第18話 ゴロタが冒険者に正式登録しました

(10月1日です。)

  僕は、正規の冒険者証を貰った。能力レベルでは、ランク『A』だが、基本レベルが『8』なので、ランク『D』で登録された。


  基本レベルとランクの関係は、

  ランクF  レベル0 ~ レベル3

  ランクE  レベル3 ~ レベル5

  ランクD  レベル6 ~ レベル10

  ランクC  レベル11~ レベル30

  ランクB  レベル31~ レベル50

  ランクA  レベル51以上


  ランクB以上になるためには、通常の冒険を繰り返しているだけでは無理で、そのランクの上位種でしかも現に脅威を与えている存在を倒さないと、上位ランクにはなれないという事らしい。『現に脅威を与えている』というのは、人里離れたところでひっそり暮らしているドラゴンの休息時間に毒を盛って倒してもダメということだ。うん、分かりやすい。


  フレデリックさんは、僕の能力を見て、首を傾げている。


 「おかしい、ずいぶん上位モンスターを倒しているというのに、レベルの上がり方が異様に遅い。これはどういう訳じゃ。」


  どうも、旅での魔物の討伐情報がフレデリックさんに入っているみたいだ。でも、これで僕の能力認定は終わった。それから僕達は、3階に下がって、お姫様警護の依頼完了証を提出した。成功報酬は、金貨3枚とおいしかった。さすがお姫様。太っ腹。


  次に、成果品として、水竜の魔石やオーガの魔石を提出したところ、金貨8枚にもなった。あのオーガ5匹で金貨3枚近くになるとは思わなかった。


  ギルドの中で、昼食を食べたのだが、見慣れない美少女達が二人だけで食事をするのが珍しいのか、ほとんどの冒険者たちがチラチラと僕達を見ていた。だが、さすがギルド本部、こんなところでナンパしてくる者はいない。まあ、普通の冒険者の年齢で、僕に声を掛けてきたら、見た目上は間違いなく犯罪成立となってしまうだろう。



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  ギルドを出てから、武器屋に寄ることにした。特にどこがいいという訳ではないのに、そこを選んだのは、あまり綺麗ではないが、店内に陳列されている武器の程度が良かったからだ。


  入口に架けられた看板には『カメの甲羅武器店』と書かれており、何で『亀の甲羅?』と思ったら、アダマンタイト・タートルのことを言っているらしい。アダマンタイト・タートルなんてもう絶滅しているはずなのに。何を考えているんだろう。


  武器屋に入ると、店主らしい、感じの悪そうなドワーフのおじさんと、やる気のなさそうな緑色の髪の毛のハーフエルフの、若いというか、まだ子供の女店員さんがいた。その店員さんには、冷やかしお断りという感じで知らんぷりをされた。でも、シェルさんは、店内の弓コーナーに行って、ボウガンをいくつか選んでから、店員に声を掛けた。


  「すみません。このボウガン、試射できますか?」


  「お買い上げですか?買わないのに試射はお断りしてるんですけど。」


  さすがにカチンと来たシェルさんが


  「あなたねえ、試射してみて良くなかったら買うわけないでしょ。この店は、不見転で商品を売るほど良いものばかりなの。」


  もう、ほとんど喧嘩である。見かねた店主らしき男が出てきて


  「このお嬢さんの言うとおりだ。シズ、このお客さんに謝りな。」


  と言ったので、その店員は仕方なさそうに


  「チッ、すみませんでした。」


  「え、今、舌打ちしなかった。まあ、いいわ。私、ボウガンは初めてなんだけど、どれがいいかしら。」


  「お嬢さんの冒険者ランクはどれくらいだい。え、『D』ランク。それなら、それほど力がなくても操作できるこの弓はどうだい。黒檀の銃床に黒鋼のボウ、照準は両目用となっている。魔力対応はないが、矢に魔力を込めることができれば特に問題はないはずだが。」


  シェルさんは、それを聞いても良く分からないようだったが、裏で試射してみることにした。


  裏は、広い射場になっており、30m、50mの距離に的が設置できるようになっている。


  最初は、30mの的に向かって撃ってみる。初めての割には、姿勢が良い。スクッと立って銃床を右肩にしっかりと付け、両目を開けたまま照準を合わせる。引き金にゆっくりと力を加えていき、


    シュポッ!


