第205話 『纏雷』
「私の……負けね」
状況を打開する策を必死に模索したブレイブブルーだったが、背後を取られているこの状態ではどう足掻いてもホープイエローの方が全ての行動において先手を取られるのは明白だった。
「やり……まし……た……っぅ!」
ガクンッと崩れ落ちるように倒れるホープイエロー。しかし地面にぶつかる前に勝負の行方を見守っていたラブリィレッドがその体を抱き留めた。
「お疲れ様。だけど、ちょっと無茶しすぎだよ」
ラブリィレッドのその声には安堵と責めるような感情が入り交じっていた。かろうじて意識は失っていないホープイエローだったが、まともに動くことすらできない状態だった。
「えへへ、ごめん……なさい……」
ラブリィレッドに支えられながらなんとか立ったホープイエローは改めてブレイブブルーと向き合う。
「わたしの勝ちでいいんですよね」
「えぇ。そうね。と言っても、この状態だとどっちが勝ったのかよくわからないけれど」
自分の力では立てないほどにダメージを受けているホープイエローに対して、ブレイブブルーはダメージこそ受けているが動けないほどではない。むしろまだ戦い続けることも可能なほどだった。
だがそれでも勝者はホープイエローで、敗者はブレイブブルーだった。最後まで勝利を諦めなかったホープイエローの執念が勝利を呼び寄せたのだ。
だがブレイブブルーにはわからないことがあった。それは最後の瞬間、ホープイエローがどうやってブレイブブルーの背後を取ったのかということだ。ブレイブブルーは確実にホープイエローの背後を取り、剣を突きつけたはずだった。それなのに気づけばその立場は逆転していた。
「あなた、いったいどうやって私の背後を取ったのかしら。そのダメージを見るにまともな方法じゃないんでしょうけど」
「確かにまともな方法ではないですけど。わたし自身への負担もかなり大きいですから。やってることはすごく簡単なんです。さっきブルーが使っていた体を水にして移動したような真似はわたしはできませんけど……」
「体に無理矢理電撃を流して移動速度を急上昇させた、そうでしょ」
答えを先に行ったのはラブリィレッドだった。最後の瞬間、目を離さずに見ていたからこそ気づけた。ホープイエローがその身に雷を纏って移動していることに。
「でも本来攻撃に使ってる電撃を無理矢理移動にも使ってるせいで自傷は免れないってことかな」
「よく気づきましたね。その通りです。まだまだ未完成の移動技。体がこの電撃に耐えられるにもせいぜい一秒程度。でもその一秒だけは私は光速で動くことができる。ブルーの背後を取ることができたのもそのおかげです」
「雷を纏う……なるほど。名付けるなら『纏雷』とかかな」
「あ、カッコいいですねその名前。まだ未完成なのでこの技に名前はつけてなかったんですけど」
「えぇ!? いや、ちょっと思いついたから言っただけで。それを名前にされるのはちょっと恥ずかしいっていうか」
「ふふ、いいじゃない『纏雷』。私もカッコいいと思うわよ」
「ブルーまでおちょくらないで!」
「でも……なるほど。一度目で見抜けなかった時点で私の負けだったわけね」
「賭けでしたけど。でもブルーの実力は知ってましたから。最後にわたしの仕掛けた魔法を掻い潜ってくることも予想はしてました。だからこそこの技を使わないと勝てないと思ったんです」
「そう。そこまで読まれてたのね。ふふ……つまり最初から私に勝ちの目は無いに等しかったわけね」
「だって最初に言いましたから。今のあなたには負ける気がしないって。ここまで言ったのに負けたら恥ずかしいじゃないですか」
最初のホープイエローの言葉は本音だったが、それ以上に自身を鼓舞するためのものでもあった。だがその甲斐もあってホープイエローは勝利を掴むことができたのだ。
「ふふ、そうね」
負けたはずのブレイブブルーはしかし、どこか憑き物が落ちたかのような表情をしていた。ホープイエローに負けたのが運では無く実力ゆえだと認めることができたからだろう。
「わたしはあなたに勝ちました。だからこそ今だけは勝者としてあなたにお願いします。教えてください。あなたがどうしてそこまで必死だったのか。何がそこまでブルーのことを駆り立てていたのかを」
それを知ることこそがホープイエローがブレイブブルーに勝負を挑んだ理由。そして勝者であるホープイエローにはそれを知る権利があった。
「……そうね。あなたにはそれを知る権利があるわ」
少しの逡巡の後、ブレイブブルーは覚悟を決めて口を開いた。
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