第14話 ゴロタ女の子になる
(9月18日の夜です。)
ホテルでシェルさんは着るドレスに悩んでいた。
あまり大人っぽいものは、背伸びをしているみたいだし、年相応のドレスだと子供っぽいし。それにシル(ゴロタ君)がピンクのドレスで可愛い系だから、自分はゴージャス系かエロス系(どんなだ?)がいいと思う。そんなことを考えていたら、着替えを終え、洗面所から出てきたゴロタ君を見て息を飲んだ。可愛い。可愛すぎる。こんな女の子、見たことない。
彼女?が、未来の旦那様なんて美味しすぎる。ジュルッ!
私は、気を取り直して、ゴロタ君に自分がどんなドレスを着た方が良いかを聞いたら、赤い顔をしながら、
「どれ着ても、きっと可愛いと思う。」
と、女の子殺しの一言。本当にありがとう。でも、やはりドレスは別。悩みに悩んで、水色のイブニングに赤い花のコサージュ。スカートは可愛らしく膨らませて。アッ。あれを入れなければ。
一生懸命、胸に詰め物をするシェルさんの姿をボーッと見ている僕だった。
「何、見てんのよ。あっち、向いてて。」
顔が真っ赤になってしまった。僕達が停まっているホテルから、お姫様の泊まっているホテルまでは500m位の距離だった。2人の美少女?は、周囲の注目と羨望を集めていたが、何処にでもおバカさんはいるみたいで、お貴族様風の男が僕達に声を掛けてきた。
「君たち。どこから 来たの。ねえ、何処に行くの。ちょっとお茶しない。」
いつのナンパか、分からない位の陳腐な言葉を掛けてきた。面倒臭かったのか、シェルさんが『フン』と顎をシャクって僕に合図をした途端、そのお貴族様は、しゃがみ込んで、ズボンの腰の辺りを濡らし始めた。僕が、例の『威嚇』をお貴族様だけに集中して使ったのだ。そんなことには、構わずに、トットと立ち去る僕達を恐怖の目で見送るお貴族様だった。
お姫様の泊まっているホテルに到着した。いつものようにドアマンに大銅貨のチップを渡し案内をして貰う。レストランは貸切だった。
「シェルお嬢様とシルお嬢様が到着なさいました。」
ボーイの案内でレストランに入った僕達を見たジェーンさんは、とても驚いた顔をした。あの粗野で、いつも埃まみれの冒険者達が、王国の社交界でも、なかなかお目にかかれないほど可憐で可愛らしい令嬢となって現れたからだ。
出迎えてくれたお姫様にカーテシでご挨拶をした。僕も習ってご挨拶。スカートを両手で軽く摘み、右足を左足の後ろに交差させて、少し膝を曲げて浅く一礼。ウン、うまくできた。きっと。
エーデル姫はお城の舞踏会を思い出してしまった。なんて可愛らしいのかしら。2人とも、お城の舞踏会に出たら引っ張りだこになるわ。それにシェルさん。こんなに胸があったかしら。着痩せするタイプね。私には負けてるけど。
「本日は、お招きに預かり有難う御座います。王女殿下にはご機嫌麗しく、久しくご交誼賜りますように。」
「堅苦しい挨拶はいらないのです。本日は、よく参られましたのです。さあ、こちらへどうぞ。」
相変わらず、変な言葉遣いで席に案内されると、そこには初老の男性と、きっと、その男性の妻らしい女性が座っていた。
「こちらはブリンク伯爵御夫妻ですの。本日の食事会に招待させて頂きましたの。あと、ご子息のベータ殿も招待しましたのに、まだ来られませんの。」
「いやあ、我が愚息までご招待賜り光栄のみぎり。しかし我が愚息は遅いですな。何をやっているのか。」
なぜか遅くなっているお貴族様。僕達は嫌な予感しかしなかった。予感には2つの種類がある。良い予感と。悪い予感。良い予感は殆ど当たらない。しかし、悪い予感は120パーセント当たるとされている。
ドアがバタンと開けられ、汗まみれのお貴族様が現れた。やはり、さっきのナンパお貴族様だった。シェルさんは何も言わずにニコニコ。僕は、真っ赤になって下を向いている。
「遅くなって済みません。途中、悪漢に襲われて。なあに、すぐにおっ払いましたが。」
そこまで言って、視線をシェルさん達に向けた瞬間、お口をあんぐり。あ、あの2人だ。あのドレス、髪の色。間違いない。さっきは何をされたか分からなかったが、絶対に近づいたらいけない2人だ。あ、お腹が急に痛くなった。もう、帰ろう。
「父上、王女殿下。誠に申し訳ありませんが、急に持病の癪が。本日は折角のお招き、このまま、失礼するのはご無礼とは存じますが、平にご容赦の程を。」
慇懃に陳謝の言葉を述べてから、ダッシュで出て行った伯爵のご子息。深く溜息をつく伯爵夫妻であった。まあ、しょうがないか。気を取り直し、食事とワインを楽しむ皆であった。
---------------------------------------------------------------------------------------------
ブリンク伯爵は、一人ほくそ笑んでいた。今日は、良いものを見せて貰った。あの小さな女の子だ。年は10歳位か?あの髪の色。銀色の中に混じる漆黒の髪。
明るい鳶色の大きな瞳。長い睫毛。可愛らしいが、真っ直ぐ通った鼻。特に愛らしいのが、あの唇だ。儂は、ああいう子が欲しいのじゃ。闇奴隷市場では、ろくな子供が出てこない。半分以上は亜人か障碍のある子供じゃ。たまにマトモだと思えば、すでに使用済みだったり。こんな田舎領じゃなく、都会に行かなければ。そうじゃ、今晩、あの子を攫わせよう。匿うのは森の近くの別荘が良いじゃろ。ああ、早くこんな会は終わらないかのう。
---------------------------------------------------------------------------------------------
晩餐会の間、お姫様が僕に対し、生まれや育ち、武術はどこで習ったのかなど、根ほり葉ほり聞かれたが、シェルさんが、知っている範囲で答えてくれたので、僕は、何も答えなくて良かった。
しかし、ブリンク伯爵の『ジトーッ』とした目線には、我慢ができなかった。悪意と、陵辱されているかと思える粘ついた視線、早く帰りたかった。
ようやく晩餐会が終わった。夜遅かったから、エーデル姫が辻馬車を頼もうとしたが、シェルさんは歩いて帰るから大丈夫と胸を張った。今日は、詰め物があるから、いつもより自信満々だった。
僕達が、歩いて帰る途中、黒づくめの野盗に襲われた。僕は、大分前から、変な影の動きに気が付いていたけど、特に脅威を感じる程の威力を感じなかった。しかし、いつもは直ぐにシェルさんに教えているのだが、ある事情で今回は伝えないでいた。影は、僕の背後から襲ってきた。鼻にツンと来る匂いの液体の染みた布を僕の口に当てた。いつもなら、襲われる前に、彼らを排除したり、一瞬で飛び退けたり出来るのだが、今回だけはそれが出来なかった。
何故なら、いつものようにワインを飲み過ぎたシェルさんが歩けなくなり、仕方が無く、お姫様抱っこをしながら帰る途中、急にシェルさんがキス、それも本気キスをしようと迫って来たのだ。流石に、僕も酔っ払いとのファーストキスは嫌だったので、顔を背け、横を向いた瞬間を狙われたのだ。
僕は、意識を失う前に、シェルさんをゆっくり地面に降ろしてから、影の方を振り返り、『威嚇』を放とうとして意識を完全に失った。
気がつくと、薄暗い部屋だった。僕は後ろ手に縛られて、ベッドに転がされていた。縛られているロープを確認したところ、特殊な魔力が込められている訳でも無いので、いつでも力で千切る事が出来ると思ったが、様子を見るためにそのままにしていた。
