第128話 織田乃恵瑠VS武田静香

「今日からお世話になります酒井知由でーす!!」

「榊原八雲です。宜しくお願い致します」

「服部華子です……」


「そして改めて本多太鳳で~す!! 皆さん、宜しくで~す!!」


 という事で今日の午後から伊緒奈の女友達四人衆が徳川邸でメイドの短期アルバイトをする事になった。


 春日メイド長曰く、明日から春日メイド長以外のメイドさん達は夏休みを取る事になり、人手不足になることから短期アルバイトを雇う事になったそうだ。


 でも俺は知っているぞ。一人のメイドさんが俺にコッソリ教えてくれたんだ。


「いつもならローテーションで二、三日の休暇が通常なのに、何故か今年は八月中というビックリするくらいの長期の夏季休暇を頂いたんですよ」って言っていた事を……


 きっと伊緒奈が夏休み中、魔冬と一緒に過ごすのが嫌だから信頼できる友達に近くにいてもらう為に裏で手を回したんだと俺は思っている。


 で、よく考えれば俊哉や直人だってそういうことなんだろうなって思う。


 実は本多執事長以外の執事達も俊哉達がバイトを始めた次の日からメイドさん達よりも早く一ヶ月近い夏季休暇でいないんだからな……


 きっとこれも伊緒奈が徳川邸で魔冬に好き勝手させない為に伊緒奈グループ挙げて監視する戦なんだろう。


 でも、当の魔冬はそんな事はあまり気にしていない様子だ。

 勿論、意地を張っているだけかもしれないが……


「あら、まだ新人の私にこんなたくさんの後輩ができるなんて嬉しいわ。私の負担が軽くなって助かるわね」


「ちょっと待って伊達さん!! 私達は伊緒奈さんに雇われたのであって、別に伊達さんの命令で動くつもりは無いんだけど!!」


「はぁ? 何を言っているのかしら、本多さん? 徳川さんに雇われているのは間違い無いけど、メイドのバイトをするという事は自動的に春日メイド長の部下であり、私の後輩であるという事よ。だから先輩である私の言う事を聞くのは当たり前じゃない」


 いきなり伊緒奈の思惑通りにならない感じがしてきたぞ。


「そうね。伊達さんの言う通りだわ。いくらあなた達が伊緒奈お嬢様の親友でも関係無いわね。仕事とプライベートは別にしてもらわないと。別にできないのなら初日でクビね」


「ウグッ……」


 春日メイド長や魔冬の言う通りだな。

 徳川邸のバイトは遊びじゃないからな。


 でもこういう時の春日さんは伊緒奈に協力せずに平等に振舞うんだな?


「伊緒奈~伊達ちゃんも春日さんもコワーイ」


「知由ちゃんもゴメンね? 私の考えが甘かったわ……」


「フフフ……別に私は気にしていないわよ。どちらかというと昔からメイド服に憧れもあったし、それを着る事ができるだけでも嬉しいしね」


「そうです、伊緒奈さん……私も知由ちゃんと同じ意見です。私は最初からメイドのバイトを真剣にやるつもりでしたし……」


「八雲ちゃんもありがとね……」


「私だってちゃんとやるつもりでしたよ!! ねっ、華子!?」


「え? 私はメイドのコスプレができると太鳳に言われて今回の『作戦』にのっただけなんだけど……」


「な、何を言っているのかな、華子!? それに『作戦』って何の事かしらぁ……? 私、華子の言っている意味がよく分からないわ!!」


 太鳳、目が泳いでいるぞ。




 【竹中邸前・静香視点】


「うぅぅ……うぅぅ……」


 ど、どうしよう……

 夏休みになって全然、颯君の顔を眺める機会が無くなって……


 そうしたら無性に颯君に会いたくて会いたくて、その想いが強くなり過ぎて思わず颯君のお家の前まで来てしまったけど、緊張し過ぎてインターホンがなかなか押せないわ……


「あれ? 武田さんじゃないですか。竹中君のお宅の前で何を唸っているんですか?」


「げっ!? お、織田さん!!」


 何でこんなところに織田さんが!?


「ああ、もしかして武田さん……夏休みになっても何もする事が無く、暇すぎて思わず颯君の家に行けばもしかしたら会えると思って来られたんですか~?」


「なっ、何よ、その失礼な言い方は!? それに私は別に暇じゃないのよ!! でも……でも颯君に会いたくなったのは本当だけど……」(ポッ)


「まぁ、武田さん、可愛い!! フフフ……」


「あ、あなた、先輩をバカにしているの!? いくら生徒会長でも許さないわよ!!」


「バカになんてしていませんよ。本当に可愛いと思ったんです。でも残念ですねぇ……今日は颯君、アルバイトなので家にはいませんよ」


「えーっ、そうなの!? そ、それは残念だわ……はぁ、また出直して来ようかなぁ……ん? ちょっと待って? それじゃぁ織田さんは何故、颯君が不在なのを知っていて家に来たのよ?」


「武田さん、ご存じ無かったですか? 一学期の後半はほぼ毎日、颯君と一緒に通学していましたけど、たまにご家族と一緒に朝食をいただく様な間柄になっているんですよ。だから今日は妹さんと遊ぶ約束をしているんです」


「えっ、織田さん、詩音ちゃんと一緒に遊ぶ様な関係なの!?」


 まさか織田さんが颯君だけに飽き足らず、家族にまで手を出していたとは……


「あれ? 武田さん、詩音ちゃんの事、ご存じなんですか?」


「え、ええ、知っているわ。前にファミレスで会った事があってね……それで少し仲良くなったというか……」


「へぇ、そうなんですねぇ……でも私は詩音ちゃんとはキャッキャし合う仲なんで、武田さんよりもかなり詩音ちゃんとの仲は深いですねぇ……」


 キャッキャし合う仲ってどんな仲なの!?


 いずれにしても何か悔しいわ。



 ガチャッ……


「ああ、家の外が騒がしいと思ったら織田先輩、来られていたんですね? って、そ、それに静香お姉様まで!? わ、私、夢を見ているのかしら!?」


「し、静香お姉さま……?」


 フッ、織田さんは詩音ちゃんに『乃恵瑠お姉さま』とは呼ばれていないみたいね?

 これは私が詩音ちゃんと深い仲になれるチャンスだわ。


「詩音ちゃん、お久しぶり~これは夢じゃないのよ。ちょっと颯君に会いたいなぁと思って来てみたんだけど、颯君は残念ながらバイトだと聞いてガッカリしていた矢先に詩音ちゃんの顔を見る事ができて私、泣きそうなくらいに嬉しいわ!!」


「えーっ、そうなんですかーっ!? そんな風に静香お姉さまに言っていただけたら、私の方こそ嬉しくて泣いちゃいますよぉぉ!! さぁ、静香お姉さまも家に入ってください!! 私と織田先輩と三人で一緒に遊びましょうよ!?」


「ウフ、ありがとう……そうさせてもらうわ。さぁ、織田さんも早くお家に入りましょう?」(ニヤッ)


「クッ……は、はい、そうですね……」


 なるほど……織田さん、そういう事だったのね?


 さぁ、私も織田さんの様に『外堀』から埋めるとしましょうか……




―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


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という事で次回もお楽しみに(^_-)-☆

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