第16話 宴会、そして禁断の闇の中

(9月22日です。)

  水竜を討伐した。その姿を良く見ると、竜と言うよりも、『魚のでっかいの』と言う感じだった。村人達は、もうお祭り騒ぎだった。


  これで、僕達は、向こう岸に渡れるようになったのだが、今夜、祝勝会をするので、もう一晩泊まっていって欲しい、宿泊料は要らないからと言うことだった。お姫様も、もう一泊することに同意したので、祝勝会に参加することになった。


  僕は、そういう会はあまり得意な方では無いが、シェルさんが目を輝かせて期待しているので、何も言えなかった。


  この戦いで、シェルさんは何とレベルが3も上がって13になり、僕も1上がって8になった。水竜の素材の内、魔石だけ貰ったが、水色の透き通った魔石で、宝石のようだった。


  水竜は、捨てるところの無い、素材の宝のようだった。お肉は美味しく、特にお腹の回りの白っぽいところは、生で食べると口の中でフワーと溶けてしまうくらいトロトロで、しかもしつこくない旨さだそうだ。他の部位だって、適度に脂が乗って、魚の旨さと脂のコクがコラボして、いくらでも食べられのだ。


  特筆すべきは皮だ。皮は、固くザラザラしているので、金属加工用の『やすり』として使ったり、防具の表皮として使ったりできる。それと口の中の牙は、矢尻やナイフに、脳味噌や目玉は薬の素材になるし、ヒレは干してから戻すと、珍味として高級食材になる。残った大きな骨は、家の構造材になるそうだ。



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  僕にとって、恐れたことがやって来た。僕は、宴会なんか嫌だったんだ。一番上等の席の真ん中に座らされ、皆の注目を浴びている。しかも、あの女の子のドレスを着せられて。頭には、エーデル姫様から借りたティアラまで付けているなんて。絶対に、おかしい。


  村の人達は全員リザードマンだから、僕に対して迫ってきたりしないけど。でも、他の旅人のおじさん達が、変な目付きで見たり、うちの息子の嫁にとか、訳の分からないことをいい始めるし。


  隣では、シェルさんが、


   「魚料理には、やっぱり白ね!」


  とか言って、ワインをガブガブ飲み始めた。その後、お米で作ったお酒も飲み始めてからは、僕に抱きつくは、村人をひっぱたくはの大暴れ。見かねた村長さんが、酔いざましに持ってきたお水を、村長さんの頭から掛けてしまって、もう修羅場となってしまった。


  お姫様に助けを求めようとしたら、大きなコップにワインをたっぷり入れて、ケタケタと笑いながら、ジェーンさんにもたれ掛かっている。駄目だ、これは。シェルさん、警護任務を忘れないでね。僕だけでも任務を遂行するため、お水を飲み続けたけど、もう、お腹の中がチャプチャプです。


  暫くすると、ようやく宴会が終わった。僕は、シェルさんをお姫様抱っこして部屋に戻った。途中、本当のお姫様が羨ましい目で僕達の方を見ていたが、完全スルーした。部屋に戻ると、とりあえずベッドにシェルさんを寝かせ、いつものようにドレスと、パンツ以外の下着を脱がせ、寝間着を着せた。本当に慣れとは怖い。かなり、手際が良くなっている。


  僕は、シェルさんに毛布を掛けてから、いつものように洗濯をし、それからシャワーを浴びた。ああ、今日は疲れた。水竜退治は、大したことはなかったが、夜の宴会で、大型魔物何匹分にも匹敵する位、疲れてしまった。シャワーを浴び終わると、魔光石の光を消して、シェルさんの隣にもぐり込んだ。いつものように。


   「ううん、ゴロタ君。」


  シェルさんが、僕の方を向いて手と脚を絡ませて来た。最近は、いつもこうだ。しかし、今夜はいつもと違った。シェルさんは、いつの間にか寝巻きの上着とズボンを脱いでいたのだ。つまり、小さなパンツ1枚で寝ていたのだった。きっと酔って寝苦しかったので、自分で脱いでしまったのだろう。


  僕も疲れていたので、そのままにして、眠ってしまった。ああ、お酒臭いなあ!




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  シュルは、深夜、ハッと気が付いた。真っ暗な部屋の中で寝ている。


  『ここは、どこ?』


  隣には、いつものようにゴロタ君が寝ている。ああ、きっと酔って寝てしまったんだわ。でも、ここまで誰が連れて来たのかしら。やっぱり、ゴロタ君よね。私をここまで連れて来たのは。それにしても、なんか身体がスースーするわね。どうしたのかしら?


  あら、上着が無い!何も着てない。何故?あ、下は?良かった。履いてる。でも、ズボンが無い。こんな格好で、寝てなんかいられないわ。起きて寝間着を探さなくちゃ。寝間着はどこ?あ、足元にあった。早く着なくちゃ。ゴロタ君、寝ているかしら。寝てるみたい。私のナイスバディを見られなくて良かったわ。


  さあ、もう寝よう。おやすみなさい。



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  次の日、僕達は、カフェ村を後にして、グレート・グレーテル大渓谷を渡河した。向こう岸にもリザードマンの村があったが、特に用もないのでスルーして、急峻な崖を九十九折に登って行った。相変わらず、僕は後部の随員席に腰かけている。


  旅を始めてから、10日目の夜、この旅行で最初の野宿をする。前の村と次の村の間があり過ぎて、1日ではたどり着けないのだ。野営の場所は、大きなセコイアの樹の下、下草が柔らかく広がっている広場のような場所だった。昔は、ここに村があったようだが、今は村の痕跡が少しあるばかりの寂しいところだ。


  お姫様達は、メイドのジェーンさんと御者の二人が、野営の準備や夕食の支度をしているが、ジェーンさんはあまり料理が得意ではないようで、干し肉や乾燥果物そして固い黒パンで夕食を済ますようだ。当然、お姫様は何もしないで、準備が整うまで、その辺をブラブラしている。


  僕達は、シェルさんのバックから飯盒と片手鍋、それに簡単なキャンプ用食器を取り出して、食事の準備を始める。付近の石や枯れ木を集めて、竈門をつくり、火をつける。そして、水の入った鍋を竈門に掛けた。


  飯盒を取り出し、干し肉と鳥の骨を入れて、鍋と一緒に竈門に乗せ、出汁が出てから小麦を入れて煮込んでお粥を作った。香り付けにバジリコの生葉を混ぜる。


  竈門に掛けた鍋の水が沸騰したので、干し肉と豆とジャガイモを入れてグツグツと煮込んでいく。途中で、僕がハッシュ村で採取して乾燥しておいたハーブ数種類を混ぜると、途端に食欲を誘うような匂いがあたりに充満した。


  その間に、リンゴとオレンジの乾燥したものをカップに入れ、水に浸しておく。柔らかくなったところで、砂糖を混ぜ、竈の端においてゆっくり煮込んでいく。


  当然、今までの料理は僕1人で準備しており、シェルさんは火に枯れ木をくべたり、近寄ってきた虫を追い払ったりしているだけであった。その様子を見ていた、お姫様が近づいてきて、


 「良い匂いね。私の分もあるかしら。」


  まあ、予想はしていたが、お姫様には遠慮という言葉はない。お姫様だから。


 「皆さんの分も十分にありますから、良かったらご一緒にどうぞ。」


  残ったら、明日の朝食にでもしようと余分に作ったので、十分に余裕があった。ジェーンさんと御者さんも近づいてきて、有り合わせの食器を使って夕食会となった。


  「シルちゃんは、どこで料理を覚えたの。」


  「ハッシュ村、一人だった。」


  シェルさんが補足説明をしてくれた。


  「シルは、ハッシュ村で10歳の時から、私が迎えに行くまでの5年間、一人で生活していたの。だから、料理から掃除、洗濯すべて一人前にできるようになったんです。」


  いつ、シェルさんが迎えに来たのかは知らないが、一人でやらないと、誰もやってくれなかったことは事実だ。ただ、料理は母親のシルが死んで、ベルの分まで作るようになったから、もう8年位の経験がある。


