第5話 魔導書

 俺とサーサラはリンベルの街から南に一時間ほど来たところの洞窟を訪れていた。


 ガルドの七番洞窟。ガルド地方の七つ目の洞窟だから七番洞窟。クエスト内容はこの中にあるカルライト鉱石の採集である。


「カルライト鉱石ってどんなものか分かるか?」


「街に持って帰ったらほとんどがサイエンス国家のエンサイアって国に売られるの。冒険者はほとんど関わりがない国よね」


 ルーイのパーティーの時は派手な依頼ばかりで洞窟なんて入ったことがない。


『採集クエストなんて貴族の俺がやるような仕事じゃない』

 ってよく言ってたな。


「洞窟とか初めてだから緊張するぜ」


 言い方は荒くれ者感があるが言ってる事はなんともしょぼい。


「ふふっ、なにそれ。冒険者は自由ってのが一番の良いところよ。無理に自分を変えようとしなくて良いの」

 笑われたがそう言われて嬉しかった。


「さあ! 行くわよ」


 サーサラは洞窟を進んで行く。


「そうだな」


 俺も彼女に続く。



 洞窟。採集クエストの難易度設定は洞窟やダンジョンの難易度によって決定される。


 このガルドの洞窟は難易度Cってことか。


 そういえばルーイもダンジョンには行ってたな。


「サーサラ。洞窟とダンジョンの違いって分かるか?」


「洞窟とダンジョンの違い?……洞窟は自然が形成する魔物の巣窟。ダンジョンは過去に生きた賢者や王族が作ったとされて、そこには古代の魔道具が封印されてるもの、かな」


 俺はへぇーと感心する。

 賢者とか魔道具とかはよく分からないが。


「付け加えるとダンジョンにある魔道具と自然が干渉し合って形成する結晶。魔石ってのが採集出来るのよ。ほとんどが難易度B以上。賢者が召喚した守護精霊と呼ばれる魔物がダンジョン内を守っているの。今見つかってるダンジョンは全体の二割って言われているわね」


「ふーん。なるほどねー。魔石に守護精霊ねー。うんうん」


 腕を組んで分かった風を装う。あまり考えずに冒険をしてたんだと思う。


「冒険者人口を増やすための会館の策ではないかとも言われてるけどね」


「それにしても二割ってどうなんだ?見つけられるようになってるのかなぁ」


 サーサラは「さぁ」と続ける。


「そろそろ来るわ」


 進み、薄暗い洞窟内には光苔と呼ばれる少ない光を増大させ、辺りを照らしている。

 

 マジか?

 髭面の男達の時に感じた黒い煙が前方から身体に刺さるように突き抜ける。


「剣を抜いて」


「分かってる」


 サーサラは腰に差す剣を抜き、腰を落とし戦闘態勢に入る。


 かっこいいな。

 俺も剣を抜き、進行方向から目を離さない。


 ギーギー。

 全長一メートル程のガーゴイルが五体。背中の翼で飛び、今にも鉤爪で襲いかかって来そうな動き。


 こんな威圧感は前のパーティーで何度もあった。


「もう慣れたぞ!」

 俺は先制攻撃を仕掛ける。


 ガーゴイルは焦ったように鉤爪で攻撃してくる。


 剣の腹でその攻撃を跳ね返す。

 やっぱり。動きが分かる。


 ガーゴイルの態勢が整う前に一撃を食らわせる。


 ガーゴイルは身体が半分に切れ、体液が出ると共に身体の九割は空気中に蒸発するように消える。


 魔物は生命維持が出来なくなると蒸発するように体液以外は消える。


 くっ! 顔にかかった。


 体液が顔にかかり俺は顔を歪める。


「やるじゃない」

 褒められた。初めてだ。


 サーサラは横移動でフェイントを入れながら次々と魔物を倒していく。


 強い。


 すぐに戦闘は終了する。


 サーサラは顔に飛び散った体液をハンカチで拭く。

「強いな。サーサラは」


「あなたは戦闘は素人ではなさそうね。……また来るわよ」


 気付くのが早い。サーサラはどうやって敵の接近を感知してるんだ。


「スケルトンにゴブリン兵か。数は……」


「多いわ。合計で九、いや、十体よ」


 数秒遅れて刺さるような煙に身体が反応する。


 合ってる。サーサラはどうやって。


「見えた」


 魔物達は統率が取れていない。ただ突っ込んで来てるだけだ。だったら。


「俺が敵の懐に入る。サーサラは側面から速攻だ」


「分かったわ」


 彼女はずっとソロで冒険者をしてるんだ。こういう事は俺がやらなきゃ。


 俺は魔物どもに近づき、敵の行動範囲を制限する。

 オラァーと敵の突進攻撃に対して剣を横に大きく振る。


 流石に避けられるか。でも。


「パーティーってやりやすいわね。まったく」

 

 半分を一気に片付ける。

 数が減り有利に戦闘を進める。


 ……


 戦闘は終了し、少し休憩する。


「サーサラ、なんであんなに早く魔物の接近に気付いたんだ? なんかコツとかあるのか?」


 やっぱり気になったので聞くことにした。


「コツって程のものじゃないんだけどね。……これを見て」


 と彼女は小手を外し腕を見せる。


「ジグルスだから見せてるわけじゃないからね」


 才能紋のない俺への配慮だろうか。


 サーサラの腕には一本の紋が刻まれている。これは武器を扱う才能紋だ。


「才能紋。武器を扱う才能紋になんかあるのか?そういう敵の接近に気付けるステッキ見たいのがあるとか」


「武器を扱うと言っても魔導書も含まれるってこと。魔法の才能紋がないことへの罪滅ぼしみたいなことをしてたのよ」


 罪滅ぼし?と疑問を抱くが保留することにする。


「魔導書か。魔法の才能紋がない人への救済と言われているあれか?」


「そうよ。低級の魔法しかないけど色々覚えてみると便利なものもあるってことね」


 聞くと、地面属性の低級魔法『グランドクオリア』と呼ばれるいわゆる地面に対する感覚を強化する魔法を使っていたらしい。


 おそらくだが、覚えるだけじゃなく、相当な訓練が必要なはずだ。こんな技術を使う人は聞いたことがない。


 実は俺も魔導書で一つ魔法を覚えている。才能紋のない俺は習得に一年かかったというのもあり言い出しはしなかったが。


「帰ったらもっと詳しく教えてあげる。先に進みましょ」


「おっしゃ、行こうか」


 魔法とかは本当に苦手なんだよなぁ。

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