第198話 尽きぬ苛立ち

 あれから一週間が経った。

 だが……。


「青嵐寺さんは……今日もお休みなのね。何の連絡も無いし心配だわ」


 担任の桜木が空白の席を見て心配そうに息を吐く。

 そう、あれから一週間、青嵐寺の奴は学校を休んでた。それも無断欠席って奴だ。今まで優等生やってただけにクラスの奴らも何かあったんじゃないかとか、事件に巻き込まれたんじゃとか心配してやがる。

 そんで黄嶋が休み時間に質問攻めにされてんのも、その当たりが理由なんだろうな。オレに来ない理由は……まぁ考えるまでもねぇだろう。

 それにしてもあいつ……。


「ちっ」


 思わず舌打ちする。

 何も言わずに居なくなりやがって……って、なんでオレそれで苛立ってんだ?

 別にあいつとは仲間ってわけじゃねぇ。ただ同じ部活に所属することになったから、協力してたってだけだ。

 ただそんだけ。だから別にあいつの事情なんざ知る必要はねぇし、あいつが事情も話さずに居なくなったからってオレが苛立つ必要もねぇってのに。


「おい、何見てんだよ。なんか用あんのか?」

「ひぅ!? な、なんでもないよ!」


 オレがちょっと視線を向けただけでビビったみてぇに目を背ける。そんなんなら最初からこっちの方見てんじゃねぇよ。

 いや、これはさすがに八つ当たりか。近くで舌打ちしてる奴がいたらそりゃ気になるか。まぁだからってこうもあからさまだとムカつくんだけどな。

 それから桜木が連絡事項を伝えて朝のホームルームが終わる。その後、亮平と空花がオレに近づいてきた。


「どうしたのハル、最近ずっと機嫌悪いけど」

「んなことねぇよ」

「いーや、あるな。おい晴輝、お前最近態度良くないぞ」

「あぁ?」

「だからそういうところだっての。さっきも近くの席の奴ビビらせてただろ。俺らは慣れてるからいいけどな、ただでさえ他の奴はお前にビビってんだから。あからさまに機嫌の悪い奴が、しかもメンチ切って近くに座ってたら怖いに決まってるだろ」

「別にメンチ切ってねぇよ。ただ普通に座ってるだけだろうが」

「普通に座ってる人は眉間にしわ寄せたりしないんだけど」

「いだだだだっ、急に触ってくんじゃねぇよ!」

「でもハル。そのままだとしわ取れなくなりそうだったし。ふーむ、ここはこうして口角はもっと上げて……はい笑顔!」

「ぎゃははははっ!! 晴輝に笑顔似合わねぇ!!」

「人の顔いじくり回しといて爆笑してんじゃねぇぞゴルァッ!!」


 ゲラゲラ笑う二人を追い払う。

 ったく、何が眉間にしわが寄ってるだ。余計なお世話だっつーの。

 だいたいオレは青嵐寺の奴のことなんてどうでもいいって言ってんだろうが。


「…………」


 ふと、去り際にあいつが言い残していった言葉を思い出す。


『あいつはわたしの獲物なの。あいつは、あいつだけは何があってもどんな手段を使っても殺す。誰にも手出しはさせないわ』


 あの時のあいつの目……怒りと私怨に満ちてやがった。

 何があったのかは知らねぇが、あのスタビーとかいう奴があいつの怒りに関わってるのは間違いねぇだろう。

 でも確かにあのスタビー……見るからにヤバそうな奴ではあったしな。それにあのタイミングで出てきたってことはあの女とも、もっと言うとアルマジブラザーズとも関係ありそうだしな。

 だとすると見えてくるのは……薬、か。怪人に変身するための薬。前からろくなもんじゃねぇだろうとは思ってたが、あいつならそんな薬を作っててもおかしくねぇ気がする。

 

「フュンフなら何か知ってるかもしれねぇが、あいつ最近オレの方にも姿見せてねぇしな」


 ここ最近フュンフはずっと裏で何かしてやがる。

 別にあいつがどう動こうと興味もねぇが、青嵐寺の事情を知ってるとしたらあいつくらいだろうな。そもそもあいつがどういう経緯で魔法少女になったのかも……ってだからなんでオレはいちいちあいつのことを。


「あぁもううぜぇ。こうなったらやるしかねぇな」


 苛立ちが募る。もこうなったらもういっそ認めた方が楽だろう。

 あいつが去ってく間際のあの表情が忘れられねぇ。それが引っかかってしょうがねぇんだ。

 だったらこのモヤモヤを解消するだけだ。

 そう心に決めて、オレは『魔法少女掲示板』のアプリを起動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る