部屋のドアが開けられ、ランタンを持った男が入ってきた。目の部分に黒いマスクをしていたが、男の匂いには覚えがあった。晩餐会で一緒であった、ブリンク伯爵の匂いだった。ブリンク伯爵は、ランタンをテーブルの上に置いてから、僕に声を掛けた。
「シルちゃん。大丈夫。痛くしないから、大人しくしておいで。」
小さな女の子?を誘拐して、大丈夫もあったもんじゃ無い。しかも、下半身をモッコリしながら言っても説得力皆無なんですけど。
「シェルお姉様は?無事なの?」
「ああ、あの酔っ払い女は、私の手の者がホテルに連れ帰った。大分、顔を引っ掻かれたようだが、本当に女の酔っ払いは手に負えないから困る。」
「私を、どうするの?」
僕には、なんとなく、女の子にとって恥ずかしい事をしようとしている事は分かったが、この場面では、こういう風に聞いた方が良いような気がした。ブリンク伯爵は、もう我慢できないみたいで、口から涎を垂らしながら、
「それはねえ、こんな事をするつもりなんだよ。」
と言って、僕に飛びかかってきた。瞬間、後ろ手のロープを千切る、伸びてきたブリンク伯爵の両手を躱した僕は、右横に飛びのき、ブリンク伯爵の水月にゴツンとこぶしを当てた。
「うっ!」
小さなうめき声を上げた伯爵は、白目を剥いて気絶してしまった。僕は、ゆっくりと部屋から出て行くと、黒づくめのの男が2人、レイピアを突き出して襲ってきた。剣先が紫色に変色しているので、毒が塗られていることが直ぐに分かった。僕は、左右に揺れ動きながら、レイピアの剣先を躱しながらスッと近づき、男の剣を持っている手の親指を逆に折り曲げた。
ゴキュ! カランカラン!
骨の折れる音とレイピアの落ちる音がほぼ同時に聞こえる。僕が目を覚ましてから5分少々で、全てが終わった。その間に親指の骨を折られた者が4名、当身を食らって意識を失った者は7名だった。僕は、そのまま、この屋敷の外に出た。
僕は、ここはどこだか分からなかったが、なんとなくシェルさんがいる方向がわかった。僕はその方向に向けて走り始めた。踵が高い靴とスカートが邪魔で走りにくかったので、靴は脱いで両手に持ち、スカートがめくれるのも気にしないで全力で走った。
シェルさんのところに帰らなければ。何事もなければ良いが、シェルさんのことが心配だ。もし、シェルさんの身に何かがあったら、もう一度、あの家に戻って、彼らを殲滅してやる。眼に涙を浮かべながら、そんな怖いことを考えている僕だった。
ホテルに戻ると、シェルさんがドレスを着たまま、ベッドに寝ていた。服装に乱れたところはない。顔を含めて無事なようだ。物凄く、物凄く安心した。
僕は、シェルさんのドレスとアンダーウエアを脱がせた。胸に当てている布製のニセおっぱいと中の詰め物も取り外す。ニセおっぱいは、後ろの留め金を外すのに手間がかかった。シェルさんは、パンツ一つの姿になったが、別に自分の身体と大差ない幼児体型なので、なにも思わずに寝間着を着せた。初めて下着姿を見たときは、ものすごく恥ずかしかったが、今では何も感じなくなってしまった。慣れというものは怖いもんだ。
僕は、ドレスを脱いでシャワーを浴びてから、ドレスを畳み、靴を磨いてから、シェルさんと僕の下着や靴下を、お風呂場で洗った。窓の外に干してから、ゆっくりとお風呂に入った。お風呂から上がってから、パンツ一つでシェルさんの横に寝転がり、毛布を掛けた。シェルさんからは、お酒の匂いのほかに、甘酸っぱい良い匂いがしている。僕は、すぐ眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます