第211話 変わった人、変わらない人
黄嶋がショッピングモールに行こうと言い出したのは昨日の放課後のことだった。
いつもどおり放課後の魔法少女活動が終わった後に、さぁ解散というタイミングで黄嶋が言ってきたのだ。
『あの! 明日のお休み、一緒にショッピングモールに買い物に行きませんか!』
と。もちろんオレは断った。だが青嵐寺の奴がのったせいでオレまで巻き込まれることになった。せっかくの休みを潰されて不機嫌なことこの上ないわけだが……。
「で、結局このショッピングモールに何しに来たんだよ。わざわざ来たってことはなんか買いに来たんだろ」
ショッピングモールの中は家族連れやら恋人同士やらで溢れかえってる。もし離れて歩いたりしたらあっという間に引き離されることになるだろう。
「うん。それはそうなんですけど」
チラッと時間を確認した黄嶋は青嵐寺の方に目を向ける。
「まだ時間はありますし、先に買い物を済ませてしまいましょう。あのですね、前回零華さんの家に行って思ったんです。あの家はあまりにも生活用品が少なすぎると!」
「え?」
「は?」
「えっと、そのー、端的に言うなら便利グッズでしょうか。実はわたしそういうのも結構好きなんです。でも零華さんの家はあまりにも物が少なかったじゃないですか」
「えぇまぁ、そうね。確かに私の家は物をほとんど置いてないけど……」
前に青嵐寺の家に行った時に感じたのは生活感の無さだった。だがまぁあれは仕方ねぇ部分もあるだろ。こいつにはこいつの目的があって、そのために心血注いでたわけだからな。
なんで今更んなこと言うんだこいつは。
「理由があったのはわかってます。でももったいないじゃないですか。せっかくなら少しでも楽しく生活して欲しいですから。そのために今日はわたしのオススメ商品をいくつか紹介させてもらおうかと思いまして」
「……なんでそれにオレが付き合わなきゃいけねぇんだよ」
「なんでって、わたし達仲間じゃないですか」
「仲間じゃねぇよ! ただ同じ魔法――部活だってだけだろうが!」
周囲に人がいる手前、魔法少女ってことは公言できねぇ。思わず言っちまうところだった。
「いいえ、仲間です。わたしもう遠慮しないことに決めました。たとえ紅咲君がなんと言ったとしてもわたしは仲間だって言います」
「っ、お前なぁ」
「だってこれは紅咲君がわたしに言ったことですよ。言いたいことがあるならはっきり言えって。だからわたしは言いたいことは言うことにしました」
それは確かにオレが黄嶋に言ったことだ。言いたいことがあるならはっきり言えって。確かに言いはしたんだが……。
「ふふ、諦めなさい。あなたの負けよ」
「お前はいいのかよ」
「私は……まぁそうね。別に気にしてないわよ。それもいいかもしれない、なんて思い始めていることだし。あなたもいい加減意地を張るのは止めたらどう?」
「……別に意地なんて張ってるわけじゃねぇよ」
別に意地を張ってるわけじゃねぇ。ただ最近こいつらを見てると思うことがある。
黄嶋は変わった。たぶんオレらの中じゃ一番。実力的にも、精神的にも。青嵐寺もだ。あの一件以来どこか雰囲気が変わった。常にあった張り詰めたような感じがなくなった。
だがオレは……。
「どうしたの?」
「……いいや、別になんでもねぇよ」
「一つ言っておくなら、私はあなたに変わることを強要しないわよ。それもまたあなたの良さでしょうからね。それに変わることが正しいとは限らないもの。ただもしあなたが何かに迷っているなら……きっかけは案外すぐそばに転がってるかもしれないわよ」
「オレはオレだ。変わるも変わらないもねぇよ」
ただそう言い返すことしかできなかった。
「どうしたんですか二人とも。あんまり離れるとはぐれちゃいますよ」
「そうね。すぐ行くわ」
「……ふん」
なんとも言えないモヤモヤした感情を抱えたまま、オレは二人の後について行った。
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