第11話 効率的なレベル上げってずるいんですけど!

(まだ、9月6日です。)

  シェルさんの初めての戦いは終わった。相手は、ファング・ラビットというEレベルの魔物だったが、獲得できる経験値は、ホーン・ラビットの2倍だった。ホーン・ラビットの経験値は5と低いのだが、ファング・ラビットは10と、かなり美味しいのだ。


  シェルさんは、ジワっと涙目になりながら


  「私、やっつけたんだよね?」


  と、僕に聞いて来た。


  「うん、凄くカッコ良かったよ。あの突きは、結構使えるんじゃないかな。」


  僕が『威嚇』を使ったのは、絶対に内緒だ。


  「エヘ、エヘ、エヘ。私って、やっぱり才能があると思うんだ。さっきだって、相手が止まって見えたもん。」


  ドヤ顔で自慢し始めるシェルさん。冒険者ランクこそ『D』ランクと無駄に高いが、能力レベルは、「6」とそれほどではない。これは、ギルドの依頼を、パーティの人達と一緒に受けて、期限内に確実にクリアするのでギルドの評価は高いが、個人能力は、戦闘で敵を倒さないと上がって行かない。敵にダメージを与えなければならないのだ。


  昨日、ゴブリンを討伐しても、レベルが上がったのは僕だけというのも、そんな理由からだった。


  シェルさんは、このままではいけないと思ったらしい。将来を約束?したとは言え、僕にオンブに抱っこでは余りにも情け無いと思ったのだろう。


  『リアル抱っこ』は好きだけど、やはり、自分でもやれば出来る女だってところを見せなければ。そう思っていたシェルさんだった。


  ウサギの魔物は、普通のウサギより美味しいらしく、素材として捨てるところはないので、血抜きをしてベルのザックにしまった。それからは、草刈り、時々ウサギ狩りと言う、お気軽散歩になってしまい、お昼過ぎには北の森に着いてしまった。僕達は、狩ったウサギのうち、1匹を食べることにして、バーベキューの準備を始めた。


  ウサギと味付けに使った辛子ソースの美味しそうな匂いがし始めた頃、


  「ゴロタ君、誰か近づいて来る。」


  「うん、分かってる。」


  ギルドで僕に絡んで来たゴロツキ冒険者らだった。僕は、エクレア市を出た時から、2人が付いて来ていることを知っていたが、知らんぷりをしていた。ギルドの追っ掛けっこで、彼らは脅威ではないと思ったからだ。


  きっと、襲うチャンスを狙っていて、バーベキューが出来上がりそうなタイミングを狙っていたのだろう。なんて意地汚いんだろう。


  「お嬢ちゃん達、美味しそうだね。お兄さん達にも少し食べさせてくれないかな。」


  一体、何を食べる気なのか。モッコリ股間を見て直ぐに分かってしまった。


  「向こうに行って。あんた達のようなゲスに食べさせるものなんか、何もないわ。」


  相手を見ずに、氷の刃が温かく思えるほどの冷たい声。しかし、そんなことで怯む彼らでは無かった。


  「そんなこと言わずに、お兄さんと一緒に遊ぼうよ。」


  シェルさんの右手を掴もうとした瞬間、ピシリと小気味好い音がして、男の手に何かが当たった。


  「痛っ。何、しやがる。」


  僕は、親指ほどの大きさの石を指で弾いたのだった。僕は、男達を睨み付けていたが、『威嚇』は、使わなかった。彼らには内緒にしておこうと思ったのだ。僕の可愛い顔で睨まれても、全く怖く無かったが、左手に持っている石つぶては厄介だった。2人は警戒しながら僕の方に近づき、やにわに飛びかかって来た。


  瞬間、僕は今まで居た場所から3m位後ろに下がった。


  男達は何が起きたか理解する前に、石つぶてがビュッ、ビュッと飛んできて、とてもじゃないが僕の方に顔なんか向けていられない。ギルドで、僕に追い付きそうだった太っている方の男が、左手で目の辺りを防護し、ジグザグに走って来た。僕は、男の右側に回り込みながら、次々と石つぶてを弾き続けた。


  右手で持った沢山の石を、左手に補給しながら弾くのだ。誰にでも出来ることではないけど、僕は森で1人遊びをするときに、小さな動物相手に弾き続けて遊んでいた。今だったら、動物愛護違反かなんかで捕まってしまうだろう。


