第12話 エクレア市ギルドからの依頼

(9月6日です。)

  ギルドに戻ったのは、まだ陽が高い時刻だった。


  ヘレナさんに、依頼達成報告を出してから戦利品を提出した。


  あのオークは、オークソルジャーと言う中級魔物で、討伐報酬は銀貨5枚だった。魔石や鎧全部で大銀貨1枚だったので、まあまあである。


  シェルさんは、冒険者カードを鑑定機にかざして自分の能力値を確認した。この結果は、他人には見えない設定が出来るのだが、そのまま表示していたので、僕も見ることができるのだ。


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【ユニーク情報】

名前:シェルナブール・アスコット

種族:ハイ・エルフ

生年月日:王国歴2005年4月23日(15歳)

性別:女

父の種族:エルフ族

母の種族:ハイ・エルフ族

職業:王族 冒険者ランク『D』

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【能力】

レベル     8 (+2)

体力     35 (+5)

魔力    100 (+30)

スキル    42 (+6)

攻撃力    25 (+5)

防御力    20 (+2)

俊敏性    18 (+8)

魔法適性    風

固有スキル

【治癒】【能力強化】【遠距離射撃】【誘導射撃】

習得魔術  ウインド・カッター 

習得武技  なし

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  まあまあの能力向上だと思う。攻撃力向上値が低いのは、敵に与えたダメージが殆ど無かったので仕方がないだろう。


  シェルさんは、首を傾げている。


  「どうしたの?」


  「おかしいなあ。スキルでは『治癒』があるんだけど、使えないの。呪文も知らないし。」


  「ヘレナさんに聞いてみれば、わかるんじゃないかな。」


  2人は、ヘレナさんの所に戻って、聞いてみることにした。


  「お教えしても良いのですが、その情報は、大銅貨2枚になります。」


  「お金を取るんですか?」


  「はい、ギルドの役目の一つに冒険者のサポートがありますが、店舗の紹介や割引情報以外は、全て有料となっております。いかが、なさいますか?」


  「お願いします。」


  シェルさんのスキルは、直ぐに使えるものばかりであった。


  ただ、使うようになるには、きっかけが必要で『治癒』では、治癒したい自分、または相手がいて、治したいと言う強い気持ちが必要だそうだ。そんな場面になれば、自然と使い方が分かるそうだ。


  攻撃系のスキルは、対象武器を使用すれば自然に発揮でき、『遠距離射撃』『誘導射撃』は、エルフ族なら殆どの者が持っていて、弓が得意なエルフが多いのは、そのせいだそうだ。


  また、スキルには、スキル能力値とスキル消費値があり、個々には表示しないので、使い続けることで経験的に分かるしかないそうだ。


  僕も『治癒』スキルを持っているが、まだ使えない。経験が足りないみたいだ。しかし、将来的には必ず使えるようになる、いわば予約済スキルのようなものだ。また、少し位の怪我は直ぐ治ってしまうが、これは身体能力と種族特性によるものらしく、僕のスキルとは関係ないらしい。ということで、シェルさんがスキルを使用できるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。


  『能力強化』は、『身体強化』と違って、魔力と呪文は必要無いが、何を強化したいのかを強くイメージしないと発揮しないそうだ。今まで、そんなことも知らずに冒険をしていたとは、何故か損をしていた様に感じてしまうシェルさんでした。


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(9月13日です。)

  今日は、ベルが残してくれた短剣のカバーが出来上がる日だった。


  あれから、シェルさんのレベルも10まで上がったが、冒険者になる者は、大体それ位のレベルからスタートするそうだ。僕のレベルは、1しか上がらなかった。僕には、レベルが上がる様な敵が殆ど現れず、ステータスも殆ど変化無しであった。


  朝、ホテルを出ると、真っ直ぐガチンコさんの店に向かった。


  ガチンコさんは、黒いブツブツの鱗に覆われたカバーと、僕の短剣を、店の奥の金庫から取り出してカウンターの上に置いた。


  カバーの使い方を教えて貰ってから、実際につけてみたが、なかなか格好いい出来栄えだった。代金は、金貨4枚のところ、2枚にしてくれた。それでも普通の職人の半年分の値段だ。直ぐに半額にしてくれるなんて、最初の値段はなんだったのかと言いたいです。


  この店で買った黒い剣と、この剣の両方下げることができる剣帯はサービスしてくれた。右に黒剣、左に黒いカバーをした短剣(ベルの剣)を提げると、なんだか強くなったような気がした。


  ガチンコさんは、僕に裏に来るように言った。なんでも試したいことがあるそうだ。


  裏庭に出ると、ベルの剣を抜くように言われた。僕は、柄カバーを外し、ゆっくりと左手で抜いて中段に構えた。


  「あんちゃん、魔力を流し込んで見てくれ。」


  左手の指先5本に身体の中のモヤモヤを集めると、ベルの剣の刃体が青白く光り始めた。


  「もっと、強くしてみてくれ。」


  僕は、心の中にいる誰かに手伝って貰おうと念じた。普通の人は、神様とか精霊と呼ばれる者に祈るらしいのだが、僕は、自然に自分の中に語りかけた。


  『もっと強い力を。』


  ベルの剣が、益々輝き、昼だと言うのに、辺りが白い光に覆われ始めた。


  「もういい、もういい。街がなくなっちまう。もう、力を抜いてくれ。」


  僕は、フーッと息を吐いて気を鎮めてからスタッとベルの剣を仕舞った。


  剣に柄カバーを掛けて、しっかり結び紐を結んだ。ガチンコさんは、次にカバーをしたまま同じことをしてくれるように言った。


  やってみると、カバーがほんの少し青白くなるだけだった。


  「その状態のまま、前方の丸太に向かって打つような振り下ろしてくれ。」


  と言われたので、少し力を込めて振り下ろした。


    ズバンッ


  丸太の上から10センチ位、切れ目が入ったが、切り口が信じられない程綺麗だった。


  「やはりな。」


  ガチンコさんは、1人納得したようで、僕達の方を向いて説明してくれた。このベルの剣は、光属性の魔法剣で、適性のある者だけが使えるそうだ。光は、すべての力の根源であり、膨大な光の力は全てを『消滅」』させる。そう、存在さえも無くなる『消滅』をさせることができるそうだ。それは、光魔法とは違う、光そのものの力だそうだ。


