第200話 瞋恚の炎

『お姉ちゃん、わたし頑張るね!』


 そう言って笑っていた誰よりも大切だった彼女の姿が脳裏に焼き付いて離れない。

 時間が痛みも怒りも風化させてくれるなんて、そんな都合の良いことも無かった。

 忘れられないその瞋恚の炎が私の身を焼き尽くすのは時間の問題だったのかもしれない。

 あいつを見つけた時にその感情が爆発してしまうことも。

 私は決して冷静沈着なんかじゃない。落ち着いてるわけでもない。ただ身のうちに潜む怒りを表に出さないようにするために気持ちを抑え込んでいただけだ。

 私はもう止まらない。止まれない。この炎に身を焼き尽くされるのが先か、それともあいつを見つけて殺すのが先か。

 それは私自身にもわからない。ただ私は進み続けるだけだ。






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「ブルー、大丈夫なんでしょうか」


 目撃情報のあった地点へと向かう途中、ホープイエローが心配そうに呟く。


「それを今から確かめに行くんでしょ。まぁ無事でも無事じゃなくても一発は殴らせてもらうけど」

「それはさすがに……」

「だってこっちにこれだけしんぱ――じゃなくて! 迷惑かけてきてるんだから、それくらいは許されるでしょ」

「ふふっ」

「なに笑ってるの?」

「いえ別に。なんでもありません」


 素直に心配してるとは言わないラブリィレッド。だがその言葉の端々からブレイブブルーを心配している様子が見て取れた。

 

(今日探そうって言ってくれた時もそうでしたけど、口ではいろんなことを言いますけど優しい人です。それにただ優しいだけの人でもない。わたしみたいな優柔不断なだけの人間とは違う。だから……だからわたしもちゃんと覚悟を決めないと)


 内心でひっそり覚悟を決めるホープイエロー。

 それからほどなくして、二人はブレイブブルーの目撃情報があった地点へと到着する。


「……やっぱりもういませんね。気配も無いですし」

「うん。でもここに居たのは間違いないみたい。この暴れっぷりから察するにね」

「そうですね」


 周囲を見回す二人。目の前に広がる光景はそれは悲惨なものだった。地面が抉れ、建物は切り裂かれ、一目見ただけで激しい戦いが繰り広げられていたであろうことは明白だった。


「ま、この暴れっぷりを見るにそうとうめちゃくちゃやったみたいだけど。ここに居た怪人も情報を聞き出せないほどボッコボコにしてたみたいだし。もしくは自分だけ情報を聞き出した後にやったのかな? 私達に後を追われないように」

「そこまでするとは思いたくないですけど」


 だが否定しきれないだけの狂気に近い怒りがこの付近の破壊ぶりからも見て取れる。

 何がそこまでブレイブブルーを突き動かしているのか。今のホープイエローには到底推し量れるものでは無かった。


「…………」


 だが、一緒に居たラブリィレッドはそうでは無かったらしい。ブレイブブルーの破壊の痕を見て何か思うところがあったのか知らぬうちに拳を握りしめていた。


「どうかしたんですか?」

「……ううん、なんでもないよ。ただちょっとね。とにかく、ここにこれ以上居てもしょうがないし、次の場所に向かおうか」

「? え、えぇ。そうですね」


 部室にいる空花に連絡を取り、次の目撃情報地点へと向かう。

 その途中でのことだった。


「? 空花から通信だ。どうしたんだろ」

『あ、良かった。ついさっき目撃情報が更新されたの。今そこで怪人複数と派手にやり合ってるって』

「複数と?」

「た、大変じゃないですか!」

「すぐに向かおう!」


 そしてラブリィレッドとホープイエローは、空花から教えられた場所へと急いで向かうのだった。

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