紅き剣と蒼き盾の物語(コミュ障魔王と残念エルフの救世サーガ)

困ったちゃん

第1章 始まりの村

プロローグ1 僕はゴロタ

  僕は、心臓がドキドキして、いつまでも止まらなかった。


  女の子と話したこともないのに、あんなものを見てしまうなんて。


  男の子と、女の子の体が違うと言うことは、知識として知ってはいたが、具体的にどう違うのかなんて、知る訳もなかった。


  あれが、女の子の身体なんだ。胸はまっ平らで、脚の間には何も付いていない。あれで、どうやってオシッコをするんだろう。


  やっぱり、女の子は不思議で怖い。早く、一人になりたい。


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  僕の名前は『ゴロタ』、14歳と11カ月、来月3日で15歳になる。でも身長は143センチしかない。体重も43キロとかなり小さい。きっと10歳から11歳位の男の子と同じ位の身体つきだ。


  髪の色は、銀色に中に黒色が部分的に生えている、いわゆるパートカラーっていうそうだ。目の色は、赤っぽい茶色だと思う。鏡をあまり見ないので、記憶にある色がそうだった。肌の色はかなり日焼けしている白、まあ薄茶色と言える。


  僕が年齢に比べて小さいのには、理由があった。これは母親のシルがとても小柄だったからだ。


  父親のベルは身長が2m近く、がっしりした体で、僕がベルの子供だとはとても信じられないと村長はじめ、村の人たちもみんなが不思議がっていた。


  僕には、村の子供達と比べて致命的な欠点があった。見知らぬ人と話すことが出来ない。苦手ではない。出来ないのだ。いわゆるコミュニケーション障害、コミュ障と言われている症状だ。特に、女の子の前では、頭の中がキンキンして、心臓がバクンバクンとなり、冷や汗ダラダラの完全喪失状態になってしまう。  


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  僕の母親シルが魔物に襲われて亡くなったのは、いまから7年前、僕が7歳の時だった。


  その時、森の中で一人で遊んでいた。森の入り口付近は可愛い動物や、いい匂いのする草花が沢山あったからだ。僕が家に帰って見るとシルが井戸の近くで、うつ伏せに倒れていた。シルのお腹の辺りが変に凹んでいて、周囲の草が一面に真っ赤に濡れていた。ベルは森の中に入っていて、夕方まで帰って来ない。


  僕は、シルには触らずに、村まで走った。村までは大人の足でも2時間以上かかると言われていたけど、僕は休むことなく村まで全速力で走り続け、30分位で村に着いた。村の入り口にある番屋に飛び込んだが、番屋に常駐している衛士のおじさんに何も喋ることができなかった。ただ、目に涙が浮かぶだけだった。衛士のおじさんは僕の様子で、異変を感じてくれたのだろう。直ぐに自警団を招集してくれた。10人位の自警団の人達と一緒に家に到着してみると、シルの姿はもう無かった。夕方、辺りが薄暗くなってからベルが帰ってきた。


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  ベルとともに採取生活をして3年、僕が10歳になって間もないころ、ひどい嵐の日にベルがいなくなった。


  僕は、一人ボッチでの生活を始めた。ボッチ生活が辛いという事は無かった。誰かと話したいとは絶対思わなかったからだ。シルやベルに会いたくなることはあっても、我慢した。10日に一度、村の村長さんと教会のシスターの所へ顔を出すようになった。採取した物を売るためと、勉強を教わるためだ。


  最初、村長さん達は、僕が森の入り口で一人で暮らすことに反対していた。しかし、シルがいなくなってから、ベルと二人で生活しているときの料理や家事は、すべて僕がしていた。分からないところは、ベルに教わりながらだったが。


  それと、僕一人で森に採取にいっても、魔物に襲われないことも分かって貰えたからだ。村長には内緒だが、ベルが良く使っていた方法を使うのだ。ベルは、魔物と『睨めっこ』をして、追い払っていた。弱い魔物は、これで大丈夫と言っていた。


  ベルがいなくなってから、僕も『睨めっこ』をするようになった。狼や牙兎位なら、睨み合いで負けたことが無かった。


  僕は、村に行くたびにシスターから勉強を教えて貰った。本当は、10歳くらいまでで、学校の勉強を終える子が多いのだが、僕は、10歳まで、殆ど村に行ったことが無かった。ベルもシルも、何故か学校に行かせようとはしなかったからだ。僕の足なら、村まで1時間もかからないことを知っていても、行かせようとしなかった。


  でも、僕は、学校がとても嫌だった。勉強が嫌いなわけではない。7歳までは、シルが勉強を教えてくれたし、シルがいなくなってからはベルが勉強を教えてくれた。文字も書けるし、簡単な計算もできた。


  僕が学校を嫌いなのは、女の子がいたからだ。僕や他の男の子とは、全然違う匂いがする。シルとも違う匂いだ。それに話し方も違うし。だから、女の子が近づかないように、いつも周囲の匂いを嗅いでいる。近づくのが分かったら、すぐ逃げるようにしていたのだ。


  学校の女の子、きっと7~8歳位だと思うが、僕をお人形さんみたいと言って、傍に寄って来ようとする。逃げれないときは、下を向いてジッとしている。そうすると、女の子は、僕のいろんなところを触って来る。頭とか、顔とか、わきの下や股の間も触って来る。それで『あ、男の子だ。』と言って逃げて行く。僕は、じっとして涙をこぼすだけだった。


  学校卒業間近の女の子は、僕を可哀そうに思えるのか、いろいろと親切に教えてくれようとするのだが、どんなに優しくても、女の子が近くに寄ってくると、フルフルと肩が震え、顔を真っ赤にして俯いてしまうので、そのうち、誰も声を掛けてこなくなった。


  腕白な男の子たちは、何故か僕をいじめたくなるようで、なにかとちょっかいをかけてくる。でも、僕が、自分よりも身長の高い、太ったそのガキ大将の目をジッと睨みつけていると、急にそのガキ大将が泣き出して逃げてしまうことから、他の子たちも僕を怖がって近寄らないようになった。


  その結果、僕は、ボッチで平穏な快適学校生活を送れるようになったわけである。

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