  通常の光魔法の剣は、光魔法の魔力を流し込んで使うが、この剣は、体内の光の力を使うのだ。僕が、それ程の力を使うことができるか、どうかはわからないが、先ほどの力でも、街がなくなってしまう可能性があったそうだ。


  ガチンコさんは、さらに、この剣には、もう一つの力が秘められているという。しかし、その力は、よく分からないそうだ。


  カバーの裏に貼った紫色の布は、魔障布と言って、魔法防御のために織られた布だそうで、今では製法がわからなくなった古代技術製の布だそうだ。現在、世界でもほんの僅かしか残されておらず、鎧や盾の裏側に貼ったものは、国宝級の価値になるそうだ。まあ、表素材もアダマンタイト・タートルの甲羅や古の黒龍の鱗で作られているから、どっちの値段が高いのかはわからないが。


  先程の丸太を切った威力は、人間なら致命傷にはならないが、行動不能になる程度の威力にはなるそうで、生身の人間なら決して頭や顔を狙わないようにと言われた。相手の今後の人生を考えて。


  次に、ガチンコさんから剣の形を教えて貰った。ガチンコさんは、昔、王宮騎士と『A』ランク冒険者をしていたので、剣の腕も達人であった。ガチンコさんの流派は、


    『明鏡止水流』


  と言って、静の中の動を極めるものらしい。安価なショートソードを持って、ゆっくりした動きの中で、動作の終りの瞬間、ガチンコさんの放つ気合は見ている者にとってドキッとするものだった。


  剣の持ち方から始まり、足捌き、体捌き、剣の振り方、返し方、目付けと息継ぎなど、とても一回では覚えきれない。


  できなくても良いから、動きだけ覚え、自己流でいいから毎日、1時間は練習するように言われた。それから王都の明鏡止水流本部への紹介状を書いていただき、『王都に行ったら必ず寄るように。』と言われた。


  その際、本部総長に渡してくれるようにと手紙も預かったのである。


  剣のカバーが出来上がったので、もうエクレア市には用はない。王都に向かうことにする。しかし、王都に出発する前にセレナさんに挨拶に行こうと思い、ギルドに向かった。


  ギルドでは、セレナさんから『ギルドマスターと会うよう。』に言われ、奥の応接室に案内された。


  アップルティーと、お茶受けにアップルパイが出され、黙々と食べていると、ギルドマスターのアレンさんが部屋に入ってきた。アレンさんは、席に着くと、懐から1通の手紙を差し出し、


  「これは王都のギルド本部への紹介状だ。必ずグランドマスターに渡してくれ。」


  僕は、紹介状を緊張しながら受け取った。王都のギルド本部に行くだけでも大変なのに、そこのグランドマスターに会うなんて、僕のコミュ障を知っていて、このおじさんは何を言っているんだろうかと思ったが、何も言わなかった。


  「それと、これは私からの頼みが二つあるんだが聞いてもらえるかな?」


  「それは、正式な依頼と受け取って宜しいのですか?」


  「勿論、正式に依頼したい。一つは、王都のギルド本部に書類を届けて貰いたい。最近、書類が溜まりすぎて本部から文句が来ているんじゃ。」


  このおじさん、ついでに自分の不始末の処理をさせるつもりだな、と思ったが、やはり無言で書類の束を受け取った。


  「次は、警護の依頼じゃ。」


  警護任務は、『C』ランク以上のパーティーで受けるのが普通だ。


  シェルさんさんは、見かけだけの『D』ランク、僕に至ってはランク外の仮冒険者でポーター扱い、パーティーも組むことが出来ない。


  うん?これはお断りするだろうと思っていたら、


  「受けましょう。間もなく『C』ランクに昇格する私としては、受けるしかありませんわ。オホホホ。」


  その気持ちの悪い笑いをやめてくれ!それに『C』ランクなんて、一体、いつなれるか分からないでしょ。


  「そうか、受けてくれるか。実は困っていたのじゃ。」


  「ある貴人のお姫様が王都に帰る事になったのじゃが、近衛の騎士隊長と喧嘩をして、騎士達を王都に送り返してしまったのじゃ。」


  「勿論、騎士達も、お姫様をほっといて帰る訳にも行かず、目に付かないように尾行するのじゃが、お姫様の馬車に同乗警護する者がいないため、冒険者に頼むことになったのじゃ。」


  「依頼の条件は、20歳以下の女性冒険者チームということじゃが、そんなパーティーあるわけないじゃろ!しかし、この条件に合う冒険者が見つかるまで王都には帰らないと言うので、困っておったのじゃ。」


  「いやあ、君達が受けてくれてホッとしとるよ。」


  アレンさんの話は長文過ぎて、途中で意識を失いそうになる僕であった。


  「あのう、ゴロタ君は男の子なんですけど。」


  「あ、いやいや。そこは問題ない。シェル殿の妹かメイドだと言うことにすれば。なんならメイド服を準備しようか。」


  それもチョット見てみたい気がして、頷こうとしたシェルさんを押しのけて、激しく首を横に振る僕だった。涙を溢れさせながら。

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