第4話 俺のはじめて

「よしっ、席がえも終わったことだし各自冬休みの課題を回収係に提出するように。それが終わったら残り時間は隣の人と仲を深めたり、まぁ自由にしていいぞー!先生は用事があるから職員室に戻るけど6時間目が終わる頃に戻ってくるからな。ただ、あまりうるさくしないようにな。」


(どうする…。この席で過ごす3ヶ月。俺の席は女子に囲まれコミュ障の俺は孤独を強いられる。周りの女子を気にせずに内職したり、寝ればいいのか?そういう訳にもいかない。なぜなら、授業内でたまに隣の人とのペアワークがある。今まではずっと男子が隣だったので問題なかったが、そうなると話さざるを得ない。しかし、話せと言われ話せるほど俺のコミュ障は甘くない。どうすればいいんだ?)


「…小林くん?」


「えっ、あ、あぁ、な、何?」


いきなり隣から話しかけられ、ついキョドってしまった。それも仕方ない。ずっと、頭の中でこれからどうするか考えていた矢先、隣の女子から話しかけられたのだから。


「私、緒方 里奈(おがた りな)。初めて隣になるどころか、初めて話すよねwよろしくね!」


「えっ、あ、うん。よっ、よろしく…。」


あれ?普通に話せたぞ。そこまで心配しなくてもよかったのかもしれない。俺は少し安心した。俺から話かけることはできなくても、向こうから話しかけて来てくれるのなら孤独になるなんてことにはならないだろう。


「あっ!それって、ガールズバンドアニメのGtの子の寝そべりだよね?」


俺のリュックに付いてる某ガールズバンドの寝そべりぬいぐるみを指差しながら里奈が言う。


「私も好きなんだ〜!ゲームもやってる?」


「うん!リリース当初からやってる!」


「ホントに!?じゃあさ、フレンド登録しよ!」


こうしてネッ友しかいなかった俺のフレンド欄はリアルで話した女子が増えた。


「ちなみに、私の推しはBaの子!その子に憧れてベースもやってるんだ!」


「マジで!?俺も推しに憧れてギターやってるんだ!」


「えっ、ホントに!?今度一緒に合わせてみたいね!」


「いいね!それ!今は、アニメ3期のOPの練習してるんだ!けど、サビが結構ムズいんだよね、あれ。」


「あー、あれは難しそうだよね。そういえば、昨日の3話見た?」


「見た見た!2話からの3話であの展開はヤバいよな!」


「そうそう!それでさ・・・」


共通のコンテンツが好きだと分かったとたん、気がつくと普通に話せるようになっていた。特に何も意識せずに。コミュ障はコミュ障だけど自分の大好きな話なら普通に話せることを知った。もしかしたらコミュ障を克服できるのではないか。そんな思いが密かに芽生えてきて希望が見えてきた気がする。今までは、このコミュ障のせいでろくに友達も出来ていなかった。せいぜいオタク仲間が数人とネッ友くらいだ。


そんなこんなで話をしていたらいつの間にかSHR(ショートホームルーム)の時間になっていた。先生が連絡をしているが、帰宅する準備をしながら流し聞きする。何を隠そう俺は帰宅部だ(念の為に言っておくが、帰宅部とは部に所属していない者の総称であり、実際にそういう部が存在するという訳では無い)。クラスの中ではいつも1番に教室を出て帰宅している。特に一緒に帰る友達もいないので一人でそそくさと帰路に着くのだ。だが、俺はそれが寂しいとは思わなかった。これまで誰かと一緒に帰るということをしたことがない。それに早く帰宅してゲームもしたい。これが、俺の日常。いつも通りのことだから。


SHRが終わり、帰りの挨拶を言い終え、頭を上げると同時にリュックに腕を通す。そして、教室の扉に向かって足を進める。いつもならそのまま廊下に出て帰路に着くのだが、今日は違った。


「小林くん!」


後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには緒方がいた。俺に声をかけた主は緒方だ。さっきのアニメの話の続きだろうか、なぜ俺を呼び止めたのか気になっていると、緒方が口を開く。


「私、実は...バンドやってるの!これからスタジオ練習で...よかったら観に来ない?」


(・・・・・・!!!!!)


まさかの展開すぎて一瞬思考が停止した。さっきの会話でベースをやっていることは知っていたが、まさかバンドをやっていたとは思いもしなかった。詳しく話を聞くと、メンバーは同じクラスの女子5人。そのガールズバンドアニメに登場するバンドの曲のカバーをしたりしているらしい。俺には行かない理由は見当たらない。むしろ、観てみたい。リアルのガールズバンドがどんな感じなのか。気になるから。


それにしても放課後に誰かと過ごすのは、はじめてだ。しかも、その相手が女子だなんて。




第5話 「Shooting Star」 に続く。

次回更新は1月23日(土)の予定です。

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