プロローグ2 私はシェル
少女は、森の中でたった一人だった。この辺の森は、大した魔物がいないということだったので、珍しい薬草を採取しに来たのだ。冒険者仲間のパーティは、近くで野営しているのだが、少女は、皆の『危ないから。』という注意を聞かずに森に入ってきたのだった。
少女は、身長155センチと小柄だった。髪は、緑と紫の間と言うか、いわゆるパートカラーをポニーテールにしている。目は大きなアーモンド形の空色。15歳の少女としては、胸が全くないのが不思議だった。
少女の一番の特徴は、その耳であった。上端が尖って少し伸びている。いわゆる『エルフ族』の少女だった。鼻はまっすぐに通って、すこし上向きになり、可愛らしい唇は血色の良いピンクだった。
少女は、最近、冒険者ランクが『D』になったばかりだった。一応『D』ランクから、一人前の冒険者と言えるという事を仲間から聞いていたので、なんとなく嬉しかったようだ。
今回、少女たちのパーティが受けた依頼は、『蛍の光』という薬草の採取だった。なかなか見つからなかったので、パーティ仲間は、諦めて帰ろうと言っていたが、最後に、もう一回だけ探して、それで見つからなければ帰るという事にしたのだ。
だが、少女は『蛍の光』がどんな薬草か、見たことも聞いたことも無かった。きっと、名前から想像するに、『蛍のようにホワッと光っているのだろうな。』という位にしか分からなかった。それで、当てもなく森の中を歩いていて、迷ってしまったのだ。
ここが何処か、分からなくなってから、初めて、危険を感じ始めてきた。
森に居るのは、可愛いリスや小鳥ばかりではない。狼や、もっと怖い魔物もいるかも知れない。そんな魔物なんかに遭ったら、絶対に生きて帰れるわけが無かった。
少女は、『D』ランクといっても、実力でなった訳ではない。仲間のパーティーと一緒に依頼を達成することによって、達成ポイントを挙げて行く、いわゆる『なんちゃってDランク』であった。
当然、魔物や獣を討伐した経験はない。魔物が死にかけたとき、唯一知っているウインド・カッターを相手にぶつけて、レベルポイントを上げて行ったのだ。
『D』ランクに上がった時、仲間たちは故郷へ帰ろうと言っていた。でも、少女は、もっとランクを上げるか、冒険者として自活できるまでは、帰りたくないと我儘を言ったのだ。
パーティ仲間の中で、少女の我儘を叱る者はいなかった。リーダーは、深いため息をついて、冬までには故郷に帰ると言っていた。
少女は、本当は、冒険者なんかになりたい訳ではなかった。しかし、郷にいると、好きでもない相手と結婚させられるかも知れなかったので、広い世界に飛び出そうと冒険者になったのだ。
両親や婆やは、大反対したけど、少女の決意は固かった。それで、両親が、部下の中から選りすぐりのメンバーを選んでパーティを組んでくれたのだ。
少女の郷は、大陸の一番東の端にあった。ある事情から、真っすぐ西に来ることができず、南周りで、大陸の西の森まで来たのだ。そのため、郷を出てから、ここまで6か月もかかってしまった。
途中、15歳の誕生日を迎えたので、冒険者登録をした。最初は『F』ランクだった。それから4か月かけて『D』ランクに上がったのだ。普通ではありえないスピードだ。これも仲間のお陰である。しかし、少女はそのような事は考えない性格だった。
だから、郷から遠く離れたこんな辺境の森まで来ているのだ。今すぐ、郷に向かっても、ギリギリ冬までに郷に帰れるかどうかだ。大陸の南側周りでは、絶対に無理だった。
少女は、もう1時間位、森の中をさまよっていた。遠くで、狼の遠吠えが聞こえている。少女は、知らなかった。少女がパーティを離れてすぐ、そのパーティが魔物に襲われて仲間たちが全滅したことを。
少女は、森に迷って命拾いしたのかも知れない。その魔物に遭遇するまでは。
今、少女は絶体絶命の危機に会っていた。相手は、豚顔の魔物、オークだった。最初に遭遇した時、左手を痛打されてしまった。骨が折れたかもしれない。しかし、その痛みよりも死への恐怖の方が大きかった。
少女は、ショートソードを抜いて、オークと対峙していた。一度も敵を切ったことの無いショートソードだった。少女は死を覚悟していた。
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