第4話 悪意


 でも大丈夫か?


「サーサラが良いって言っても他のパーティーメンバーとかは?」


「私も一人だから、そこは大丈夫よ」


 その言葉に少し安心した反面、男と女の二人冒険は果たして良いのだろうか?


「ソロでCのクエストを受けてたのか?すごいな」


「全然すごくないわ。私は魔法を使えない。だからどんなに頑張ってもCまでのクエストしか受けられないの」


「そうなのか?Cでもすごいと思うけど」


「B以上は一気に難易度が上がるわ。敵の強さも量も」


 そうなのか。彼女が言うのならそうなのかな。


「今回はCのクエストってことか?」


「そうよ。早く行くわよ」


 急かす彼女に俺はついて行く。



 冒険者会館を出ると何かさっきと雰囲気が違う。明らかに黒い何かを感じる。 

 俺は寒気を感じ、辺りを見回す。


「どうしたのよ。キョロキョロして」


「いや、なんか変な感じがする」


 その付近は朝早いこともあってまだ人通りが多いわけではない。数人が歩いている程度だ。

 サーサラも周りを見るがまだ何もない。


「何があるって言うのよ」

 ふと異変に気づく。


 冒険者会館の近くの路地裏からガタイの良い髭面の男達がこちらに近づいてくるのが見えた。


「おい!お前がジグルスだな?」


 一息吸い、

「そうだが、なんだ?」


 俺は荒くれ者だ。冒険者らしくきめてみた。


「こいつが貴族になれなかった男だ。ひひっ」


「お前がやったこと、自分で分かってるか?」


 俺は気づくが誤魔化す。


「なんのことだ?」


「誤魔化すなよ。ルーイのとこのメイドを襲ったんだってな。田舎生まれの貧乏者だから仕方ないとはならないぜ!」


「おっと?ちょっと待てよ。ここに没落貴族のお嬢もいるじゃねーか。身の程をわきまえたってことかな?」


 と言いながら男たちはデカい声で笑い、集まりつつある冒険者達の目線は集中する。


 サーサラは何も言わずに下を向いている。


 俺がルーイのメイドを襲ったと言うのはすぐに街中に広まるだろう。


「いくら貴族に憧れるからって生まれが違いすぎるだろ」


男たちはその後も色々とないことを言い、バカにする。


 

「それにこっちは魔法も使えないお嬢様のせいで七大貴族だったのに没落するとはな」


 その矛先は運悪く俺と会ってしまったサーサラへの飛び火がエスカレートする。


「パパとママがかわいそうだぜ!まったく」


 くそ!俺のことなら良い。でも何であんな親切な彼女がこんなことを言われているんだ?


 サーサラはこんなことをずっと言われていたのだろう。だからあんなに早くから冒険者会館を訪れていたのだ。極力他の冒険者に会わないように。


「金で動く人形が何言ってやがる!」


彼らはルーイに雇われてこんなことをしている。そうでなければこんな、人が集まり出すこの時間にわざわざこんなことはしない。


「あ?何だ?ふざけたこと言ってんじゃねーよ」


「ふざけてなんかいない。ルーイに操られた人形だって言ってんだ!」


「……くっ、何のことだ」


 髭面の男たちのリーダー的奴が前に出る。


「ここは冒険者会館の外だ。ここで俺がお前をボコっても冒険者同士の喧嘩と思われるだけだ。だから分かるよな!」


 冒険者同士の喧嘩はよくあることだ。会館職員も不用意に評判を下げたくはない。


 まぁ、全部聞いた話だが……。


「かかってきやがれ」


俺は人生で初めて啖呵を切る。


 怒りをあらわにし、


「やってやるよ!」


 と言いながら大振りに右腕を俺に向かって振る。


 なぜだろうか俺にはその行動が分かっていた。


 相手の腕には何か違和感を感じる。

 その違和感の正体は黒い霧のようなものが見える。それを俺は悪意のようなものだと直感する。


 男の腕には黒い霧がかかっているのと同じように左足にも同じものが見える。


 男はわざと大振りの攻撃を仕掛け、本命は足蹴りを喰らわし派手に転ばせる思惑だろうと推測できる。


 俺は冷静に大振りをかわし、その後に繰り出される左足の蹴りを最低限の動きで避ける。


 自信のある一撃を一発目から避けられるとは思うわけがない。蹴りの勢いは無くなることなく力強く空を切る。


 そのままの勢いで大きなガタイは持っていかれ、身体は態勢を崩し、男は背中から盛大に地面に叩きつけられる。


 ズバーンという地面に落ちる音が響く。


 さっきの霧のようなもの、それが女神が言っていた力なのか。それはつまり昨日起こった奇跡は本当だったと言うことになる。


「ジグルス、何をしたの?」


 サーサラは起こっていることが分かっていないようだ。


「さあ、自分から転んだんだろ」


 俺は髭面の男達をバカにするように答える。

 あんなにないことを色々言われたんだ。これくらいは良いだろう。


「それよりサーサラ、没落貴族って本当なのか?」


「ごめんなさい。ジクルスがそのことを知らないと思って私、ホッとしてしまったの。あんなに馴れ馴れしくしてしまった」


「馴れ馴れしく?俺、お前の話し方好きだぜ」


「……何言ってんのよ!」


 サーサラは褒められるのに弱いのか顔を赤らめる。

 かっ、可愛い。

 

「それより聞いて良い?さっきのメイドをってやつ」


「まあ、そうなるよね。実は……」


 たとえ嘘だと思われても良いと本当の事を簡潔に伝えた。


「サーサラ、信じて欲しくて言ったわけではないんだ。少しでも嫌ならここでさよならだ。……こいつらの目的は俺だから」


「ふん、それが本当ならジグルスがこれからソロで冒険者するしかねないじゃないの。冒険者の評判を下げないためにも私がいてあげる」


 彼女は俺の言葉を聞いて少し怒ったように言った。


「俺はそんなに常識知らずか?」


「そうよ」


 この街に来てから初めて友達が出来たような感覚に俺は嬉しさから顔をそらす。


「おい!てめえらお頭が地面に倒れてるってのに何、話してやがる」


 と邪魔するように男達の一人が言った。


「サーサラ。行こうか」


「良いのね?」


「何言ってんだ。サーサラから一緒にって言ってきたんだろ」


「……そうね。私が色々教えてあげる」


 俺とサーサラは周りを気にせず歩を進める。



 これからルーイの刺客などがまだくるかも知れない。でも、今日はサーサラと少し仲が深まった気がするから良しとする。


 


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