第8話 はじめてギルドの依頼を受けてしまった。
(まだ9月4日です。)
武器屋を出た僕達は、次は道具屋に行くことにした。僕は、何の道具を買うのかなと思ったのだが、シェルさんは、洗濯石とか匂い石など冒険には全く関係ないものばかり買っている。
中でも、牛乳から作った石鹸なんて、高いばかりで絶対に必要ないと思ったが、黙って見ているだけで文句など怖くて言えない僕だった。
僕は『シェルさん』と呼んでいるが、シェルさんは、僕のことを『ゴロタ君』と呼ぶし、さっきなんか「『こいつ』と呼んでいた。絶対的な立場というか、2人のヒエラルキーでは、僕は絶対、婿養子以下、もしかすると奴隷?並みに思われているのかも知れない。
そうでもなければ、何回もあんなところや、こんなところ、つまり女性として恥ずかしいところを見られて、あんなに平気でいられる筈がない。自分だったら、絶対に死んでいると思ってしまう。
道具屋を出てから(当然、支払いは僕だった)、次に向かったのはホテルだ。
僕は、ホテルというのは初めて見たが、石を積み上げて造られており、入り口の扉なんか、僕の身長の何倍もあり、きっと巨人族や大型の獣人が利用するのではないかと思ってしまう。
僕の身長が143センチ位と極端に小さいので、そう思ってしまうのかも知れないが。こんな大きな扉をどうやって開けるのかと思っていたら、扉の前に軍の制服を着ている男の人がいて、僕達を見ると扉を開けてくれた。シェルさんは、あらかじめ僕から横取りしていた小銭入れから、大銅貨1枚を渡して、そのまま入って行った。
このホテルという建物は、出入りする度にお金を払うんだなと思っていたら、あの男の人は、ホテルからお給料を貰っているので、シェルさんが渡したお金は、チップと言って感謝の気持ちだそうだ。
ホテルのカウンターには、紺色の制服を着た女の人がいて、泊まり予約の確認をした。このホテルは、予約がないと泊まれないみたいだった。
「予約してないんだけど、部屋、空いてるかしら?」
さすがシェルさん。清々しい位に図々しい。
「すみません。ご予約の無い方のお申し出は受け賜まわっておりませんが。」
「あら、ギルドマスターのアレンさんの紹介でも駄目かしら?」
え、いつアレンさんに紹介して貰ったの?そう思ったが、何も言わないで二人のやり取りを見ている僕だった。
「アレン様の・・・。少々、お待ち下さい。」
そう言って、奧の事務室に入っていったが、直ぐに出て来て、
「失礼しました。1室だけ空きが御座います。ただ、生憎とツインではなく、ダブルの部屋しかご用意できませんが、宜しいでしょうか。」
「ええ、それでお願いします。」
「畏まりました。それでは、冒険者証か王国発行の旅行者証をお見せ下さい。」
宿泊手続きを終了したが、僕の仮冒険者証は必要なかった。僕は、シェルさんの妹にされていた。しかも10歳と、なにもかも嘘っぱちなんだが、もう、どうでも良くなってしまっていた。
部屋は、リビング付きの豪華な部屋で、室内にお風呂があった。ホテル代を確認しなかったが、聞くのがとても怖い気がした。しかし、一応シェルさんに確認してみると、朝食付きで一人銀貨5枚半だったそうだ。シェルさんは、かなり金銭的に残念な人で決定だ。
これからの旅費を考えると、絶対に、旅の途中で路頭に迷うと思ったが、黙っていることにした。
「じゃあ、ゴロタ君。明日からは、ホテル代を稼ぎに行くから、今日は前祝いで、豪華フレンチでも食べに行こうか。」
僕は、豪華フレンチと言うものは見たことが無いが、それよりも『稼ぎ』って何だろう。何を、どうやって稼ぐのだろうか。
「何か、疑問でも?」
いえ、何も疑問はありませんから。結局、夕食は、高級レストランの近くの屋台で、買い食いをすることになったが、それはそれなりに満足できる食事だった。意外だったのは、屋台のおじさん達が「嬢ちゃん、可愛いねえ。これはサービスだよ。」と、顔に似合わず、とても優しいことだった。でも、その度に、シェルさんの顔が怖くなるのは、僕の気のせいだろう。きっと。
部屋に帰ってから、明日の行動計画について確認したが、シェルさんは、ギルドの依頼をこなして、稼ぐつもりだそうだ。僕は、採集の依頼位ならできるが、魔物退治なんか絶対にできないと思った。
シェルさんの実力を見たことはないが、『D』ランクの冒険者ってどれくらい強いのだろうか。シェルさんが、魔法をチュドーンと撃って、魔物があっという間に真っ黒こげになる、というシーンを考えていたら、シェルさんが、嫌な笑いを浮かべながら、
「明日は、ゴロタ君が頑張るんだよ。」
え、シェル様、それってあまりにも無理過ぎです。
この日、僕達は初めてダブルベッドで一緒にぐっすり眠ることができた。姉妹のように。
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(9月5日です。)
次の日の朝、僕達は再度ギルドを訪れた。あの大きな荷物は、ホテルの部屋に置きっ放しだ。 今日も、ギルドの中は冒険者達で一杯だった。特に『D』ランク依頼のボードの前は、依頼書がまったく見えない位、冒険者だらけだった。
「すみません。すみません。」
と言いながら強引に冒険者を押し退けて、ボード前まで到達したシェルさんは、1枚の依頼書を引っぺがして戻ってきた。
「これ、受けるわよ。」
