第207話 魔法少女になった理由

 仏壇に飾られた写真を見ながら零華は語り出す。妹の身に何が起こったのか。そして、零華が魔法少女となった経緯について。


「私の妹、青嵐寺ぼたん。魔法少女名ピンキー」

「魔法少女ピン木―! 知ってます、戦うことを嫌う魔法少女で、人助けのスペシャリストだった魔法少女でしたよね!」


 ピンキーという名前を聞いて反応したのは若葉だ。魔法少女オタクであった若葉はその名前を知っていたのだ。

 零華は若葉が妹のことを知っていたことに驚いたが、知られていたのが嬉しかったのか笑みを浮かべて頷く。


「知っていたのね。あまり有名な魔法少女では無かったのだけど。そうよ、あの子は戦うことを嫌う子だったから。それよりも一人でも多くの悩める人を救う。そのことを目標にずっと活動を続けていたわ」


 ぼたんの事を語る零華は二人が見たこともないほど優しい顔をしていて、それだけでどれだけ妹のことを大切にしていたのかということが伝わってきた。


「その頃の私はまだ魔法少女ではなくて。今の冬影さんと同じね。協力者としてぼたんに力を貸していたの」

「そうだったんですね」

「正直なことを言えばね。私はぼたんが魔法少女として活動することに反対だった。だってそうでしょ。いくら人助けを専門にやっているとはいえ、魔法少女は常に危険と隣り合わせ。緊急の要請があればぼたんだって戦わないといけなくなってしまう。そしてその時にぼたんは拒否できない。だってあの子は私と違って優しい子だから。どんなに戦いを嫌っていたとしても、戦わなければ守れないならあの子は戦う。そういう子だったから」


 零華はぼたんが魔法少女として活動することに反対だった。それは至極当然の理由。ぼたんのことが心配だったからだ。しかし零華はぼたんが魔法少女として活動することに誇りを持っていたことも、憧れていたことも知っている。だからこそ止めることはできなかった。それでも傍に居たくて、少しでも負担を減らしたくて零華は協力者となることを選んだのだ。


「ぼたんの魔法少女は順調だったわ。災害救助なんかにも力を入れていたから少しは名も知られるようになっていたしね。慈愛のピンキーなんて呼ばれ方もしていたわ。大きな戦いに巻き込まれるようなこともなくて、私も安心していたの。でも、ちょうどその頃だった」


 その当時のことを思い出し、カップを握る手に力が入る零華。それは悔やんでも悔やみきれない零華の後悔だった。


「魔法少女統括協会から指名依頼が来たの。内容は行方不明者の捜索。それ自体は特に珍しい依頼では無かったの。行方不明になる子は毎年一定数いるから。だけどそれが指名依頼だったことだけが引っかかった。でもその当時の私は一瞬違和感を抱いただけで、いつもの依頼だと思ってしまった。そしてそれがぼたんの魔法少女としての最後の依頼になった」

「…………」

「どんなに待っても、待っても待っても待ってもぼたんは帰ってこなくて。そうして待ち続けた先で届けられたのがぼたんの訃報だった。でもそんなの受け入れられるわけがないじゃない! でも魔法少女統一教会に問い合わせても協力者でしかない私には教えられないの一点張りだった。だから私は自分の手で調べることにしたの。ぼたんに何があったのかを。そしてその先で見つけたのがとあるヴィラン組織の名前だった。それがヴィラン組織『ウバウンデス』。当時はまだ無名だったヴィラン組織。その中にスタビーっていう名前を見つけたの。その名前の怪人が行方不明事件に関わっていることを」

「よくそこまで調べましたね。まだ魔法少女じゃなかったんでしょう?」

「当時の私はそれこそ死に物狂いだったから。ううん、死んでも構わないとさえ思っていたかもしれない。かなり危ない橋を渡ったりもしたわね」


 そんな話を聞いて晴輝は考える。もし秋穂や千夏、冬也が行方不明になったらと。それこそ零華と同じように必死になって探すだろう。自身のことなど一切顧みずに。


「たとえ差し違えてでも、なんて思ってたその頃だったわ。私の前にフュンフが現れたのは。あの子は私に魔法少女としての力を与えてくれると言った。それは怪人を討つための力を求めていた私にとっては願ってもない提案で。私は迷うこと無くその提案に乗った。そうして生まれたのが今の私……魔法少女ブレイブブルーの始まりだった」


 これが零華の抱えていた事情。魔法少女ブレイブブルーとなるまでの経緯だった。


「これが私が魔法少女として活動する理由で、私が怪人を憎む理由で、スタビーを探す理由よ」

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