第20章 夏休み編
第127話 徳川伊緒奈VS伊達魔冬
夏休み……
まぁ、普通はみんな楽しみにしているんなんだろうけど、友達のいない俺は学校に行こうが長期休みだろうが生活スタイルはあまり変わらなかったので別に夏休みが待ち遠しくもなかった。
外にはほとんど出ずに一日中、ゲームをするか、録画していた深夜アニメを観るか、たまに漫画やラノベを読むという生活を毎日していた。
だから友達がいなくても別に寂しいとは思っていなかった数年間……
逆に静かに『陰キャオタク』生活ができるという嬉しさすらあったものだ。
それなのに今年の夏休みは一変した。
「颯君、春日メイド長にこの荷物を一緒に倉庫まで運ぶように言われたのだけど……」
「え? ああ、分かったよ、魔冬……それじゃ運ぼうか……」
そうである。この夏は徳川邸でバイト三昧になるのは分かっていたが、すっかり忘れていた事があった。
毎日、朝から晩まで伊達魔冬とも一緒だったのだ!!
それだけではない。
「颯さん!! 庭の草むしり終わりました!!」
「颯!! プール掃除終わったぞ!! 次は何をすればいいんだ!?」
「おお、二人共仕事が早いな? とりあえず俺は今から魔冬と一緒に荷物を倉庫まで運ぶから本多執事長に次の仕事を聞いてくれないか?」
そうである。
なんと直人と俊哉が『夏休み限定短期アルバイト』として徳川邸で働いているのだ。
「颯さん!! そんな重たそうな荷物、俺が運びますよ!!」
「え? 直人、気持ちは有難いけどさぁ……」
「井伊直人君!! あなた、私達の邪魔をする気なの!?」
「べ、別に邪魔をする気は無いけどさ……っていうか、伊達さん、何で俺の事をフルネームで呼ぶんだよ!?」
「井伊君って呼びにくいからに決まっているじゃない」
「だったら俺の事は直人君って呼んでくれも……」
「それは絶対に嫌よ!! 私が下の名前で呼ぶ男子は颯君だけって決めているんだから」
何だ、この二人のしょうもない言い合いは……
「まぁまぁ、二人共落ち着いて……バイト中に喧嘩なんかしたら、春日メイド長の雷が落ちてくるよぉ」
正直、直人と俊哉までもが徳川邸でバイトするってなった時はめちゃくちゃ嫌だったけど、直人はともかく俊哉が意外と『普通の奴』で助かっている。
今も魔冬と直人の言い合いの仲裁をしてくれているしな。
「こらっ!! あなた達、仕事もしないで何をしているの!? 伊達さん? あなたには竹中君と一緒に荷物を倉庫まで運ぶように指示していたわね?」
「は、はい……申し訳ありません……」
「こんな所で油を売っていないで早く荷物を運んでちょうだい!! それに颯君も早く一緒に運んでちょうだい!! せっかく今、伊緒奈お嬢様が倉庫近くにいらっしゃるんですから!!」
「へっ?」
はぁ……やはりそういう事かよ?
どうも春日メイド長は伊緒奈の前で俺と魔冬が一緒に作業するところを見せよう見せようとするよな? 別にそんな事をしても伊緒奈には関係ないと思うんだが……
「それと直人君と前田君? 本多執事長が次の指示をするから裏庭に来るようにとおっしゃっていらしたわよ。早く行きなさい!!」
「 「は、はい!!」 」
二人は慌てて裏庭の方へと走って行った。
そして俺と魔冬は取っ手付きの大きな荷物の取っ手を互いに一つずつ持ち、倉庫まで歩き出す。
「魔冬、大丈夫か? 重たくないか?」
「うん、私は大丈夫よ。意外と私は力持ちなんですからね」
「だったらいいんだけど、これくらいの荷物なら俺一人で運べるんだけどさ……」
「ダメよ!! この荷物は二人仲良く運ぶ事に意味があるんだから!!」
二人仲良くっていう意味が分からねぇぞ。
「それにしてもさ、魔冬は家が遠いのに毎日、徳川邸まで通うだけでも大変じゃないのか?」
「え? まぁ、大変は大変だけどね……でも、こうやって好きな人と一緒に働けるんだから大変よりも幸せの方がはるかに勝っているわ」
うっ、魔冬のやつ……たまに俺の心を揺れ動かしてしまいそうな事を言うよな?
き、気を付けなければ……
「あっ?」
「ん? どうした魔冬? って、伊緒奈……」
「颯君とついでに伊達さん、ご苦労様」
ついでに伊達さんって……
「あら、徳川さん? こんな所で私達を待ち伏せしていたのかしら?」
「ま、待ち伏せって何? ここは私の家なんだから私がどこにいたって構わないでしょ? 私もたまには倉庫前の草むしりでもやろうかと思って来てだけよ」
ほぉ、伊緒奈が草むしりするところなんて今まで見た事が無かったけど……
「伊緒奈、偉いな? それじゃぁこの荷物を運び終えたら休憩するつもりだったけど、少し休憩時間をずらして一緒に草むしりをするよ」
「 「えっ!?」 」
何で伊緒奈も魔冬もそんなに驚くんだよ!?
伊緒奈なんて顔が赤くなっているし……
「そういう事で魔冬、悪いけどさ、次の休憩は一人でしてくれないか?」
「嫌よ!! 私も休憩時間をずらして颯君と一緒に草むしりをするわ!!」
「伊達さん、お気遣いなく。ここの草むしりくらいなら私と颯君で十分だから……伊達さんはゆっくり一人で寂しく休憩してちょうだい……」
伊緒奈、寂しくは余計だろ?
「何を言っているのかしら、徳川さん? あなたみたいなお嬢様にちゃんと草むしりができるはずないでしょ? きっと颯君に負担がかかると思うし、休憩も取れずに終わらない気がするから私も一緒に草むしりをやってあげるだけのことよ……」
「伊達さん、あなたもお嬢様でしょ!?」
「フッ、徳川さん程では無いわ。それにうちは両親が厳しい人だから小さい頃から何でもできるように教育されてきたの。それにここでのアルバイトで色々と経験も積んでいるしね。あなたとは『女子力』が違うのわ」
「うっ……」
あの伊緒奈が魔冬に言い返せなくなっているぞ……
ここは俺が伊緒奈を助けるべきか……
「伊達さーん!! そっちにいるのかなーっ!?」
ん? この声は……
「あーっ、いたいた、伊達さん!!」
「た、太鳳じゃないか!?」
「皆さん、お疲れ様です!! それよりも伊達さん、早くロビーに来てくれるかな?」
「え、何で私がロビーに?」
「春日さんがお呼びよ」
「えっ、春日メイド長が?」
「今日からメイドのアルバイトが四人増えて、今来ているから紹介するってね」
「メイドのアルバイト!? それも四人も!? 私、そんな事全然聞いてないのだけど……」
「フフフ……」
伊緒奈が怪しげな微笑みを……
な、なんか嫌な予感がしてきたぞ。
「伊達さん、先に言っておくね? 今日からここで短期アルバイトをする事になった本多太鳳でーす!! よろしくね、『伊達先輩』……」
嫌な予感的中だな……
―――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
新章開始です。
夏休みも波乱の予感!?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
また☆評価を頂けるとやる気が倍増しますので面白いと思ってくださった方は何卒、評価お願い致しますm(__)m
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