第201話 覚悟を持って

 空花から教えられたブレイブブルーの目撃地点へと到着したラブリィレッドとホープイエローが目にしたのは、鬼神の如き勢いで怪人達と戦うブレイブブルーの姿だった。

 すでに複数の怪人がブレイブブルーに斬られたのか地面に倒れている。


「はぁああああああああっっ!!」

「くそっ、なんなんだこいつは! お前たち、囲め! 包囲して一斉に攻撃しろ! 足を止めちまえばこっちのもんだ!!」

「「「おうっ!!」」」


 以前ラブリィレッド達が捕まえたアルマジブラザーズのように、チームで行動している怪人達だったのか連携した動きでブレイブブルーのことを迎撃しようとしている。

 だが今のブレイブブルーはその程度で止められるほど甘くは無かった。


「斬ッッ!!」


 水平に薙ぐように剣を振るうブレイブブルー。それだけで剣から放たれた衝撃波が襲いかかろうとしていた怪人達を吹き飛ばす。

 対峙している怪人達にとっては悪夢のような光景だろう。止めようとしても止められず、逃げようとして背を向ければ斬られるのだから。

 その光景を見ているラブリィレッド達も想像を絶するブレイブブルーの力に驚いていた。その力は二人が知っているよりもずっと強かったから。


「ブルー……あの力、前に戦った時よりもずっと」

「ほとんど毎日鍛錬してたみたいですから。それでもこれはわたしも驚きですけど」


 決着はあっという間だった。残っていた怪人達も斬り伏せられ、ブレイブブルーは指示を出し続けていたリーダーと思われる怪人に近づく。


「これで終わりね」

「なんなんだ。なんなんだよお前は」

「私は魔法少女……あなた達怪人を残らず滅ぼす存在。本当なら全員殺してしまってもいんだけど。あなたにチャンスをあげる」

「チャンスだと?」

「今からする質問に答えて。その答え次第では生かしてあげる。だけど答えられなかった場合、もしくは私の望む答えじゃなかった場合には……どうなるかわかるわよね? もちろん嘘なんて言おうものならその瞬間に終わりよ」

「む、無茶なこと言うな! 答えられなかった場合、望む答えじゃ無かった場合だと? そんなの無理に決まってるだろ!」

「だったら私の望む答えを出せばいい。簡単なことでしょ。まず最初の質問よ。あなた達、生粋の怪人じゃないわね。この薬のこと知ってるんじゃないかしら?」


 そう言ってブレイブブルーが取り出したのは袋に入った錠剤。禍々しい色をしていて、一目見ただけでまともな薬ではないとわかる。


「…………」

「答えないと。なるほど、それじゃあもういらないわね」

「し、知ってる! その薬のことは知ってる! 俺達が怪人になるために飲んだ薬だ!」


 剣を振り上げたブレイブブルーを見て慌てて答える怪人。


「最初から素直に答えればいいの。言っておくけど二度目はないわよ」

「わかった……」

「じゃあ次の質問ね。この薬をどこで買ったの?」

「ネットだよ。SNSで売ってる奴がいるんだ。俺は偶然上手くたどり着くことができて……興味本位で買ったんだ。どうせ普通に生きてたって何もねぇんだ。だったら怪人になって、一花咲かせてやろうって。同じように薬を手に入れた連中を集めて、それで……」

「なるほどね。この薬の名前は?」

「『リライト』……俺の買った薬はそう呼ばれてた」

「どこで買ったの?」

「…………」


 再び沈黙した怪人を見てブレイブブルーは剣を振り上げる。

 それを見た怪人は慌てて弁明するように口を開いた。


「わ、わからねぇんだ!」

「わからない?」

「買った時の記憶がねぇんだよ! 連絡取り付けて、買いに行こうとして。でも気づいたらこの薬持って家に居たんだ! スマホから連絡先も、履歴も全部消えてやがったし、どこで買ったかなんてわからねぇんだよ!」

「記憶操作……なるほどね。それじゃあ最後の質問よ。スタビー、この名前に聞き覚えは?」

「スタビー? 誰だよそれ」

「知らないのね。じゃあもういいわ。あなたは用済み」

「お、おい待てよ! 俺はちゃんと質問に答えたじゃねぇか!」

「えぇ。でも言ったわよね。私の望む答えじゃなかった場合にもって。あなたは私の望む答えを出せなかった。ただそれだけ。恨むなら知らなかった自分を恨むのね」

「ひぃっ!?」

「待って!」

「待ってください!!」


 ブレイブブルーが剣を振り降ろそうとしたその時だった。それまでずっと経緯を見ていたラブリィレッドとホープイエローが止めに入る。


「あなた達……」

「いくらなんでもそれはないんじゃないかな。怪人には情けはかけないって考え方。まぁ無くは無いけど」

「でもブルーはそうじゃありませんよね。今までずっと殺すことなく捕まえてきたじゃないですか。こんなやり方、あなたらしくありません!」

「……私らしくない? ふふ、そう。私らしくない……」

「「っ!?」」


 掠れるような声で笑ったブレイブブルー。次の瞬間、目を向けられた二人はその目の冷たさにゾッとする。


「あなた達が、私の何を知ってるっていうの? ただ一緒にいたのあなた達が」

「ブルー……」

「怪人にかける情けなんて無い。今までが私らしくなかっただけ。そこを退きなさい。邪魔をするなら……あなた達でも斬る」


 その目は本気だった。ブレイブブルーは本気で二人のことを斬ると言っていた。

 本物の殺気を放つブレイブブルーにたじろぐ二人。しかしすぐに負けじとにらみ返す。


「いいよ。だったらやろうか。あの時の続き。もう一回、今度は言い訳のしようも無いくらいに――」

「待ってください」


 戦おう、そう言おうとしたラブリィレッドの言葉を遮ってホープイエローが前に出る。


「今度は……私があなたと戦います。わたしが、あなたを止めてみせます」

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