  シェルさんのいるところまで回り込み、石つぶての石もなくなったので、『帰れ。』とだけ変声期前の高い声で叫んだ。


  しかし、このままでは帰れない男達は、遂に剣を抜いた。僕は、シェルさんに何か耳打ちしてから、剣を鞘ごと抜いた。


    「ウインドカッター。」


  シェルさんの威力極小の魔法が発動した。無詠唱のため、威力はいつもの半分以下まで低下したが、男達の判断力を奪うのには十分だった。


  まさか無詠唱で魔法を使って来るとは思わなかったようで、一瞬、動作が遅れた。その隙を逃さず、僕は2人の首筋にトンと剣の鞘を叩きつけた。


  戦闘は終わった。僅かではあるが、シェルさんにも経験値が入った。シェルさん、これに味を占めて人間狩りなんか絶対に嫌ですからね。


  男達2人を木に縛り付けてから、楽しいバーベキューパーティーだ。美味そうな匂いを2人に堪能させながら、自分たちだけで食べるバーベキューは格別であった。


  男達は、後で衛士の人達に通報して引き取ってもらうことにして、引き続き兎狩りをしようとしたが、シェルさんが酷いことを思いついたようだ。


  「森の中に入って、強い魔物をやっつけようよ。最初に私がウインドカッターで敵に仕掛けるから、後はお願いね。」


  「それって、ずるくね。と、思うんですけど。」


  僕も、シェルさん相手なら、普通に話せるようになって来た。しかし、やはり敬語でしか話せなかった。


  「良いじゃない。夫婦になるんだから。」


  「えーと、夫婦?、夫婦?。」


  ブツブツ口の中で復唱している僕だった


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  森の中は、魔物のオンパレードだった。ゴブリンに、猫やら犬の魔物。大きいのでは猪や鹿の魔物などが次から次と現れたが、ほとんどはスルーだ。何故なら、ザックの中はウサギで一杯だったから無駄に狩はできない。厳選素材を探し続ける僕達であった。


  それは。ついに現れた。オーク、それも二回りも大きな特殊個体である。幅広の大きな包丁のような刃物を持ち、革の鎧を付けている。残忍な殺気を放ちながら、僕達に近づいて来た。ただ、森の中だったので、オークの大きな身体では、自由に動き回れず、5m位の距離を保って、僕達を睨み続け、直ぐには襲って来る様子は無さそうだった。


  シェルさんは、既に詠唱を唱え終え、準備オーケーであった。僕は、ガチンコさんの店で買った短剣を抜いて左下段に構えると、


    「ヨシ!」


  と声を掛けた。

 

   「ウインドカッター」


  森の木々がざわめき、つむじ風がオークを襲う。風の中に生じる真空刃が、オークの表皮を削っていく。しかし、オークの分厚い表皮は、それ以上のダメージを許さなかった。だが、それでいいのだ。オークが風を避けようと僅かに顔を背けたのがチャンスだった。


  僕は、思い切り飛び跳ねた。故郷の谷川で飛び慣れた距離だ。オークの頭の高さまで飛んで、剣を右下から切り上げた。オークの顎から頬に掛けてズバッと切りり開かれて、顎の下半分が飛ばされた。しかし、オークは、構うことなく段ビラで僕を凪ぎ払って来た。


  直撃を受けては駄目だと直感した僕は、短剣を左側に構えて、剣筋を遮った。しかし、オークの体重を乗せた一撃は強烈で、真横に吹き飛んでしまった。


    「キャー。ゴロタ君!」


  始めて攻撃を受けた僕を見たシェルさんは、我を忘れて魔法を連発した。


    「ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター」


  全く威力はなかったが、僕への攻撃を阻止するだけの効果はあったみたいだ。その間に、僕は、体勢を立て直すことができた。


  短剣を左水平に伸ばし、オークに向かって走り始めた。オークは、小さな人間が良く見えなっかったが、危険が迫ってきていることだけは感じられたので、段ビラを我が身の正面に構えて、防御の姿勢を取った。


  しかし、僕が狙っていたのはオークの正面ではなく、足元であった。オークの手前2mの位置からスライディングを始め、オークの股下を潜るときに、足首の裏、つまりアキレス腱を切断した。もんどり打って倒れたオークの首筋を狙って、深く短剣を差し込み、脊髄を切断した。流石に、オークは動かなくなった。


  「ゴロタ君」


   シェルさんが泣きながら僕に駆け寄ってきた。


  「ごめんね。ごめんね。ホントにごめんね。」


  こんなに素直に謝るシェルさんを見るのは、始めてだった。自分よりも大きいシェルさんが、僕の頭を抱え、わなわなと肩を震わせている。


  『シェルさんって、可愛いな。』


  ふと、思ってしまった僕であった。もう、どこも痛くなかったが、暫くシェルさんに付き合うことにした。


  オークが着ていた革の鎧は、魔石を取るのに邪魔だった事から、二人がかりで脱がせたが、ちょっと臭いがきつかった。心臓付近に短剣を差し、中にある固い物を取り出すと、赤黒い大きな魔石だった。オークが持っていた段ビラと鎧の価値は分からなかったが、とりあえず持って帰る事にした。


  「あっ、レベル?」


  シェルさんが冒険者証を取り出し、魔力を注いだ。僕には見えないが、シェルさんには分かるみたいだ。


  「レベルが8になってる。」


  一気に2も上がっているみたいだ。細かなステータスは、ギルドの機械でなければ分からないが、きっと上がっている事だろう。


  「ゴロタ君も、見てみなよ。」


  しかし、自分のレベル、ステータスに興味の無い僕は、笑ってスルーした。

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