第54話 トイレの伊緒奈さん
カリカリ カリカリ カリカリ……
中間テストが始まり今日で五日目……
そう、今日は最終日だ。
最後の科目は『数学』……勉強会で徳川と本多が必死になって教えてくれた甲斐も有り、スラスラと問題が解けている。
マジであの二人には……いや、他の奴等にも感謝しないといけないな。
本当に苦手で仕方がなかった『地理』や『生物』も直人や酒井知由のお陰で恐らく八十点前後は取れていると思う。
しかし、こんな『陰キャオタク』の俺が数週間もの間、徳川の自宅によく通ったものだな。
それも毎日、あれだけの人数を相手に多少会話もしていたしな……
そう言えばその間、散々あいつ等に『グループ』に招待したいからスマホを持てと言われたけど結局、持つことは無かったな。
そう、俺はスマホを持っていない。
まぁ、友達のいない俺には必要の無いアイテムだったからな。学校が終わると真っすぐ帰宅していたから両親や詩音も俺に通信手段が無くても不便とは感じていなかったみたいだ。
だから今までスマホが無くて困ったことは一度も無かった。
それにスマホは安いものではないし、自慢じゃ無いが俺は金を持っていない。
親に買ってもらうなんてもってのほかだ。
まぁ、学園生活が落ち着いたらアルバイトをしようと思っているから、その時、お金に余裕ができれば考え無い事もないけど……
って、俺は何を考えているんだ!?
俺がスマホを持ってあいつ等の『グループ』に入るだと!?
イヤイヤイヤッ!! そんな『陽キャ』みたいな事ができるか!!
「竹中君、どうかしたの? さっきから身体が震えている様に見えるのだけど……お腹でも痛いのかな? テスト問題は全て埋まっているみたいだから、別にお手洗いに行ってもいいわよ」
えっ? 黒田先生?
そうだった。今やっているテストの担当は黒田先生だった。
俺が色々と考え過ぎて無意識のうちに身体を動かしていたので心配して声をかけてくれたのか……
「す、すみません……大丈夫です……」
「えっ、そうなの? まぁ無理して我慢しなくていいからね?」
「は、はい……ありがとうございます……」
「ウフッ……」
黒田先生はニコッと笑いながら自分の席へ戻って行った。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
「はーい、それでは後ろの人が前の席の人達の用紙を回収して前まで持って来てくれるかなぁ?」
長かった中間テストも遂に終わった。
「うわぁぁああ!! やっと終わったぞぉぉ!! これで陽菜ちゃんを遊びに誘えるぞ!!」
前田の奴、最近は羽柴副会長に対しての思いを隠さず全面的に出しているよな!?
まぁ、そんな事はどうでもいいんだが……中間テストが終わったということで、これからは『あの問題』に対しての対策を考えないといけないよなぁ……
「はぁ……」
本来なら俺だってテストが終わればホッとできるはずだったのに……
「颯君、お疲れ様……『数学』はどうだった? 私や太鳳ちゃんが言っていたところが結構、出題されていたと思うんだけど……」
「そ、そうだな……俺もそう思ったよ……本当に助かったよ。ありがとな……」
俺が素直にお礼を言うと、徳川は顔を真っ赤にしながら慌てて教室から出て行った。
あれ? 徳川の奴、トイレでも我慢していたのか?
「颯さん? 伊緒奈さんに何か言ったのですか? 急に教室から出て行かれましたが……」
「え? いや、俺にもよく分からないんだけどさ……トイレでも我慢していたのかな?」
「は、颯さん!! そ、それは女の子に対して失礼ですよ!!」
「えっ、そうなのか? そ、それはゴメン……」
でも俺もトイレに行きたいんだけどなぁ……
【女子トイレ内】
「計画通りに進んでいるようね? 本当にありがとう……」
「何を言っているのよぉぉ? お礼なんて言わないでちょうだい」
「でも……あなたのお陰で……」
「私が好きでやっている事だし、気にしなくていいわよ。それに私達家族はあなたのお父様にお世話になっているんだからこれくらいの事をするのは当然じゃない」
「あ、ありがとう……そんな事よりも徳川さん、顔が赤いみたいだけど大丈夫? 体調が悪いの?」
「ううん、大丈夫よ……」
「あっ、もしかして徳川さんも……」
「ち、違うわよ!! 私は違うから!! 私は『アレ』を飲んでいないんだし、絶対にそういう感情は無いから!!」
「フフフ……無理はしなくていいんだよ?」
「む、無理なんてしてないから……多分……」
【一年一組】
「竹中さん!! どうでしたか!? テストはバッチリでしたか!?」
相変わらず直人は前田並みに騒がしい奴だな。
「竹中君? 昨日の『生物』も私が教えた所が結構出ていたでしょ?」
「ああ、そうだね。酒井さんのお陰でそこそこ良い点が取れそうだよ……」
それよりもテストが終わった途端に徳川一派が俺のところに集結するなんて……あっ、そうか。徳川に会いに来ただけだよな。
すると榊原八雲が俺の耳元でこう呟いた。
「実は……伊緒奈さんから……テスト終了と同時に竹中さんを……護衛する様に指示が出ているんですよ……華ちゃんは教室の前で見張りをしています……」
「えっ? そ、そうなのか……?」
徳川伊緒奈……お前はなんで俺にそこまでしてくれるんだ?
お前は『タヌキ』だと警戒していたけど、本当は……良い奴なのか?
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お読みいただきありがとうございました。
無事に中間テストが終わりホッとしたい颯だったが、その後に起こるであろう織田会長達の行動を考えると安心できる状態にはなれないでいた。
そんな矢先、伊緒奈はトイレで誰かと会話をしているが……
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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