  あまり大きな音がしないまま、矢がボウから放たれた。撃ち終わってもシェルさんの姿勢はほとんど変わらなかった。


  矢は、的の黒点、やや左上に当たった。店の主人が、矢の当たった場所を見ながら照準を調整する。何回か、調整した後、全的命中しだしたので、調整を終えた。次に50mの距離も試してみるが、これも全的命中した。店の主人は、本当に初めてかと何度も確認していたが、僕には何故、初めてなのにこんなに当たるのか原因が分かっていた。それは、シェルさんの『射撃スキル』のせいだ。これなら、あのエアロカッターよりも効果があるかも知れない。


  ボウガンの扱いに慣れたシェルさんは、今度は、的の左上の方を狙って撃った。そして、的の方をジッと見ていたところ、明後日の方に飛んで行った矢が、キュインと曲がって、的の真ん中にズバンと当たった。


  これを見ていた店の主人は、非常に驚いていたが、この女の子がエルフ族だということで、納得していた。後で聞いた話だが、死んだ奥さんも弓矢が超得意だったそうだ。


  結局、この店でボウガンセットを買うことにし、望遠照準と手入れ道具一式を追加で購入して大銀貨7枚だった。店を出ようとすると、僕は声を掛けられた。


  「お嬢ちゃん、その短剣カバー、どこで買ったのかい?」


  「これはエクレア市のガチンコさんの店で作ってもらったんですよ。」


  「え、『ガチンコさん』ってあのガチンコ師匠?」


  と店主さんはものすごく驚いていた。話によると、店主さんは『ダッシュさん』と言い、ガチンコさんの一番弟子で、若い頃、同じ騎士団で勤務していたが、引退してからそれぞれ武器・防具店を始めたのだそうだ。ガチンコさんは、ダッシュさんの剣術と鍛冶の両方での師匠だそうだ。


  それから、店番をしているあの女の子は、自分の娘の『シズ』で死んだエルフの女房との一粒種のため、甘やかして育てたら、ああなってしまったそうだ。うん、その話、僕たちに関係ないから。


  それで、ガチンコ師匠のお得意さんならうちのお得意さんでもあるので、いつでも射場で練習してよいとの許可をいただいた。


  なんとなく、感じがよくなったので、アーチャー用の防具もフルセットで購入することにした。今、使用している中途半端な鎧セットは下取りに出すことにして。


  嫌がるシェルさんのサイズを採寸して、使用する外装、革の種類等を決めた。僕にはよく分からなかったが、軽い合金に水竜の革を張って、強度を出すように作るそうだ。あ、あの水竜の革、少し貰っておけば良かったと後悔したが遅かった。


  出来上がりは、2週間後だそうだ。シェルさんは前金として半金を払ったが、金貨1枚と大銀貨3枚を払っていた。まあ、短剣カバーよりは安いか。




  『カメの甲羅武器店』を出てから、僕達は、明鏡止水流の総本山を訪ねることにした。場所はダッシュさんに聞いたのだが、ギルドよりも街の奥の方にあるそうだ。道がよく分からなかったため、娘のシズさんに案内してもらうことにした。


  総本山に行くまでの間、シェルさんとシズさんと話をしたが、シズさんは武器防具店の店員には飽き飽きしているそうだ。本当は冒険者としていろんなところを旅したり、騎士団に入って、やりがいのある仕事をしたいのに、ダッシュさんが絶対に反対しているので、今のところ諦めているとのことだった。


  でも、15歳になって中学を卒業したら、絶対に家を飛び出してやるんだと、とても重大な秘密をペラペラしゃべり始めた。シズさんは、今13歳だそうで、ダッシュさんに隠れて剣の道場に通っているそうだ。今、向かっている総本山こそ、シズさんの通っている道場だった。


  総本山に着くと、ガチンコさんからの紹介状を渡した。しばらく待っていると、師範代という人が出てきて、道場に上げてくれた。シズさんも一緒に上がってきて、見取りをすることになった。


  ガチンコさんの手紙によると、筋が良いので、キチンと指導をしてもらいたいとのことだった。そこで、僕の今の実力を見るために、基本的な型をやってみることになった。どちらの剣でやろうか迷ったが、ベルの剣カバー付でやってみることにした。


  『黒の剣』をシェルさんに持って貰い、カバー付きの『ベルの剣』を右手に帯刀し、軽い目礼の後、道場の中心に進む。カバーをしたまま左手で抜刀して、左青眼、一旦引いてから大きく振りかぶって面打ち、その瞬間、光が剣から発射されて壁にドンとぶつかる。


  次に左下段に構えて、体を左に交わしてからの小手打ち、やはりピュッのドン、7つ位の型をやってから、突きの型になったとき、大きな音とともに一直線に光が走り、『ドカン』という音とともに壁に大きな穴が開いてしまった。え?何で。師範代は吃驚してしまって、


