第5話 Shooting Star
「着いたっ!ここがいつも練習してるスタジオだよ!」
俺は緒方に案内され、スタジオに到着する。学校から10分ほど歩いただろうか。その間も緒方とアニメの話をしていた。実を言うともう少しくらい喋っていたかった。やはり、趣味の合う人と話をするのはすごく楽しいものである。ちなみに、緒方以外のバンドメンバー4人もそのアニメが好きらしい。
それはさておき、俺は緒方と一緒にスタジオの中に入る。緒方はカウンターでスタッフさんに会員証を見せる。
「いつも頑張ってるね!他のメンバーさん達はもう来てるよ。」
"いつも"ということは緒方達はここの常連なんだろう。まるで友達かのように緒方とスタッフさんは話をしている。
「ところで、そちらの方は?」
スタッフさんが俺の方を見ながら尋ねる。
「あっ、えっと...」
俺が戸惑っていると緒方が言う。
「同じクラスの友達です!今日は私達のバンドの見学で!」
「そうなんだ!じゃ、頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます!さっ、行くよ!こっちこっち!」
俺はスタッフさんに軽く会釈し、カウンターを後にする。そして、個室の扉の前に立つ。これが俗に言う"スタジオ入り"ってやつなのかと思いながら、扉を開けるとギターの"ギュイーン"という音が勢いよく聞こえてきた。
(これは!アニメ3期3話挿入歌の間奏のギターソロ!)
音を聴いた瞬間、どの曲のどの部分か意識しなくても出てくる。あぁ、オタクしてんな。と我ながら思う。
「お待たせー!さっき、ラインで言ってた見学の友達連れてきたよー!」
「はっ、初めまして...!小林 祐介です。きょ、今日はよろしくお願いします!」
俺は、少しキョドりながらも挨拶をする。さすがに、女子4人相手はキツい…。
「こちらこそよろしくね。今日は見学ってことで、見に来てくれてありがとう。とりあえず、1曲聴いてもらった方が早いよね!さ、里奈も入って!」
緒方は荷物を置いてベースを担ぎ、準備をする。何度か声優さんが実際にバンド演奏を行うライブに行ったことはあるが、女子高生のカバー演奏を聴くのは初めてなので、かなりワクワクしていた。そして、準備が終わった。
「それじゃ、いくよ!」
Vo.の子が言う。それと同時にその場が一瞬静かになる。その瞬間全員の目付きが変わる。さっきまでのワイワイした感じとは違って、集中しているのが目に見て伝わる。演奏が始まる。曲は、さっき入ってきた時も少し聴いたアニメ3期3話の挿入歌だ。5分ほどして演奏が終わった。
「どうどう?どうだった?」
緒方が聞いてくる。完全に聴き入っていた。想像していたよりもかなり細部までコピーされていた。正直、女子高生のレベルではない。恐らく、ここまで演奏技術を高めるのに相当の努力をし、練習を重ねてきたのだろう。
「凄かった!演奏がアニメ本編を忠実に再現してるのはもちろんのこと、振り付けまでコピーしていて、かつそれぞれのメンバーの個性も出てて、だけど全体としてしっかりとまとまっていて...。とにかく、プロレベルの演奏だった!」
「えへへ、ありがとう。そこまで言われるとなんか照れるねwそういえば、メンバー紹介まだだったよね。まず、私達のバンドのリーダーでVo.の天王寺 彩(てんのうじ あや)ちゃん!それと、Gt.の楠木 唯(くすのき ゆい)ちゃん、Dr.の武田 文(たけだ ふみ)ちゃん、Key.の久保田 玲菜(くぼた れいな)ちゃん!あっ、でも名前は知ってるか。」
(知ってる...?久保田...玲菜...?)
「私達、この5人で『Shooting Star』っていうバンドだよ!とりあえず、今日は適当に10曲くらいやってくから、好きにコールしたりして楽しんでって!彩、それでいい?」
「もちろん。楽しむことが一番だからね。じゃあ、始めよっか!」
演奏が始まる。最初の曲はアニメ1期OPだ。やっぱりこの曲を聴くと始まりって感じがする。俺は、夢中になってコールを打っていた。そして、いつの間にか全演奏が終わっていた。
「はぁ、はぁ。とりあえず、今日の練習は終わりね。小林君も今日は来てくれてありがとう。どうだった?」
「まるで、本当にライブに来ているかのような臨場感で楽しめました!」
「それはよかった。それじゃ、また明日。学校でね。」
各自、別々の方向だが、帰路に着いていった。俺は、途中まで緒方と帰る。緒方とも別れ、俺は一人になる。この時の俺は、まだ知らなかった。だが、明日、学校で知ることになる。緒方のあの言葉の意味が。
第6話 「期末試験まであと何日?」に続く。
次回更新は1月30日(土)の予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます