第210話 いつもとは違う休日
青嵐寺との一件があってからしばらく経った日の休日。オレはショッピングモール近くの駅で人を待っていた。
「…………」
休日のショッピングモール前。かなりの人通りだ。約束の時間までは後十分程度……あいつら遅すぎるだろ。
せっかくの休みを潰されたことに対する苛立ちが待たされたことでさらに募る。いや、正直すっぽかしても良かったんだが……あいつら、それを見越して秋穂にまで連絡入れやがって。
おかげで朝からたたき起こされて絶賛不機嫌中だ。
「おせぇ……」
現在時刻は十時前。集合時間は十時なわけだが……。こういうのって普通時間前には集合しとくもんじゃねぇのか?
「……やっぱ止めとくか。こんなのオレらしくもねぇ。『グリモワール』に行って調べ物してた方がよっぽど有意義だ。よし、そうと決まりゃさっさと」
「どこに行こうとしてるのかしら?」
「……ちっ」
「いきなり舌打ちなんて、ご挨拶ね。まぁいいわ。それでどこに行こうとしていたのかしら? まだ答えてもらってないけれど。まさか私達との約束を放って『グリモワール』に行こうとしてたわけじゃないわよね」
こいつ見てたんじゃねぇだろうな。くそ、もうちょっと早く決めとくべきだったか。
今日の約束。それはこの青嵐寺と、そしてまだ来てない黄嶋の二人とのことだった。
何を思ったか知らねぇが、黄嶋の奴が突然一緒に買い物に行きたいなんて言い出したせいだ。もちろんオレは反対したが青嵐寺の奴が賛成したせいで状況は二対一。賛成多数で行くことになった。
そんでオレが逃げられないように秋穂にも連絡して外堀を埋めたってわけだ。
「けっ」
「不機嫌ね。まぁわかっていたことだけど。でも若葉が来るまでには少しは機嫌を直しておきなさいな。そんな態度のあなたを見たらあの子また傷つくわよ?」
「……わかってるよ。それよりどういう風の吹き回しだ? お前があいつの提案に乗るなんて」
「別に。ちょっとした気まぐれ……まぁそんなところよ」
気まぐれか……そうは見えねぇけどな。まだ完全には受け入れきれてねぇって所か。
ま、気持ちはわかるけどな。
「ねぇ、あなたはあの子のことどう思ってる?」
「あ?」
「若葉のことよ。正直な話ね、最初は普通の子だと思ってた。ううん、実際普通の子だった。あなたと違って特別なところなんて何もない。普通の子」
黄嶋若葉、オレらの部活仲間で、ホープイエロー。
その印象か……確かにオレも最初の印象は普通の奴だ。普通の奴……だった。
だが今は……。
「その様子だとあなたも同じみたいね。あの子、本当に強い、強くなったわ。それこそ私の予想をはるかに超えるくらいに」
「オレはあいつより強いけどな」
「ふふっ、変なとこで意地を張らないの。別にあなたが弱いなんて言ってないでしょう。でもあなただって彼女の強さは認めてるでしょう」
「ま、足を引っ張ることはねぇと思ってるぐらいだ」
「あなたがそれだけ評価するなら十分でしょう。それに比べて私は……」
なるほどな。あん時の負けをまだ引きずってるってわけだ。
「てめぇだって別に弱いわけじゃねぇだろうが。オレほどじゃねぇがな」
「え?」
「なんだよその間の抜けた顔は」
「……まさかあなたからそんなこと言われるなんて思ってもなかったもの。でも、あなたに負けてると思われるのは心外ね。前回は前回。そろそろ決着をつけるべきかしら?」
「はっ、上等だ。返り討ちにしてやる」
「す、すみませーん!! 遅くなりましたーーっっ!!」
オレと青嵐寺がバチバチと睨み合っていると、遠くから謝罪の声と共に近づいてくる人影。まぁ誰かなんてことは考えるまでもない。
「はぁ、はぁ。すみませんちょっとそこで道に迷っているおばあさんがいて。案内してたんです」
「「…………」」
「ど、どうしたんですか? あ、やっぱり遅れたの怒ってます? あのあの、おばあさんがお礼にってお饅頭くれたんですけど食べますか?」
「「……はぁ」」
「え、えっと……」
「ふふ、別に怒ってるわけじゃないわ。こうして待ってる時間もそれなりに有意義ではあったしね」
なんつーか完全に毒気を抜かれたな。まぁいいか。別にここで青嵐寺とやり合うのが目的ってわけでもないしな。
「おい、揃ったんならさっさと行くぞ」
「そうね。それじゃあ行きましょうか」
「え? え?」
「さっさと来ねぇと置いてくぞ黄嶋」
「あ、待って! わたしも行きますぅ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます