第206話 零華の家へ

 ホープイエローに敗北したこと。それはブレイブブルーにとってある意味衝撃的なことであり、だからこそ気持ちに一つ区切りをつけることができた。


「私の過去について教えてあげる」

「あ、ちょっと待って。それって私も聞いちゃっていいのかな? 二人だけにした方がいい?」

「私は別に気にしないわ。というよりもせっかくだから聞いていきなさいな。イエローも構わないでしょう」

「わたしはもちろん。レッドも仲間ですし」

「それじゃあ遠慮なく聞かせてもらうけど。でもそれなら落ち着ける場所に移動しよっか。あの怪人達もいつまでも放っておくわけにはいかないし」

「あの人達のことすっかり忘れてました」


 ブレイブブルーとホープイエローの戦いの余波で完全に気絶している怪人達。落ちついて話をするためにもまずは怪人達を魔法少女統括協会に引き渡そうということになった。





 魔法少女統括協会に捕まえた怪人を引き渡した後、ラブリィレッド達がやってきたのはブレイブブルーの、青嵐寺零華の家だった。

 もちろん晴輝も若葉も零華の家にやって来たのは初めてだ。しかし、その家は晴輝達が思っていた家とは違っていた。


「……お前の家ってアパートだったんだな」

「ちょっと予想外だったかもしれないです」

「なに、私の家がアパートだと何か問題があるのかしら?」

「いや別にそういうわけじゃないけどな。ただまぁ本音を言うならもっとすげぇ家を想像してたってのは事実だ」


 零華の纏う雰囲気から、勝手に晴輝は零華のことをお嬢様系の人間だと認識していた。しかし、今こうして零華の住んでいるアパートを見た第一印象は“ボロい”だった。築年数の関係もあるのだろうが、女子高生が住んでいる家とは思えなかった。


「まぁあなた達の言いたいこともわからなくはないけど、でも住めば都というものよ。そこまで気になることは無いわ。それに私が引っ越してくる前にリフォームしたらしくて、外観はみずぼらしいけど中はそうでもないのよ」


 そんな零華の言葉通り、零華の部屋は思っていたよりも綺麗だった。だがしかしそれ以上に気になったのは零華の部屋に生活感が無かったことだった。

 あるのは最低限の生活用品と寝具だけ。趣味と言えるようなものなものはどこにも置いてはいなかった。一見しただけでは誰の部屋であるかもわからない。そんな部屋だった。


「つまらない部屋でしょ。まぁこの部屋にいるのは学校の勉強をする時と寝る時くらいだから私としては十分なんだけど。好きな所に座っていいわよ」


 零華は学業以外のほとんどの時間を魔法少女としての活動に費やしていた。そのため、家にいるのは本当に限られた時間だけだったのだ。


「ところで二人とも飲み物は紅茶で良い? って言っても、この部屋にはそれくらいしかないんだけど」

「別になんでも大丈夫だ」

「わたしもです」

「そう。万が一に備えてコップくらいは用意しといて正解だったわね」


 零華は紅茶を持ってくると、改めて三人で丸机を囲むことになる。そうして一息吐いた後、零華は改めて二人に向かって言う。


「それじゃあそろそろ話し始めましょうか。私が怪人を憎む理由を、魔法少女になった理由を。そしてどうしてあのスタビーを必死に追いかけていたのかを」


 そう言って零華はとある場所に目線を向ける。それはこの無味乾燥な部屋の中で唯一目を引くもの――仏壇だった。

 零華の視線の先を追った二人も当然それを目にする。仏壇に飾られた写真。零華よりも幼い少女の写真を。

 酷く穏やかな、そして過去を懐かしむような目で話し始める。


「あれは私が妹のために用意した仏壇。そして、私の妹は……魔法少女だったの」

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