第2章 グレーテル市での生活
第17話 グレーテル王立冒険者ギルド総本部
(2020年9月25日の朝です。)
翌朝になった。昨夜戦った場所には、魔物が5体転がっていた。僕が見たこともない魔物だった。肌は緑色に近い黒色。大きさは、豚顔のオークよりも二回り位大きく、お腹がプックリ膨らんでいる。顔は、人間というよりもサルに近いが、眉毛や鼻の形は人間に近かった。腰には、粗末な毛皮が巻かれており、足は極端に短い裸足だった。武器は、真っ赤にさびている剣や、太い丸太の持つ所だけ削ったようなこん棒だった。
「オーガね。」
シェルさんが教えてくれた。巨人族の食人鬼。体力は信じられない位高いが、知能と俊敏性に欠ける魔物、特殊スキルは特にないそうだ。体力が高い分、攻撃への耐性が高く、『C』ランクパーティーで1体倒すのがやっとというレベルだそうだ。シェルさんが、怒った口調で、
「なんで起こしてくれなかったのよ。一緒に戦いたかったのに。」
絶対、他の理由だろうと思った僕は何も言わなかった。シェルと僕の二人がかりで、魔石を取り出したが、僕のとどめで割れてしまった魔石もあり、あまりお金になりそうもなかった。お姫様は、嫌なものを見たくないのか、顔を背けて馬車に戻っていった。
剣の先が、オーガの血でベタベタになってしまったので、洗濯石で綺麗にしてから鞘にしまった。死体は、このまま放置すると、腐敗してしまうので処理してしまわなくてはならない。燃やすこともできないので、穴を掘って埋めようとしていたところ、ジェーンさんが近づいてきて、ファイアの魔法で処理してくれた。何気に料理以外の能力が高いメイドさんだった。
シェルさんとのパーティって、何かと足りないところが多いのではないかと思う僕であった。
---------------------------------------------------------
(10月1日の午後です。)
やっと王都に着いた。あれから、ウエスト・グレーテル市と、小さな町と3つの村を通過した。野営も3回した。王都の手前の村で、ジェーンさんが早馬を出していたので、王都の門の前には、近衛騎士隊の人達が仰々しく並んでいた。中には、お姫様の後ろから大回りしてきた方達もいたみたいで、ひどく疲れた顔をしていた。お姫様の馬車が、隊列の間を通過すると、隊長の号令で捧げ剣の姿勢をとって、臣下の礼を尽くした。お姫様は、慣れているのか軽く会釈をしただけでほとんど隊列の方は見ていなかった。
王都の門は大きく、素晴らしい彫刻がされている石製の門だった。馬車2台が並んで入ることができるほどの幅があったが、その門は、王族や上級貴族専用のものらしく、平民は、その門の脇にある馬車1台がやっと通れる門に長い行列を作っていた。この門は入口専用らしく、出口は、大門の反対側にあって、時たま馬車や平民が門から出てきていた。
僕達は、お姫様と一緒ということで、当然に大門から馬車ごと王都に入っていった。王都に入ったら、その場でお別れということではなく、これから馬車で1時間以上行った先に王城の城壁があり、その入り口の門の前まで、警護して任務終了となるそうだ。僕は、馬車から降りて、後からついて行ったが、シェルさんは最後まで、馬車の中に座っていた。
王城の門の前で、ジェーンさんから完了届のサインをもらい、本当にお別れになった。お姫様は、目に涙を浮かべて「さようなら」をしていたが、住む世界の違う人だ。もう二度と会うことはないだろうと、少し冷たく考えながら、手をふっている僕であった。シェルさんは、当然のように涙目になっていた。
お姫様たちと別れてから、王都であるグレーテル市の冒険者ギルド本部に向かった。アレンさんの依頼を果たすためと、僕の冒険者証を正式の物にして貰うためだ。
ギルドに着いて驚いた。4階建ての大きな建物で、周囲には掘割が掘られており、どう見ても騎士団の連隊本部か公爵様の居城のような様子だったからだ。何故、こんな建物が必要なのか分からなかったが、きっと一杯お金を儲けているんだなということは、世間知らずの僕でも直ぐに分かった。ギルドの中は、他の市のギルドと違い、広いロビーはガラガラで、受付には二人の若い女性が座っていて、両脇には衛士のような姿の男性が2名立っていた。ここは、受付だけのための広間で、要件ごとに階と部屋が分かれているようだった。
僕達が、受付に近づくと
「いらっしゃいませ。グレーテル王立冒険者ギルド本部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか。」
と、右側の女性が微笑みを浮かべながら尋ねて来た。
「エクレア市ギルドのアレンさんから、書類を預かってきたので、ギルドマスターに渡してもらいたいのですが。」
と言って、アレンさんから貰ったギルドマスターへの紹介状と、アレンさんが、さぼって溜めていたらしい報告書の束を渡した。受付の女の人は、それを受け取ると後ろの筒みたいな物の蓋をあけて、
「ギルドマスターにお客さんです。」
しばらくすると、若い男の人が、裏から現れ、紹介状と書類の束を受け取ると、僕達に、
「大変申し訳ありません。ギルドマスターは只今会議中でして。どうぞこちらの部屋でお待ちください。」
と言って、大広間に並んでいる小部屋の一つに案内された。部屋の中で、居心地悪そうに待っていると、小さな亜人の子がお茶を持って来てくれた。その子は、猫のような耳とシッポをしていたが、他は全く人間と同じであった。
「お茶をどうぞ。」
