第15話 お化け屋敷にて 前編

 お化け屋敷に行こうなんて、どうして言い出したのか。


 颯真そうまは暗がりが駄目だった。

 高校生になった今も、多少大丈夫になったていど。あまり変わらない。

 夜道は裏から誰かついてこないか心配になり、夜中、尿意を催しても、限界まで我慢する。我慢できなくて、トイレに行くと、さっさと何か出てこないかと終始びくびくしている。

 女子ならともかく、男なのに怖がっているって知られたらバカにされそうで、颯真は気づかれないように気をつけていた。

 同じ高校内で知っている奴は一人、なぎだけ。

 



 夏祭りで賑わっている駅前。

 浴衣を着ているカップルに、子ども連れの親子に、私服の学生たち。

 ぼんぼりに照らされた駅から続く道を数分歩くと、市役所がある。そこが夏祭り会場だ。

 その大通りは行き交う人でごったがえしていた。人並にのまれ、はぐれないようにするのが精一杯だ。

 颯真は、凪と仲のいいクラスメイト他三人と夏祭りに来ていた。


 そこまではいい。


 バレるのが嫌なことを知ってる凪なのに、どうしてお化け屋敷に行こうなんて言ったのか。

 それも気になるけれど、先にこの状況を回避しなければ。しかし、すでに目の前には、おどろおどろしい音が流れる『お化け屋敷』と書かれた看板の前まできてしまっていた。

 友人たち三人はすでに入場料を払い、中へと入ろうとしている。

 音を聞くだけで、背筋がぞくっとするのに、暗闇に入ったときのことを考えると、情けないけれど膝が笑う。


 こうなったのも、凪が悪い。


 前を歩く凪をキッと睨むと、視線に気付いたのか、後ろをふり返ってきた。

「行くぞ」

 手を伸ばしてきた。でも、この手に捕まれば、中に入らないといけなくなってしまう。避けようにも、人が多くてよけきれない。

 伸ばした手で腕を掴むのかと思いきや、肩をがしっと組まれた。

 入口付近に立っていた三人の友人たちへと目をやると、他の客に流されるように中へと入っていっていた。


 友人たちがいない今、暗闇を怖いことを知っている凪しかいない。

 颯真はムッとしながら聞いた。

「俺が苦手なことを知ってて、なんで、入ろうとするんだよ」

「いいじゃん。いつまでも隠しているより、バラしちゃえよ」

 悪びれる様子もなく言う。


「他人事だと思って言うな」

「信用できるって。わかってるだろ。みんなバカになんてしないって」

「……うっ」

 それはそうだ。気にいい奴らばかりだ。

 暗闇が怖いことを知ったところで、バカになんてしない。そんな奴らじゃないことはわかっている。

 わかっていても、バレることとはまた別物だった。


 肩を組まれたまま、入口まで来た。

「離せよ」

 周りの目もあって、腕から抜け出そうとするけれど、きつく組まれた腕を退けることができないでいた。

「入ったら離すって」

「入るまでこのままってことか?」

「そうだな」

「暑いし、離れろ」

 押し返そうとすると、入口に立っている受付のお姉さんと目があった。

 お岩さんのような恰好のお姉さんに微笑まれ、目をすぐにそらした。

 もたもたしている方が恰好悪いだろう。急に恥ずかしくなって下を向いた。


「オレがいるだろ?」

 行きたくなさそうにしている颯真に、優しく諭すような言い方をした。

 たしかに、誰かと一緒だと怖さは薄れる。

 けれど、怖いものはやっぱり怖かった。

 その怖がる姿を見せるのもいやだった。


「このままの方がいいなら、腕組んだまま入ろうか?」

 何も言わない颯真を見て、ニヤッとしながら言う。


 できないと思われているのも癪にさわった。

 反発心から

「入るよ。入るから離せって」

 腕を押しのけ、入場料を払って中へと入った。


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