第186話 会いたくない魔法少女
様々な波乱はあったものの、なんとかかんとか魔鉄鋼を手に入れたオレ達はメイスの工房へと帰ってきていた。
パープルとは『グリモワール』に戻ってきた時点で別れた。なんでも用事ができたとかで。まぁそれがどんな用事なのかは興味も無いし、知りたくもなかったから聞いてないけどな。とりあえず魔鉄鋼が手に入った、それだけで十分だ。
「色々あったけど、この純度の魔鉄鋼を手に入れられたらそれだけでもう十分だよ。必要量の倍以上手に入っちゃったし。この純度の魔鉄鋼を普通に買おうと思ったら目玉が飛び出るような値段になっちゃうからね」
「それは良かったんだけど。めちゃくちゃ嬉しそうだね」
さっき死にかけたばっかだってのに、もうそんなことも忘れたのか机の上に置いた魔鉄鋼をうっとりとした目で見つめるメイス。
こいつの頭の中じゃこの魔鉄鋼をどう使うかってことでいっぱいなんだろうな。まぁそれは良い。俺としても助かるしな。
でもこいつも良い意味でも悪い意味でも魔鉄鋼のことしか頭にないというか……なんかドッと疲れたな。
「パープルちゃんにもまた改めてお礼言わないとね。魔道具はいらないって言われちゃったからどうするか悩むけど」
「あー、まぁ別に気にしなくていいと思うけどね。あの子そういうの気にしなさそうだし」
パープルの奴が何考えてるのかは知らねぇが、お礼だなんだなんてのは気にする奴じゃねぇだろう。というか普段あいつにかけられてる迷惑のことを考えたらこれでもまだ足りねぇくらいだ。
「で、メイスはこの後すぐに作業始めるの?」
「そうだね。そうしようと思ってるよ。思い立ったが吉日。すぐにでも作業を開始ないと……うへへへへ……」
「涎垂らしてるし。まぁいいや。それじゃあこれ以上は手伝えることも無さそうだし、私はこれで失礼するねー。また何かあったら連絡してよ」
「うんわかった。それじゃあまたね」
もうこっちのことを見てすらいねぇ。
なんか小っちゃいハンマーみたいなので魔鉄鋼を叩いて感触を確かめてる。
邪魔するのもあれだし、さっさと立ち去るとするか。
そのままメイスの工房を出たオレは最近よく足を運んでいる資料が集められた区画へと向かった。
その区画にあるのは過去に起きた怪人事件の詳細について纏められた資料とかだ。オレの持つ権限で見れるのはそれくらいだけど、もっと上の方になれば魔法少女統括協会に登録してる魔法少女の情報なんかも詳しく見れたりするらしいが。
個人情報がダダ漏れってレベルじゃねぇだろって話だが、そんだけ信用されてるってことでもあるんだろうな。
この区画へ足を運び始めてからずっと目的の資料を探してるんだが、なかなか見つからねぇ。というか、検索する機能が無いのがマジでクソだ。
なんで色々とハイテクなのにここだけこんなに原始的なんだよ。こういうところに魔法の現代技術を活かせよ。
「なんて愚痴言っててもしょうがないんだけどさぁ」
文句を言ってる間に資料の集められた区画へと到着する。
入り口で認証してから中へと入る。そうして目の前に広がるのは、所狭しと並べられた本、本、本。左右だけじゃなく天井も、それどころか空中まで。この区画の中にはありとあらゆる場所に本がある。
初めて見たときは圧倒されたな。資料を置いてる場所は他にもあるけど、こんな風になってるのはここだけだ。映画とかで見たような世界がそのまま再現されてる感じだ。
トン、と軽く地面を蹴るとふわりと体が宙に浮く。別にオレが魔法を使って飛んでるわけじゃない。この空間一帯に特別な魔法がかけられてるらしい。
宇宙みたいな無重力とはまた違う。壁を蹴るような感じで宙を蹴ればそっちの方へ移動もできるし、止まることもできる。最初は戸惑ったが今ではなんとか慣れた。
「えっと、確か前見た場所は向こうだったから今度はこっちの方を調べようかな」
一応怪人事件の資料は年代ごとに分けられてる。一応は、だが。あんまりにも量が膨大過ぎて一年分を調べるだけでもかなりの量がある。正直かなり気が遠くなる作業だ。オレが魔法少女としてもっと力をつけてランキングが上がればもっと別の手段もとれるんだが。
今はこうやって地道に探すしかねぇ。
ちなみに今のオレの魔法少女ランクは三桁にまでは上がってるらしい。詳しい順位は知らねぇが、そんな話を黄嶋の奴がしてたからな。逆にまだ三桁なのかよって感じだが、百位以内の魔法少女ってのはそれこそマジで規格外らしいからな。
「まぁあのトイフェルシュバルツ見てたら納得だけど」
最近は会ってねぇけど、あの異様な雰囲気。同じ魔法少女だとは思えなかったしな。
「ま、もう会うこともないだろうし、会いたくもないけど」
「誰に会うことがないの?」
「えっ!?」
突然背後から聞こえた声に背筋がぞくりとする。
全く気配を感じなかった上に、聞き覚えのある声だったからだ。
外れていろと願いながらゆっくりと振り返る。
「やぁ、久しぶりだね」
そこ立っていたのは、オレが会いたくないと思っていた魔法少女――トイフェルシュバルツだった。
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