  夕食が終わると、就寝となるのだが、僕達は。棒に布を張っただけの簡単なテントの下で、寝袋に入って寝ることにした。寝袋は一つしか準備していないが、交代々々で不寝番をするので、一つで十分である。


  最初は、僕が見張りに着くことになった。両腰に『ベルの剣』と『黒の剣』の2本を吊り下げ、少し高くなっている瓦礫の上に座って周囲に注意を払った。誰かが近づいてきた。僕には誰だかすぐ分かった。お姫様だ。もう、かなり夜も遅い。きっとトイレにでも行ったついでに寄ったのだろう。


  辺りは、焚火の残り火があるだけで、真っ暗闇である。


  「シルちゃん、大丈夫?眠くない。」


  「大丈夫。」


  「うん、シルちゃんは強いからね。でも、シルちゃん、どうして冒険者なんかしているの。まだ、見習いらしいけど、怖くないの。」


  「ママが魔物に殺された。」


  「ママって、シルちゃんとシェルさんのママ?」


  僕は、暗闇の中で、首を振りながら


  「ママは妖精、エルフとは違う。」


  「え、シルちゃんは妖精の子なの?お父さんは?」


  その問いには答えずに、じっと黙っていた。


  「そうか、シルちゃん、大変なんだね。分かった。私もシルちゃんの姉様になってあげる。これからは、なんでも相談してね。それじゃ、おやすみなさい。」


  何が分かったのか、また、何故お姉さんになってくれるのか、全く分からなかったが、お姫様が立ち去ってくれてホッとしている僕だった。


  そして本当に夜も更けたころ、辺りに、危険な匂いが立ち込めてきた。魔物が近づいてきているのだ。姿は見えない。僕の暗視スキルは未だ開放されていない。しかし、この開けた場所では、聴覚と嗅覚そして探知能力さえあれば、昼間のように、その所在が分かってしまう。


  僕は、探知した危険度から、『黒の剣』とカバー付きの『ベルの剣』の二刀流で戦うことにして、瓦礫の上から静かに降りた。


  焚火に枯れ木を継ぎ足して、火の勢いを強くした。獣の目は、暗ければ暗いほど瞳が開き、暗視が効くようになるが、ある程度明るいと、瞳が狭くなり、急に暗いところを見ても、何も見えなくなることを知っていたからだ。


  火をバックに獣に近づいていく。魔物の種類まではわからないが、数が多い。5匹位いそうだ。大きさは2m以上ありそうだが、動きは緩慢だ。何だろう。今まで嗅いだことのない匂いだ。


  魔物が射程距離に入ってきた。僕は『瞬動』スキルを使って、一瞬で先頭の魔物に近づき、魔物の左足アキレス腱を『黒の剣』で切断した。魔物は、何が起きたか分からないままに、立っていることができずに、その場で転倒してしまった。


  僕は、次々と魔物を狩っていく。すべてアキレス腱を切断していくことにしたのだ。僕の接近に気が付いた魔物が、大きな得物を横払いして僕を攻撃しようとしたが、右手に持ったカバー付き『ベルの剣』で受け止めた瞬間、低い姿勢をとって『黒の剣』で敵のアキレス腱を切断した。


  魔物達は、地面に転がりながら、大きな鳴き声を上げている。僕は、逃げられないように、魔物の残りのアキレス腱もすべて切断していく。魔物の異様なうめき声で起きたシェルさん達が、魔光石を光らせながら、近づいてきた。


 「来ちゃ駄目。」


  僕は、皆を止めた。下手に近づいて、魔物に反撃されたら、大変だ。しかし、このまま放置すると、魔物のうめき声で、一晩中眠れないことになってしまう。


  僕は、あきらめて、すべての魔物の胸に『黒の剣』を突き立て、とどめを刺した。


  「帰って。」


  皆をキャンプまで戻してから、ゆっくり剣を納め、僕もキャンプ地に戻っていった。

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