大人しく春日さんの下で根性を叩き直してもらいなさい」


「えーっ!!??」


「徳川さん、ありがとう……」


「いいえ、別に伊達さんの為に却下した訳じゃないけどね」


 俺だけが感じたのかもしれないけど、何となく伊緒奈と魔冬の距離が少しだけ近づいている様な気がするんだが……


「おい、颯……」


「ん、何だ、俊哉?」


「何となくだけどさ、伊緒奈ちゃんと魔冬ちゃんってさ、実は気が合うんじゃないのか?」


「え?」


 驚いたな。俊哉も俺と同じ様に感じたのかぁ……


「颯さん?」


「ん? 直人も何だよ?」


「い、いえね……この夏休みの間に伊緒奈は俺達幼馴染以外にも友達が出来そうな気がするんですけど、颯さんはどう思われますか?」


 直人、お前もかよ!?


「いずれにしても、来週からの『合同合宿』で何かが起こる予感はするけどな……」


 どうかその予感が良いことでありますように……




―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


『夏休み編』最終話となります。

そして次回『合同夏合宿編』開始です。

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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