第7章 三年女子編

第29話 山本カンナ

 ふぅぅ……今朝は痛い目にあってしまったけど、その分、一時限目から四時限目までは何事も無くいけているな。


 毎日こうであってもらいたいものだ……


 それに業間休みもあの三人はやけに大人しい。

 逆に恐ろしいという感覚もあるけど、恐らく今朝の一件のことがあるから俺に少しだけ遠慮してくれているのかもしれないな。


 ずっと遠慮してくれればいいのに……


 あっ、もしかしてあいつ等、昼休みにまとめてあれやこれやと質問攻めをしてくるんじゃないのか!?


 まぁ、質問をされても何も答えることは無いけどな。


 そして今は昼休み……


 最近、当たり前の様に四つの机を合わせて前田、徳川、本多の四人で飯を食っている。


 俺としてはかなり不本意なことだ。

 昼飯くらい一人で静かに食べたいのにさぁ……


「颯君?」


「ん、何?」


「顔の怪我は大丈夫なの?」


 ほら来た。ここから今朝の一件についての質問に進めて行く気だな?


「あ、ああ大丈夫だよ……」


「そっか……それならいいんだけどね……」


 えっ? それで終わり? あれ……?


「は、颯さん!?」


「な、何だよ本多さん?」


「私のことは太鳳たおって呼んでもらっても構わないですよ!! いや、是非そう呼んでください!!」


「えっ!? い、いや……それは……」


 こいつ、いきなり何てことを言い出すんだ?

 俺の予想を遥かに超えて来る女子だな。


「イヤイヤイヤッ、太鳳ちゃん、それはおかしいだろ? それよりも颯? 俺とお前は親友なんだからさ、俺の事を下の名前で俊哉って呼んでくれよ!? それが嫌なら『トシ』でも全然大丈夫だぞ!!」


 はぁああ!? 俺が全然大丈夫じゃねぇんだよ!!


 いつお前と俺は親友になったんだ!?

 それにまだ入学して二週程しか経っていなんだぞ!!


 こいつも本多と変わらんな……


「二人ともそれくらいにしてあげなさいよぉぉ。颯君、とても困っているじゃない」


 おっ、さすがは徳川だ。

 この中では一番話の分かる奴だと俺は思っているぜ。


「颯君が最初に下の名前呼びをする相手は私に決まっているじゃない。ねぇ、颯君?」


 お前を信じた俺がバカだった……


 でも、今朝の話にはならないな?

 それともこいつ等は意識して今朝の話をしないのか?


 やはり、ここの学園の生徒達の考えていることはよく分からん。

 羽柴副会長の言葉を借りれば全員『タヌキ』だよな。



 ガラッ…ガラガラッ


「あ、あのぉぉ……」


 ん? 誰か教室に入って来たぞ。それもあのネクタイの色は……


 三年女子か? 何で三年の人がうちのクラスに来るんだ?


「どうかされましたか? 誰かお探しですか?」


 さすがクラス委員長の徳川だ。

 行動が早い。


「実はこのクラスに『竹中颯君』って子がいると聞いてやって来たんだけど……」


 えっ、俺を探しに来ただと!?


 で、あんたは誰だ!?

 全然、知らない人なんだけど……


「あら、竹中君なら今、私達と一緒にお昼を食べている……ほら、あの美味しそうなダシ巻き玉子を口に入れようとしている人がそうですよぉぉ」


 徳川、ダシ巻き玉子の説明は別にいらねぇだろ!?

 食べづらくなったじゃねぇか!!


「ふーん、そうなんだ。君が竹中颯君なんだね? 聞いていた感じとは全然違うんだけど、そうなんだぁ……」


 聞いていた感じとは違うってどういう意味だ?

 ってか、誰から俺の事を聞いたんだろう?


「その前に先輩のお名前を教えていただけませんか? 名乗らずに颯さんに何か要件を言われるのは『風紀委員』の私としては許可できませんので!!」


 この場面に風紀委員は全然、関係無いだろ!?

 それに何でこの人が俺に要件を言うのにお前の許可が必要なんだ!?


「そ、そうよね? ご、ゴメンなさいね『風紀委員』さん。私は三年二組で『クラス副委員長』をしている『山本カンナ』っていうの。皆さん、よろしくね?」


 山本カンナ? 誰だ?

 初めて聞く名前だけど……


「あっ! 山本カンナさんって、たしか先日の『仙石集会』の時に武田さんの横に座っていた人ですよね?」


 えっ、そうなのか?

 徳川の奴、よく覚えているよなぁ……


「フフフ、そうよ。さすがは一年生なのにトップバッターであれだけの意見を言えただけのことはある子ね?」


「あの時は偉そうなことを言ってしまって申し明けありません。今思えば私、凄く大胆なことをしてしまったなぁって反省しているんです」


 うんうん、そうだ。大いに反省しろ、徳川……


「反省なんてする必要は無いわよ。それに静香……武田のことね。静香も徳川さんのことは凄く褒めていたのよ」


「そうなんですか~? うわぁ、嬉しいなぁ。ありがとうございます」


 徳川、お前は本当に喜んでいるのか? なんか怪しいなぁ……



「ってか、山本さんは颯に何の用があってここに来たんですか!?」


 急に大声を出すな、前田!! 

口からおかずが飛んでいるじゃねぇか!!


「あっ、ごめん忘れていたわ。颯君? 私と一緒に今から『中庭』に行ってくれないかな? そこで静香があなたと少しお話がしたいって言っているのよ」


 えっ、え―――――――――――――っ!!??








――――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


今朝の出来事を聞いてきそうでなかなか聞いてこない徳川達……

それどころか下の名前で呼んで欲しいという訳の分からない事を言われて困惑している颯のところに三年女子が訪ねて来た。


その人の名は山本カンナ……

彼女は一緒に中庭に来て欲しいと言う。

そして武田静香が颯と話がしたいとも言ってきたので驚く颯だった。


ということで次回もお楽しみに(^_-)-☆



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る