見ると、ゴブリンの群れの討伐だった。エクレア市から歩いて1時間ほど離れたビランサ村の近くに、ゴブリンの足跡が大量に発見されたそうだ。それで村長が討伐依頼を出したとのことだが、報酬は金貨1枚。討伐で得たアイテムは、すべて冒険者が取得しても良いとの条件だった。
僕達は、依頼書を持って、受付カウンターに行ったら、昨日のヘレナさんが受付をしていた。が、僕達、特に僕を見て、大きく目を見開いた。
「いらっしゃいませ。アスコット様。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「討伐依頼を受けに来たのよ。」
「申し訳ありません。彼は仮冒険者証なので、討伐依頼を受けることはできないのですが。」
「ゴロタ君は受けないわ。単にポーターとして同行するだけ。討伐するのは私だけだから、問題ないでしょ。」
「それでは、パーティーは組まないということでしょうか。それなら問題はありませんが、そうなるとアスコット様お一人での盗伐ということですね。今回の依頼はゴブリンの群れの盗伐ですが、ゴブリンは、単体から5匹以内までは『D』ランク単独が適正ランクとされていますが、今回のように群れとして認められると、適正ランクは『C』以上の者か、『D』ランクパーティとなっております。」
「分かっているわ。でも、一つ上のランクまでは、自己責任で受注できるでしょ。」
どうして、この人はいつでも高ビーなんだろう。きっと『王族だからかな。』と思う僕だったが、黙っていることにした。それから、依頼達成条件などを確認した僕達はギルドを出た。
相変わらず、ギルドの前は、子供達で一杯だった。僕達を見ると、一斉に寄って来て
「ポーターは要らない?道案内もできるよ。」
と、自分をアピールして来た。シェルさんは、大きく手を振って
「ポーターは、もう居るから要らない。」
ああ、僕の職業、ポーター確定の瞬間だった。ギルドを出てから、まずガチンコさんの店に寄って、僕用の樫の棒を貰った。大銅貨2枚だったが、サービスしてくれた。それから、水や食料を準備して、ビランサ村へ向かった。
エクレア市が見えなくなると、
「もう歩けない。抱っこ。」
とふざけたことを言い始めた。イラッと来たが、黙ってしゃがみこみ、背中をシェルさんに向ける。お姫様抱っこを期待していたシェルさんは、一瞬キョトンとしたが、すぐに残念そうな顔をして、僕にオンブをしてきた。普通、徒歩で1時間はかかると聞いたが、僕はシェルさんをオンブして20分程で村に着いた。
村で村長に会ったが、最初、僕達が依頼を受けて来たことを信用しなかった。当然だろう。体の華奢な美少女と、かなり小さな妹の二人が冒険者な訳がないと思ったからだ。しかし、ギルド発行の依頼請書を確認したので、諦めて依頼内容の詳細について説明した。どうせ失敗しても、村の負担は全くないからだ。
ゴブリンが現れ始めたのは10日程前からである。最初は、鶏や山羊を狙われたのだが、3日前、農作業をしていた村の娘が1人攫われてしまった。それからは、皆、村から離れた所には出ないようにしていたが、仕事にならないので、仕方なく昨日ギルドに依頼を出したのだ。
「お任せ下さい。史上最年少の『D』ランク冒険者である私が、サクッと退治して差し上げますから。」
それからゴブリンの巣があるという南の洞窟に向かったが、当然のように僕が先頭だ。僕にしても、『抱っこ』や『おんぶ』でなければ、特に反対する理由はない。
ただ、『ポーターって冒険者の前を歩くのかな。それじゃ、直ぐ死んじゃうよ。』と思う僕であった。
途中、突然、緑色の肌をしたゴブリン1匹と出逢った。大して強くなさそうだったので、近づいているのは大分前から分かっていたが、シェルさんには黙っていた。
だが、ゴブリンを見たシェルさんは、速攻で僕の真後ろに隠れた。ロングソードも抜かないで、僕の背負っているベルのザックをシッカリと掴んでいる。僕は、体の中の何かを感じながら、『ジーッ!』とゴブリンを見つめていたら、あっと言う間に逃げ出してしまった。
「まあ、こんなもんだろう。」
と思っていたら、シェルさんが
「何、逃してんのよ。逃したらお金にならないでしょ!」
と怒っていた。次からは、追い払わないで、シェルさんに戦って貰おうと強く思う僕だった。だが、これだけは言っておかなければならない。
「分かった。次からは、闘うことにする。でも、背中を掴まれていたら闘えない。シェルさんは僕から離れていて。」
すごい。超長文を喋れた。シェルさんに対しては、段々と恥ずかしさが薄れて来た僕であった。
長く喋ったことに吃驚したようなシェルさんは、息を飲みながら
「分かった。そう、そうよね。あれじゃ闘えないわよね。でも、敵が私の方に向かって来たらどうすればいいの?」
「は?」
「だって、今まで一度も闘った事なんかないもん。」
偉そうに、全くない胸を張るシェルさんだった。
「でも、シェルさん、確か『D』ランクだったよね。」
「あれは、『郷』の騎士団のおじさん達と一緒にダンジョンに入ったから。」
「へ?」
ギルドの規則は知らなかったが、それは絶対に違反だろうと思った。でも、それ以上は何も言わずに、
「それじゃ、行こか。」
がっかりしながら、前に進むことにした。
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