第187話 魔法少女ランク第一位
いつの間にかオレの後ろにいたトイフェルシュバルツの姿を見て思わず凍り付く。
全く気配を感じなかった。
いや、感じなかったとかそんなレベルじゃない。こうして目の前にいるのにまだどこか現実味がない。一瞬でも瞬きをすれば見失ってしまいそうな、そんな気すらする。
初めて会った時は一目見ただけでヤバい奴だってわかったのに、今のこいつからはそんな気配は微塵も感じなかった。
「んー? あぁ、ごめんごめん。気配殺し過ぎてたかなぁ。わたしがここにいるのバレると面倒なことになっちゃうからさぁ」
「っ!!」
気配を殺してたってのはその通りなんだろう。さっきまでとは打って変わって圧縮された濃厚な魔力の気配を感じる。たぶんこれでも抑えてるんだろうな。
前以上にこいつの力を感じるのはオレがそれだけ魔法少女として成長したってことなんだろう。前よりもずっとこいつの力量ってのを感じる。
いや、違うか。まだこれでも測りきれてねぇんだろうな。こいつの力はまさしくオレとは次元が違う。違い過ぎる。こうして力をつけた今ですらまだ足下すら見えてる気がしねぇ。
これが魔法少女ランク二位。でも二位ってことはこいつのさらに上がいるんだよな。どんな次元の話だよって感じなんだが。
そもそもなんでこいつがこんなところに居やがるんだ。
「なんでこんなところに居るのって、そりゃわたしだって居るさ。ここは魔法少女統括協会の拠点である『グリモワール』なんだし」
「そりゃそうかもしれないけど……って、ちょっと待って。今私口に出してなかったよね? もしかして心読んだ?」
「んー? さぁそれはどうだろうねー。もしかしたら口に出してたのかもしれないよ。自分でも気づかないうちにね」
いやもう確実に呼んでるだろ。なんだそれ、どんな魔法だよ。いや魔法なのか?
それすらもわからねぇ。
ただ一つ確かなのは、これ以上こいつと話してると余計なことまでバレるかもしれねぇってことだ。
「そんな逃げなくてもいいじゃん」
「っ!? う、動かない!?」
ゆっくりと離れようとしたオレだったが、まるで金縛りにあったみたいに体が動かなくなる。なにかしたような雰囲気は無かったはずだ。いや、したのかもしれねぇが、少なくともオレには何も感じ取れなかった。
「あははぁ♪ 必死に抵抗しようとしてるその感じ。だけど今の君じゃまだ無理かなぁ。もう踏んじゃったからさ」
「ふ、踏んだ?」
「それにしても……前に会った時よりもずっとずっと良い感じになってるねぇ。まだ足りないけど。ちょっと味見するくらいならいいよねぇ?」
「っ!」
悪寒が止まらない。まずい、やばい。今すぐこの場から逃げろってオレの本能が叫んでる。
だがどんなにがむしゃらに動こうとしてもびくともしねぇ。マジでどうなってんだよ!
ゆっくり伸びてきた手がオレの肩に触れる――その直前だった。
「ちょっとトイちゃん、何してるの?」
「あ。見つかっちゃった」
フッと体が軽くなって、動かなかった体が動くようになる。
反射的にトイフェルシュバルツから距離を取ったオレだったが、トイフェルシュバルツはオレとは違う方を見ていた。
その視線の先に居たのはトイフェルシュバルツとは対照的な白い魔法少女。
って、もしかしてこいつは。
「戻ってくるのが遅いと思ったら。またちょっかい出してたの?」
「いやー、あはは。見つけちゃったからさぁ」
「…………」
呑気な会話をする二人。でもオレはそれどころじゃ無かった。
こいつと対等に話せる奴なんて、少なくともオレは一人しか知らねぇ。
「ユスティヴァイス……」
オレがその名を呟くと、その魔法少女はオレの方に目を向けてきた。
「あ、自己紹介がまだだったね。私はユスティヴァイスだよ。トイちゃんとペアを組んで魔法少女活動してます」
「わ、私は……」
「知ってるよ。ラブリィレッドちゃんだよね。トイちゃんから面白い魔法少女がいるーって話は聞いてたから。ごめんね、急にトイちゃんがちょっかい出しちゃって。トイちゃん、気になった子がいるとすぐにちょっかい出しちゃうの」
「は、はぁ……」
今のはちょっかいとかそんなレベルじゃ無かった気がするんだが。
いや、今のでもこいつらにとってはちょっかいレベルでしか無かったってことか。
目の前にいるユスティヴァイスのことをジッと見る。
こいつもトイフェルシュバルツと同じだ。底が見えない。
ニコニコと笑顔を浮かべちゃいるが、その実力はトイフェルシュバルツと同レベルってことなんだろうな。
「どうかした? 私の顔に何かついてたかな?」
「あ、いや。そういうわけじゃなくて。まさか魔法少女ランク一位の人と会えると思って無かったからびっくりしたっていうか」
「うーん、その魔法少女ランクって私あんまり好きじゃないんだけど。ただみんなを守るために頑張ってるだけだしね。それでみんなに認められてるのは素直に嬉しいんだけど。ランクみたいな形で競争させ合うのが好きじゃ無いっていうか。だって私達ってライバルじゃなくて仲間でしょ?」
な、なんだこいつ……。
単なる綺麗事だって言ってやりてぇが、こいつにはそれを言うだけの資格も実力もある。
「でもラブリィレッドちゃんだっけ。確かにトイちゃんが気にかけるだけのことはあるね。貴女ならきっともっと強くなれるよ。頑張ってね!」
「は、はぁ」
こいつ、悪気はねぇんだろうが……暗に今のオレじゃまだ実力が足りねぇって言ってねぇか? それでも不思議と苛つかねぇのはこいつの持つ天性の才ってやつか。
「っと、そうだった。探してた資料見つけたから行こう」
「えー、もうちょっとこの子と話しても」
「だーめ。もう時間無いんだから。ごめんねラブちゃん」
「ラ、ラブちゃん?」
「ラブリィレッドだからラブちゃん、ダメかな?」
「い、いや、ダメというか……」
「ぷくくく…ラブちゃん。いいねそれ。わたしも今度からそう呼ぼう」
「えぇ!?」
「可愛いよねぇラブリィレッドって名前。いいなぁ。私も可愛い魔法少女名だったら良かったのに」
譲れるもんなら譲ってやりてぇけどな!
なんなんだよこいつらは。揃いも揃って厄介っつーか。。
「それじゃあまたね、ラブちゃん」
「またねー。あ、そうそう。ラブちゃんの探しものなんだけど。たぶん、あそこにあるよ」
「え?」
「じゃーねー」
そのまま去っていくトイフェルシュバルツとユスティヴァイス。
二人が離れたことでようやく重苦しい魔力の気配から解放される。
マジで息が詰まるかと思ったんだが。
それにしても最後にあいつなんて行ってた?
「オレの探しものがあそこにあるって……あの本棚か?」
トイフェルシュバルツが指差した先にあったのはオレがまだ確認してない本棚だった。
半信半疑ではあったが、他に何か手がかりがあるわけでも無かったオレはそのまま本棚へ近づく。
そしてその本棚を調べたオレは一冊の資料を見つけた。
「あ……」
オレが目をつけたのはその資料を纏めた奴の名前。
そこに記された名は『エンジェルメロディ』。
オレの幼なじみ、天使詩音の魔法少女名だった。
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