第109話 島津佳乃
【放課後の音楽準備室武田陣営】
コンコン
「はーい、どうぞ~」
「失礼します……」
「いらっしゃい、颯君。来てくれてありがとね?」
「い、いえ……」
俺は帰り際に静香さんから呼び出しのラインが来たので伊緒奈には少しだけバイトに行くのが遅れる事を伝えて音楽準備室に立ち寄った。
「今日、来てもらったのは颯君に紹介したい子がいたからなの」
「は、はぁ……」
「この前、校門の前で言っていたでしょ? 私も生徒会長候補を見つけたって」
「そ、そうでしたね……」
音楽準備室には静香さんや山本カンナさんを始め、見覚えのある顔ぶればかりが集まっていたけど、静香さんの右隣りに座っている女子だけは知らない顔だったので恐らくこの子が生徒会長候補の島津さんなんだろうとは思うけど……
「こんにちは、竹中君……私が武田さんの応援をいただいてまずは『学年人気投票』で上位を目指す事になった一年三組の
「あ、はい……こちらこそよろしく……」
ってか、俺は何をよろしくするんだ?
この島津さんは身長が高くて山本さんみたいに姿勢も良く、黒髪ショートで目鼻立ちがはっきりした美人である。
キリッとした目や眉を見ていると『宝塚の男役』が似合いそうな雰囲気があってどちらかといえば、同性から好かれそうなタイプの人だ。
その島津さんは凛とした態度のまま俺の顔をジッと見つめている。
めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……
「うーん……やはり、竹中君は私の事を覚えていない様ですね?」
「えっ?」
「やっぱり……私と竹中君は中等部一年の時に隣クラスだったんですよ。全然、私の事を覚えていませんか?」
「ご、ごめん……同じクラスの人の事も全然覚えていないくらいなんで……唯一、覚えていたのが伊達さんだけなんだよ……」
「そうですかぁ……伊達さんの事だけは覚えていたのですね? まぁ、あの時の竹中君は事あるごとに伊達さんと組んで色々とされていましたものね?」
えっ? あの頃の俺と伊達さんを島津さんは知っているのか!?
「あら、島津さん? あなた、結構竹中君の事が詳しいわね? もしかしてあなた……」
「フフフ……武田さん、心配されなくて大丈夫ですよ。私が竹中君の事が好きなはずないじゃないですか……」
そ、そりゃそうだろ。でも、何故か少し残念な気分になった俺って……
「ふぅ……良かったぁ……島津さんが颯君の事を好きだったらあなたを応援する意味が無くなっちゃうからさぁ……」
「大丈夫です。安心してください。ただ私は中等部一年の時にクラス委員長をしていまして、二クラス一緒の体育の授業で二人一組で何かをする時に一人孤立していた竹中君の事を気にしていただけですから……」
「えっ? 俺の事を気にかけてくれてたのかい?」
「ええ、そうですよ。だから毎回、私と一緒にやりましょうって声をかけようとしたんですが、竹中君は同じく孤立していた伊達さんと一緒に組んでおられたので私の出る幕は無かったんですけど……」
そうだったのかぁ……全然、知らなかったぞ。
「島津さん……俺の事を気にかけてくれてありがとう……」
「いえいえ、結局私は何もしていませんのでお礼を言われる必要はありませんよ。でも竹中君は噂通りの優しい人ですね? 私、気に入りました」
「えっ?」
「ちょっと待ってよ、島津さん!? やっぱりあなたは颯君の事を……」
「違いますよ、武田さん。私は人として竹中君を気に入っただけで、別に武田さんの邪魔をする気はありませんので……私は武田さんの恋の成就の為に頑張りますから」
「そ、それなら良いんだけど……」
「静香? 本当にこの子で大丈夫なの? 少し不安だわ」
「だ、大丈夫よカンナ。島津さんも大丈夫だって言っているしさ……」
俺は静香さん達の会話を聞いて心苦しかった。
本当は静香さんに「島津さんは陽菜さん側の人ですよ!!」って言ってやりたいけど、伊緒奈には絶対に言うなと釘を刺されているし……
それにこの陽菜さんのスパイ作戦だって俺みたいな奴と付き合う為に必死に考えたことだろうし、張本人の俺が作戦をばらすっていうのはおかしいと思うからな。
本来は静香さんが陽菜さんの作戦に気付かなければいけないんだよな。
ただ、しばらくの間、茂香さんと静香さんに会うたびに心苦しいだろうけど……
「竹中君、何か考え事ですか? もしかして何かご存じなのですか?」
「えっ!? お、俺は何もご存じありませんよ!!」
「フフフ、おかしな返事ですねぇ?」
「あ、ハハハハ……」
ガラッ……ガラガラッ
「あーっ、いたーっ!! よしのん、みっけーっ!!」
えっ!?
「あら、千夏ちゃん? こんなところへどうされたのですか?」
「あっ、あなたは茂香が応援している長曾我部さん!! ここへ何しに来たのかしら!?」
「チーっす、武田先輩とその他大勢さーん!!」
「 「 「誰がその他大勢だっ!?」 」 」
うわぁ、厄介な人が来てしまったぞ!!
「申し訳ありません。私と千夏ちゃんは幼馴染でいつも一緒に帰っているんです。だから私を探していたのだと……」
この真逆の二人が幼馴染だとっ!?
「そうそう、当ったり~ってか、よしのん!! ちゃんと行き先を言っておいてっつーの。あーし、めちゃくちゃ探したんだからさ!! ん? それに陰キャオタクまでいるじゃん? なんであんたまでここにいるんだっつーの!?」
「えっ? い、いや、俺は……その……」
「長曾我部さん、部外者はこの部屋から出て行ってくれないかしら? 今、私達は大事なお話をしているところなの。茂香の関係者にいられると困るのよ」
「フン、どうせ『人気投票』の話でもしてたんでしょうっつーの。まぁ、いいわ。で、よしのんはどうするっつーの? あーしと一緒に帰るの、帰らないの? あっ、それと陰キャオタク!! あーしもあんたに用事があるから明日の昼休みに弁当食ったら体育館裏まで来てくれっつーの!!」
「えーっ!?」
マ、マジかよっ!?
俺は体育館裏で何をされるんだ!?
―――――――――――――――――――
静香から島津佳乃を紹介されたが内情をしっている颯の心は複雑だった……
そんな中、突如現れた長曾我部千夏、彼女と佳乃が幼馴染ということだけでも驚きだが、その千夏が颯を体育館裏に呼び出した。
果たして颯は千夏に何をされるのか!?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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