第53話 テスト前日

 勉強会は初日こそ色々あったが、その後はそれなりの勉強会になった。


 特に井伊直人……いや、直人は俺に積極的に地理を教えてくれた。

 それも敬語で……


 本多もそうだが自分よりも強いと思った人間に対しては服従するタイプみたいだ。


 面倒なのは直人が毎日俺のクラスに顔を出しに来ることだ。


 今までは徳川に止められていたようだが直人が俺になついたという風に捉えた徳川が一日一回だけは教室に来ても良いと許可を出したようだ。


 正直、俺としてはありがた迷惑だ。


 それに直人が毎日、クラスに顔を出す事で良い気がしていない奴もいる。


 そう、前田だ。


 前田は俺の一番の親友だと思い込んでいるので直人が俺に親し気に話している姿が気に食わないらしい。


 それに俺が『直人』と下の名前で呼んでいるのも耐えられない様で、俺は前田からの執拗な要望により、仕方なく前田のことも『俊哉』と呼ばされるようになってしまった。



 しかしこの数年を振り返ってみると最近、俺の環境の変化には驚くばかりだ。


 小四の途中まではクラスの人気者の『陽キャ』…… 

 正五の途中までは『いじめられっ子』……

 小六までは『引きこもり』……

 中等部時代はあえて『陰キャオタク』生活……


 それが高等部に進級した途端に『陰キャオタク』はそのままだが、俺の周りは『陽キャ』だらけ……挙句の果てに三名もの学園の人気美少女達からの告白……


 一体、何がどうなってこうなってしまったのか……



「それで、颯はテスト勉強順調なのか?」


「うん、まぁ……順調かな?」


「そりゃぁ、竹中さんには俺が付いているからな!!」


「お前は地理しか教えてないんだろ?」


「それでも竹中さんが苦手な科目の一つを教えているんだから俺は凄く役に立っているんだよ!! ねっ、そうですよね、竹中さん?」


「えっ? ああ、そうだな……直人には感謝してるよ……」


「ほら、どうだ? 前田は勉強会メンバーじゃ無いから俺の重要さが分からないんだよ!!」


「クソッ……調子に乗りやがって……こんな事なら俺も勉強会メンバーに入れば良かったなぁ……」


「前田はダメだ!! 伊緒奈の傍にいる事のできる男子は竹中さんと俺だけって決まっているんだからな!!」


 そんな事、いつ誰が決めたんだ!?


 それに俊哉は別に徳川の事を気にしている訳では無いからな……


「ところで……俊哉は羽柴副会長との勉強会は……どうなんだ? 何か進展は……あったのか?」


「ああ、俺か!? 俺と陽菜ちゃんとは何も進展は無いぞ!! 逆に後退する一方だな!! 陽菜ちゃんは今回の中間テストに対してマジで取り組んでいるから、俺は声をかけることすらできなんだ……ただ隣で大人しく勉強をしているだけさ……」


 そうだったのか……きっと羽柴さんは学年一位の直江カノンに今回こそ勝ちたいんだろうなぁ……


 でも前田も大好きな人が隣にいるのに会話すらできないのは辛いだろうなぁ……


 逆に今の俺はここ最近だけで去年一年分以上の会話をしている様な気がする。


 多分、両親や詩音がその事を知れば泣いて喜ぶのだろうけど、俺は慣れていない事もあり、めちゃくちゃ疲れるんだけどな……


「ハッハッハッハ!! 前田は意外とショボい奴なんだな!? 俺みたいにもっと好きな女子に対してイケイケだと思っていたのにさ!!」


 直人、お前のイケイケも考えものだぞ。


 勝手に徳川の気持ちも聞かずに『許嫁』って決めつけていたのはおかしいだろ!?


「うるせぇよ、井伊!! ってか、井伊って呼びにくいな!?」



「最近、三人とても仲良しね?」


 徳川、どこを見てそう思う!?


「伊緒奈ちゃん、俺は颯とは仲良しだけど、この名前の呼びにくい男とは全然、仲良しじゃ無いからね!!」


「前田!! さっきから俺の名前で遊ぶんじゃねぇよ!! それに伊緒奈、俺も竹中さんとは大の仲良しだが、この前田とは馬が合わんからな!!」


 二人共、俺は別にお前達と『仲良し』になった覚えは無いぞ。


「ハイハイ、そういう事にしておくわね? それで明日から遂に中間テストが始まるけど、みんな大丈夫なの?」


 そう、遂に明日から五日間にかけて中間テストが始まる。


「俺は陽菜ちゃんの横で毎日ほぼ無言で勉強していたから自信はあるぞ!!」


 前田、これ以上何も言うな。聞いていて悲しくなってくる。


「伊緒奈、俺に『大丈夫?』って聞くのは失礼な話だぜ!! 完璧に決まっているじゃないか!! もし俺が学年一位になったら結婚してくれるか!? あっ!? た、竹中さんを差し置いて失礼いたしました!!」


 俺を差し置け、直人!!


「それで、颯君はどうなの? 学園十位以内に入れそうかな?」


「い、いや……どうだろうな? でも……徳川達のおかげで俺のレベルが上がったのはたしかだし……ありがとな……俺、精一杯、頑張るよ……」


「うわぁ、颯君にお礼を言ってもらえるなんて私、とっても嬉しいわ」


「お、俺もです、竹中さん!! 感動して涙が出てきました!!」


 い、いや、お前等大袈裟過ぎるだろ!!


 いずれにしても明日からの中間テスト、俺は頑張るしかない。


 そしてドンド成績を上げていき、明智に少しでも追いつくんだ。


 ただ、中間テストが終わったら『あの人達が』と思うと不安しか無いけどな……


 とりあえず中間テストが終わるまではその事は考えない様にしよう。





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


遂に明日から中間テスト……


颯は自分のレベルを上げてくれた徳川達に感謝しつつ、明日から始まる中間テストを精一杯、頑張る決意をするのだった。


テスト後の不安を少しだけ感じながら……


ということで次回もお楽しみに(^_-)-☆

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