第179話 フュンフから見た晴輝
「……なーんか嫌な予感がするのよねぇ」
晴輝の部屋にいたフュンフはムズムズするような、言い知れない感覚を覚えて体を起こす。
ふと晴輝の方に目を向けてみれば、そこには机に向かってなにやら真剣に資料を読んでいる晴輝の姿があった。
「ホント、根っこは真面目なのよねぇあいつ」
資料を読む晴輝の姿を見ながらフュンフは一人呟く。
紅咲晴輝。彼女が選んだ魔法少女の一人。男でありながら魔法少女に変身できる素質を持った稀有な存在。
晴輝にも明かしていない事実だが、魔法少女になるというのは単純に魔力を多く持っているだけでなれるようなものではない。
契約する妖精との相性。それも大事なのだ。その意味で言えばフュンフと晴輝の相性は最高と言ってもよかった。もちろん、そんなことを晴輝に告げれば嫌な顔をして否定するだろうが。
ある意味でフュンフは晴輝という人間を本人以上のよく知っている。どんなに表面を取り繕ったところでフュンフの目は誤魔化せないからだ。
(露悪的な人間。だけど、本質的な優しさが彼の中にはある。不器用だけど確かな優しさが。ま、本人は認めないでしょうけどね)
だが晴輝の中にある優しさは魔法少女として活動していくなかで見えている。どんなに人と距離を置こうとしていても、最終的な部分で見捨てることができない。それが紅咲晴輝という人間だ。
「……おい」
「なに?」
「さっきから何ジロジロこっち見てんだよ。気が散って集中できねぇだろうが」
「見られてるくらいで集中力を欠くなんて、あなたもまだまだね」
「うるせぇ、お前の視線がうるさいんだよクソ妖精」
「クソ妖精なんて名前の妖精知らないわね。どこの誰が見えてるのかしら。それともまさかあたしのことを言ってるの? だとしたらあなたって人の、いえ妖精の名前もまともに覚えられないほど残念な頭してたのね」
「んだと?!」
晴輝の表情が怒りに満ちる。
この怒りっぽさだけは晴輝の欠点だとフュンフは内心で毒づきながら、飽きることなく言い返してる自分にも原因があるかと自省する。
『おにいちゃーん? どうかしたのー?』
「っ、いや。なんでもねぇ。大丈夫だ!」
『そう? わかったー』
部屋の外から聞こえたのは晴輝の妹である秋穂の声だ。今叫んだ晴輝の声が聞こえたんだろう。
普段露悪的、一般で言う不良と呼ばれてもおかしくないような行動をしている晴輝だが家族に対してだけは違う一面を見せる。晴輝自身が言うことはないが、彼は家族のことを自分以上に大切にしている。決して傷つけまいとしている。
彼の『愛』の根源の一つであることは間違いないだろう。
(でもまだ足りない。晴輝が本当の意味で正しく進むためには彼の心の中にある楔を取り除かなければいけない)
フュンフは気づいている。晴輝の中にある心の傷に。だがそれを取り除くのは自分の役目ではないということもわかっている。
「それは零華達の役目でしょうしね」
「あ? なんか言ったか?」
「なんでもないわ。それより、今日学校に転校生が来たんでしょう? しかも魔法少女らしいじゃない」
「ちっ、あいつのこと思い出させんなよ。ただでさえ疲れてんのによ」
「なんて魔法少女なの? 今日に限って別の用事であなたについて行ってなかったからどんな子なのか知らないのよ」
「オレだって別にそんなに詳しいわけじゃねぇよ。パッションパープルとか言う魔法少女だ。どんな能力かは知らねぇが、図抜けた力を持ってやがる。とんでもねぇ馬鹿力だ」
「へぇ、あなたがそんな風に言うなんて。相当ね」
「なに考えてるかわかんねぇし、正直めっちゃ疲れる」
「ふーん。パッションパープルねぇ。新しい魔法少女なのね。また明日にでも少し調べてみようかしら」
フュンフにとって新しい魔法少女とは商売敵にもなり得る存在だ。知っておいて損はない。それに何より、以前接触してきたノインの存在が気がかりでもあった。
「あいつ、この辺を拠点にしてとか言ってたし。もしかしたらって可能性もあるもんね。何か妙なことにならないといいんだけど」
そう内心の不安を吐露するフュンフ。
そのその不安はある意味で的中してしまうことになるのだった。
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