  「やめ!」


  と声を掛けてきた。門弟の人達が、穴の方に走り寄って、点検した結果、穴の向こう側には被害が出なかったようだ。僕は、涙目になってシェルさんをみていた。シェルさんは


  「すみません。こんなに大きな穴をあけてしまって。弁償しますので、お許しください。」


  「いや、良いんですよ。激しい稽古で何度も穴をあけてますので。穴の向こう側に被害がなくてよかったですよ。」


  と言ってくれた。でも、やはり悪いので、大銀貨2枚を師範代に渡しているシェルさんだった。その光景を見ていたシズさんは、一言ポツリとつぶやいた。


  「やっぱり、冒険者になるのは諦めようかな。」


  それから、師範代に、型のいくつかを手直しをして貰ってから、木刀を使っての地稽古を始めた。僕は小児用の短い木刀を短剣代わりにして、師範代の長剣と対峙した。


  最初の数合は、打たせてくれたが、それからは師範代の滑るような動きに全くついていけなかった。つい、『瞬動』を使って肉薄するのだが、瞬間、僕の打ち込みを長剣のわずかな動きで躱し、すぐ打ち込んで来るので、残身不十分な僕は、全く抵抗することなく打ち込まれてしまうのだった。


  30分程の稽古で、3回に1回位は打ち込めるようになって来たが、もう時間切れであった。僕は、息切れ一つしていなかったが、師範代は大きく肩を上下させていた。途中、師範と総長が上席に座って二人の稽古を見ていたが、稽古が終わってから総長に呼ばれた。名前や年齢を聞かれたあと、これから暫く道場に通うように言われた。シェルさんも、弓の練習があるし、しばらく王都で鍛錬するのもいいかなと思い、お願いすることにした。


  道場では、段級位制度を採っているが、今の稽古を見て『初段』に列せられた。ちなみに、シズさんは、2年ほど通っているが、いまだに『3級』だそうだ。


  道場を後にした僕達は、宿泊するホテルを予約しようかと思ったが、長期滞在なら、家を借りた方が安上がりだという事になり、それならどこか紹介してもらおうと思って、ギルドに行くことにした。


  結局、ギルドに紹介された貸し部屋は、ダッシュさんの店の2階で、昔、職人さんを住み込みで働かせていた時に使っていた部屋を借りることになった。バス、トイレ付、キッチンには魔石利用のコンロもあり、月に銀貨6枚と格安であった。部屋は2部屋あり、二人で1部屋ずつと思ったが、1部屋はリビングとして使い、もう1部屋を寝室に使うことにした。寝るときだけ、僕がリビングで寝ることにすると言ったが、許してもらえず、相変わらず一つのベッドに二人で寝ることになった。




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(10月3日です。)

  王都で暮らし始めて3日、毎日の炊事洗濯を分担してやることになった。


  料理を作るのは僕、食事が終わって僕が片づけをし、食器を全部洗い終わった後に、食器を棚にしまうのはシェルさんの役目、洗濯をして干すのは僕、乾いた洗濯物を取り込んで部屋に入れるのはシェルさんの役目、取り込んだ洗濯物を畳んでしまうのが僕ときちんと分担している。


  最初、自分の下着は自分で洗うと言っていたが、今までだって、全部僕が洗っていたし、僕が1度、出ていた下着も一緒に洗ってあげてからは、何も言わなくなってしまった。まあ、子供用の小さなパンツとTシャツだけがシェルさんの下着らしい下着なのだが。


  僕は、それから毎朝、日の出前に起き出し、裏の射場に出て剣の型の練習を1時間やることにした。それから朝食の準備と洗濯、シェルさんが起き出してから二人で食事をする。食事が終わると、食器を洗う。洗濯石を使い、あっという間に洗い終わってしまう。それを棚にしまうのは、シェルさんの役目のはずだが、食後休憩と言って、動こうとしない。仕方がないので、いつも僕がしまうのだ。


  部屋は狭いので、掃除も大したことはないが、一応、雑巾で床を拭く。その間、シェルさんは、お茶を飲みながら本を読んでいる。


  それから、ギルドに依頼を受注しに行ったり、市内で買い物をしたりして、何もなければ夕方、道場に顔を出し、2時間木刀による稽古をみっちりした後、買い物をしながら帰宅する。シェルさんは、気が向くと道場で僕の稽古をみているが、直ぐに来なくなり、一人で先に帰っている。


  家に帰って、裏の井戸から、水を運び、お風呂を沸かすのは僕の役目だ。その後、夕飯の支度をしている間にシェルさんが、お風呂に入る。


  お風呂から上がったシェルさんと夕飯をとる。その後、僕がお風呂に入って、風呂掃除をしてしまう。その後、少し読み書きの練習をして就寝。シェルさんは、寝間着のまま、明日着る服を選んでいる。(何か間違えている気がするが、ほっとこう。)

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