第3話 冬休み明けの地獄②

「よし、くじ作ったからな!一人ずつ引いてけー!」


俺のクラスの席配置は縦5席、横6席の合計30席というような配置である。そして、俺の今の席は窓際の一番後ろ。つまり、一番最高の席である(俺調べ)。だが、席がえをするということはこの席から離れなければいけなくなるということだ。後ろの席かつ窓際の席というのは、ものすごく重宝していた。俺の陰が薄いというのも相まって、この席で授業中に内職しても、寝ててもバレない。最強の席だったのだ。


ここで一応説明しておこう。俺的席がえ当たり一覧を。まず、大当たり枠は30枠中2枠。俺が今いる窓際の一番後ろと、その一つ前の席だ。中当たり枠は30枠中10枠。後ろ2列(12席)から大当たり枠の2枠を抜いた席だ。小当たり枠は30枠中6枠。前から4列目の6席だ。そして、ハズレ枠は30枠中18枠。前3列までは全てハズレだ。ハズレ枠の席になってしまうと、授業中に内職するのも寝るのもバレやすくなってしまう。俺の今まで通りの快適ライフを維持するためには大当たり枠、百歩譲っても中当たり枠を引かなければならない。大当たりか中当たりを引ける確率は、3分の1。決して簡単なことではない。しかし、考えてみるんだ。俺がやってるゲームの最高レアリティの排出率を!ほんの数パーセント。それでも俺は幾度の困難を乗り越え、推しをお迎えしてきた!それに比べれば大したことはない!俺なら引ける!


こうして、運命の瞬間がやってきた。クジ箱の中に手を突っ込む。ちなみに俺は一番最初に引くことになった。30枚のクジを手で探り、1枚を手に取る。恐る恐るクジを開く。そこに書かれていた数字は07。そして、黒板に書かれている座席表の中から07番の場所を探す。見つけた!07番!


「よしっ!勝った!!」


俺の引いた07番は、窓際の後ろから2番目。つまり、大当たり枠!これで、俺の快適ライフは約束された。


そう思っていた。


実際に席を動かすとなった時に、一つの重大な問題があることに気がついた。全く気にしていなかった。大当たり枠の席を引くことに集中していた故、完全に忘れていた。俺の席を囲む5つの席。そこに座る5人が誰なのか。そこも割と重要なのである。俺はコミュ障だ。オタクの同志なら普通に話せるが、それ以外はあまり話せない。男子ならまだしも女子は無理だ。席が隣になる以上少なからず話す機会は訪れる。


せめて隣だけは男子であってくれと願いながら自分の机を動かす。その時だ。あの悪夢を思い出す。そう、これは俺の初夢だ。


冬休み明けのLHRの時間、席がえをすることになる。そして、俺が一番最初にクジを引く。クジを開くとそこにあったのは07の二文字。黒板の座席表で場所を探すと窓際の後ろから2番目。


ここまであの"悪夢"と内容が全く同じだ。この時すでに嫌な予感はしていた。だが、心のどこかでこんな悪夢が正夢になるはずがない。席がえはただの偶然だ。そう思っていた。いや、そう思っていたかったんだ。


俺は自分の机を移動し終え、隣を見る。そこに居たのは...


女子だった。


どうすればいいんだ?俺はコミュ障だ。中学生くらいの時からお袋と妹以外の女性とはほとんど会話したことが無い!さらにそこへ追い討ちをかけるかのようなことが起こる。俺の席の前後、斜め前、斜め後ろの席も、女子だった。つまり、俺の席を囲む5人全員女子だったのだ。


あぁ、全く同じだ。あの"悪夢"と全く同じ内容だ。嫌な予感が的中してしまった。初夢が...いや、あの"悪夢"が正夢になってしまった。場所としては最高の席だ。だが、周りが全員女子なんて...。ありえない。


(どうしてだよぉぉぉぉぉ!!!!!)


心の中で思いっきり叫ぶ。俺のクラスでは3ヶ月に一回の頻度で席がえをしている。今は1月。ということは春休みを迎えるまで席がえはない。つまり、俺は高校2年生残りの時間をこの席で過ごさなければならない。"孤独"だ。


本来なら今頃、最高の席で隣も男子で今まで通りの快適ライフを維持できると大喜びしていただろう。しかし、現実は違った。これからの3ヶ月、どう過ごそうか必死に考えていた。


だが、俺は7年後に知ることになる。この席がえが俺の人生のターニングポイントだったことに。俺を変えるきっかけになったことに。




第4話 「俺のはじめて」 に続く。

次回更新は1月18日(月)の予定です。

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