第52話 颯の実力

 徳川の脅し? が効いたのかあれからみんな大人しく勉強をやりだした。


 まぁ、一人を除いてだが……


「オイオイオイッ!! 竹中、そんな問題も分からないのか!?」


「ご、ゴメン……井伊……」


 ってか井伊いいって言いにくいな。

 こいつの事はフルネームで呼ぶようにしよう……


 常に怒り口調の井伊直人は徳川から許嫁を拒否されてから更に俺に対しての当たりが強くなっている様に思う。


 時折、本多が井伊直人に注意をしてくれているが聞く耳を持たない感じだ。


 そして全然、勉強には参加せずに徳川の後ろにずっと立っている服部華子もめちゃくちゃ気になる。


 彼女は徳川の護衛も兼ねているのだろうか?


 でもここは自宅なんだから護衛なんて必要は無いと思うが……


「直人君? そろそろ颯君に『地理』を教えるのはそれくらいにしてくれないかな? 次は知由ちゃんに『生物』を教えてあげて欲しいのよ……」


「分かったよ、伊緒奈!! 俺もそろそろ竹中に教えるのに嫌気がさして来たところなんだ!! でもその前に一つハッキリさせたいことがあるんだがいいか?」


「え? 別に構わないけど、何をハッキリさせるのかな?」


 井伊直人のやつ、一体何をするつもりだ?


 俺が不安にかられていると井伊直人はテーブルの上に右腕を置いて来た。


 えっ?


「な、何のつもりだ……?」


「見ての通り、腕相撲だ!!」


「へっ? 何で今、腕相撲なんだ……?」


 ほんと、こいつは何を考えているのかよく分からん!!


「だぁかぁらぁ……この部屋に男子は俺達だけだ。だからここで伊緒奈達の前でどちらが上かハッキリさせるんだよ。勝った方が伊緒奈の一番近くにいる事ができる男子に任命されるってことだ」


 別に俺は徳川の一番近くにいる男子になんてなりたくは無いんだけどな……


 それに仙石学園の生徒は腕相撲で勝負をするのが流行りなのか?


「颯さん? ここは直人の案に乗ってやってもらえませんか? ニコッ」


 ん? 本多のやつ、俺に何か期待している様に見えたぞ。


「颯君、頑張ってね?」


 何だ? 徳川まで俺に腕相撲をさせたいのか?


 あれだけ勉強会を早く始めたがっていたのに……


 まぁいいか。腕相撲くらいは……


「ああ、分かったよ……」


 俺は井伊直人にそう言うと右手を机の上に置いた。


「フフフ……じゃぁここは私が審判をしようかしら?」


 酒井知由が嬉しそうな表情をしながら審判に名乗り出て来た。



「それでは始めるわよ? レディー……ゴーッ!!」


 ガシッ!!


「おっ? 思っていたよりは力があるじゃねぇか、竹中!!」


「どうもです……まぁ、井伊直人もな……」


「バッ、バカを言うな!! ってか、何で俺のことをフルネームで呼ぶんだ!? って、そんなことはどうでもいいんだ!! 言っておくが俺はまだ本気を出してないからな!! ここからが本当の俺の力だぜっ!! うりゃーっ!!」


 井伊直人が気合いを入れて俺の腕を曲げようとするが俺の腕は机に垂直状態のままだ。


「あ、あれ!? そ、そんなはずは無い!! もう一度、うりゃーっ!!」


 俺の腕はびくともしない。


「……へっ?」


「颯さん!! そろそろ本気を出してください!!」


 本多がそう言ってきたので俺は数年ぶりに本気を出してみた。


 ブオンッ!! バシンッ!!


「うぎゃーっ!? いっ、いてーっ!!」


 一瞬だった……


 俺は小学四年生以来、久しぶりに本気を出してしまった。


「やったー!! 颯君が勝ったわ~っ!!」


 徳川は俺が勝った事に対し、とても喜んでいる。


 その笑顔は徳川にさほど興味が無い俺でも『天使』に見えてしまった。


「フフフ……やはり颯さんが余裕で直人に勝つと思っていましたよ。私は握手をしただけで相手の力量が分かる能力を持っていますからね」


 そんな能力ある訳ねぇだろ!!


 ここは『異世界』じゃ無いんだぞ!!


 すると今度は負けじと酒井知由さんが、


「わ、私なんか、勝負が始まる前に両者の拳の上に手を載せるだけでその人の実力が分かる能力があるわよ!!」


 負けず嫌いかよ!?



 そして俺にまさかの敗北を喫した井伊直人は……


「う、うう……」


 井伊直人は俺に負けたことがかなりショックだったみたいでしゃがみ込んでいる。


「よしよし……直人君はよく頑張ったよ……」


 そんな井伊直人は榊原八雲に背中をトントンと叩かれながら慰められていた。


 それとは逆に徳川はずっとニヤニヤしている。



 俺はそんな落ち込んでいる井直人に近づき、肩にソッと手を載せると、励ましの言葉をかけてみた。


「い、井伊直人も……腕相撲……弱くは無いと思うし……別に全然落ち込むことは……」


 俺がそう言うと、井伊直人は急に立ち上がりこう言った。


「あ、有難うございます、竹中さん!! やっぱ伊緒奈さんの一番近くにいる男子は竹中さんで決まりっすよね!? あっ、それと勉強も今の腕相撲も疲れたでしょ? お肩でもお揉みしましょうか? それともメイドに言って何か飲物を持って来る様にお伝えいたしましょうか? それと俺の事はこれから『直人』って呼んでくださいよ!?」


 なっ……?


 何なんだ、この変わり身の早さは!?




―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


いきなり井伊直人から腕相撲を挑まれた颯だったが、あっさり勝ってしまう。


そして負けたショックで落ち込んでいると思っていた井伊直人だったが、急に手のひらを返したかのように颯に媚びを売る様になる。


ということで次回もお楽しみに(^_-)-☆


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