第185話 メイスは意外と抜け目ない
「はぁはぁはぁ……こ、ここまで来れば大丈夫だよね」
崩落から必死に逃げ、ようやく安全な場所まで来れたオレ達は安堵の息を吐く。
はぁ、マジでやばかった。あと少し逃げるのが遅れてたら崩れてきた岩盤に押しつぶされてたぞ。
「みんな、大丈夫だよね」
「問題ない」
「はぁはぁ、あ、あたしも大丈夫……それにしてもこんなところまで崩落するなんてね」
「これ……大丈夫なの? 私達の責任問われたりしない?」
「それは大丈夫だと思うけど……たぶん」
「たぶんなんだ」
走ってきた道を振り返ってみれば、見えるのは完全に崩落した道。とても戻れそうには無かった。この様子じゃ掘り起こすのも一苦労だろう。せっかくパッションパープルが壊したってのに、これじゃ魔鉄鋼も採れないな。はぁしくじった。
こいつに頼ろうと思ったのがそもそもの間違いだった。こいつはマジで面倒事しか起こさねぇ。そのことをすっかり失念してた。完全完璧にオレの失敗だ。
というかこんな事態を引き起こしておきながらなんでこいつは平然とした顔してやがんだ! 怒りと恨みを込めて
「パープルゥウウウウ……」
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ!! 見てこの惨状、いくらなんでもあり得ないでしょ! そりゃ確かに壊して欲しいとは言ったよ? この魔鉄鋼の塊壊して欲しいなー、採掘したいなーって、そういう話でパープルのこと呼んだわけだからさ。でもまさかここまですると思わないじゃん!」
なんか思い出したらどんどん腹が立ってきたな。さっきのことだけじゃねぇ。
出会ってから今日までの色んなことを含めてだ。
「もっとこう、加減ってあるでしょ普通! まぁ確かに私もパープルの力を把握してなかったよ。どこまでできるかなんて知らなかったし。それは問題あったかもしれないよ? でもさ、パープル自身は知ってたわけじゃん。というか途中で一回欠けたんだからこれ以上殴ったらヤバいかなとかわかるじゃん! それなのに遠慮なしにドーンッってやるからバーン! からのドンガラガッシャン!! ってなって私達ワーッてなっちゃったわけでしょ! そこんとこどう思ってるわけ?」
「どう? 大変? かも」
「かもじゃないからぁあああああっっ!!」
「まぁまぁ落ち着いてレッドちゃん。どうどう。興奮しすぎて語彙力死んじゃってるから。ほら、パープルちゃんを呼んだのはあたし達なわけだし。ね? そ、それにほら! ちゃんと魔鉄鋼は手に入れてるから!」
「え?」
そう言ってメイスが懐から取り出したのは一抱えほどの大きさの魔鉄鋼だった。
ってこんなのいつの間に取りやがったんだ? あの崩壊の最中ちゃっかり回収してたってのか?
こいつ……思った以上にちゃっかりしてやがんな。いや、この場合はそれが正解なのかもしれねぇけど。
「あ、そう。魔鉄鋼は手に入ったんだ」
「うん! それも必要としてた分の倍以上!」
「倍以上……」
めっちゃいい笑顔で言ってんじゃねぇよ。
なんかめちゃくちゃ怒ってたオレが馬鹿みてぇじゃねぇか。
目的のもんは手に入ってて、それを成し遂げたのはパープルの力あってのことで……オレのしたことといやこいつを呼んだくらい。
いくらなんでも情けなさ過ぎるだろ。
「はぁ……なんかもういいや。ごめんパープル、ちょっとだけ言い過ぎたかも」
「別にいい。気にしてない」
「あ、そう。まぁパープルはそうだよねー」
「ありがとねパープルちゃん。パープルちゃんのおかげで魔鉄鋼が手に入ったよ」
「それで何をするの?」
「? これで魔道具を作るんだよ。今回はレッドちゃんの魔道具のチューンアップするための素材として使おうと思って。そのためにはこれが必要だったから」
「魔道具……ラブリィレッドは魔道具使ってるの?」
「使ってるよ。攻撃用の手甲と移動用兼攻撃にも転用できる足用の魔道具。私、空飛ぶのとかまだちょっと苦手だし」
「そうだったんだ」
「あ、もしかしてパープルちゃんも魔道具に興味あったりする? もし良かったらあたしが作ってあげてもいいよ。というか、今回のお礼に作らせて欲しいな」
「…………」
「どうしたの?」
「なんでもない。魔道具を作ってくれるのは嬉しいけど遠慮しておく」
「え、どうして? 別に遠慮しなくてもいいんだよ」
「遠慮じゃない。せっかく作ってもらっても、どんな道具もわたしは壊してしまうから」
「壊しちゃうって、それどういうこと?」
「わたしは――」
何かを言おうとしたパープル。だがパープルの言葉を遮るように突然けたたましくパープルの携帯が鳴り始めた。
「電話?」
「あ、そっか。だいぶこっちの世界と元の世界の境界線に近づいてきたから電波が通るようになったのかも」
むしろ今まで通ってなかったのか。マジで岩盤に押し潰されなくて助かった。
よしんば生き残ったとしても外に連絡が取れないんじゃじり貧だっただろうしな。
「もしもし。うん……うん、今はよくわかんない場所にいる。わかんない。うん。そう。行けばいいの? わかった。すぐに行く」
「えっと、行く場所ができた感じかな?」
「ん。すぐに来いって言われた。だから行く。それじゃあ。楽しかった」
「あ、パープル!」
オレが呼び止めるのも聞かずパープルはさっさと走りだしてしまう。
と、思ったらすぐに戻ってきた。
いったいどうしたのかと思ったら、パープルは何食わぬ顔をして言った。
「わたし、元の世界へ戻る道を知らなかった」
「えぇっ?!」
「あはははっ、パープルちゃんってホントに面白いね。それじゃあみんなで外まで行こっか」
なんつーか、ホントに最後の最後までパープルはパープルだな。
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