その子は、一言そう言って下がっていった。しばらくすると、背が高く、髪の毛を肩まで伸ばした男の人が部屋に入ってきた。
「シェル様、ゴロタ様ようこそ冒険者ギルド本部へ。私は、ギルドマスターの秘書をしておりますモンデと言います。さあ、こちらへどうぞ。」
と言って、僕達を案内してくれた。この男の人もヘレナさんと同じくモノクルを左目に付けていた。雰囲気から、受付の人よりも地位が高そうな人だったが、秘書さんて偉いのかなと思った僕であった。ギルドマスター室は4階であった。2階が依頼受付及び依頼受注カウンターと食堂、3階が依頼完了報告届と、報酬受渡しカウンター、それに依頼に関係ない素材買取所、4階がギルドマスター室等の事務室及び会議室と冒険者登録カウンターになっている。また、この本館のほかに別館及び運動場と解体所があり、すべてが城壁の掘割の中にあるそうだ。
ギルドマスター室の大きな部屋に入ると、窓際の大きな机に、かなり年配の男性が座っていた。モンデさんは、部屋の中に一緒に入ると、隅の方に静かに立って、何かをメモしていた。
「初めまして、儂が、この冒険者ギルド本部のギルドマスターのフレデリック・フォン・グレーテルじゃ。よろしくな。」
え、グレーテルって、確か王族の名前だったような気がしたのですが。シェルは、いつもの仮想カーテシをして、
「お初にお目にかかります。私は、シェルナブール・アスコットと申します。フレデリック閣下。こちらは、私の婚約者のゴロタです。」
と自己紹介をした。フレデリック閣下って、もしかしてお貴族様、それもかなり上級の。
「いや、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。アレンからの紹介状を読ませてもらった。なかなか面白いらしいのう、ゴロタ君は。ところで、エクレア市からここまでエーデルと一緒の旅はどうだったかな。
いや、お姫様を呼び捨てかい。
「はい、魔物や盗賊を討伐しながら楽しく旅をさせていただきました、」
「ハハハ、エーデルは結構わがままなところがあるんで、大変だったじゃろ。儂も、意見をするのじゃが、どうも言う事を聞かんのでいかん。ま、苦労しただろうが許してやってくれ。」
「ところで、紹介状によるとゴロタ君の能力などをもう少し調べてから、ランク認定してもらいたいとのことじゃったのだが、それでいいのかな?」
「はい、お願いします。」
「先ほどから、儂の質問にアスコット嬢が答えているが、ゴロタ君は喋れないのかな。手紙によると非常に無口とあったが。」
「喋れる。」
やっと一言だけ口にできた僕。
「この子は、初対面の人と会うと上がってしまって、喋れなくなってしまうのです。婚約者である私には普通に話せるようになったのですが。」
さっきから、婚約者を強調していませんか。シェルさん。
「ホホホ、面白いのう。それではさっそく、検査をしてみようか。こちらに来てくれんか。」
フレデリック閣下は、そういって部屋の奥の扉の方に歩いて行った。扉の中は、結構広い部屋で、見たことのない大きな機械と、機械の上にはガラス板が立てかけられていた。機械の中央付近に開いている穴に右手を差し入れると、針のようなものが人差し指にチクリと刺さった。暫くすると調査の結果が分かった。機械の上のガラス板に文字が浮かび上がっている。
******************************************
【ユニーク情報】
名前:ゴロタ (ゴーレシア・ロード・オブ・タイタン)
種族:古????????種族
生年月日:王国歴2005年9月3日(15歳)
性別:男
父の種族:魔族
母の種族:妖精シルフ族
職業:????、冒険者:ランクA
******************************************
【能力情報】
レベル 8
体力 4600
魔力 12300
スキル 6900
攻撃力 7000
防御力 9800
俊敏性 7400
魔法適性 すべて
固有スキル
【威嚇】【念話×】【持久】【跳躍】【瞬動】
【探知】【遠見×】【暗視×】【嗅覚】
【聴覚】【熱感知×】
【雷撃×】【火炎×】【氷結×】【錬成】
【召喚×】【治癒×】【復元×】【飛翔×】
【??】【??】【??】【??】
【??】【??】【??】【??】
習得魔術 なし
習得武技 【斬撃】
*******************************************
これには、僕自身も驚いた。自分の名前が『ゴーレシア』とは、しかもロードでタイタンという姓まであるなんて。タイタンって人はどこに住んでいる人なの。お貴族様なのかな。
種族が、『古』何とか族って何だろう。それに冒険者ランク、『A』って、確か最上位だったはず。何もテストも受けてないのに、いきなり『A』ってひどいんですけど。きっと、ひどく怖い冒険だって行かなきゃいけなくなるのかな。魔法なんか全然使えないのに適性が『すべて』って、この機械、絶対故障している。うん、そうだよ。故障だよ。だから、もう帰して。ハッシュ村に。
いろいろ考えていたら、なんか泣きたくなってしまった。泣き虫は直したと思ったのに。メソメソ泣き出したら、フレデリックさんとモンデさんが慌てて宥めてくれたが、泣き止まないので甘いお菓子を取り出して、僕に渡してくれた。
僕は、そのお菓子をチマチマと食べて、泣き止んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます