第177話 薬の副反応

 急速に縮み始めたスティールモンキーは、人をはるかに超えた体躯から普通の人間ほどの大きさに。一時的に身体能力を爆上げするような能力を持ってたのかと思ったが、その考えもすぐに捨てることになった。

 どう考えてもこいつの状態が普通じゃ無かったからだ。


「あ……ぁ……あぁああああああああっっ!!」

「っ、な、なに急に」

「殴り過ぎて壊れた?」

「冷静に状況分析しないでくれるかな!?」


 オレの鎖でグルグル巻きにしてるのに、暴れまくって千切ろうとしてやがる。もちろんこんな状態の奴に千切れるとは思わねぇけど、暴れ方の必死さがさっきまでの比じゃねぇというか。マジで死んじまうんじゃねぇかって感じだ。

 どうする。無理矢理押さえつけるか? でもこの鎖以上にこいつを抑える方法なんて思いつかねぇぞ。

 クソ、こういう時に使える魔法なんかパッと思いつかねぇというか使えねぇしな。


「待たせたわね。それよりもこれはどういう状況なのかしら」

「お待たせしました。なんか普通じゃない感じですけど」

「あ、二人ともちょうど良かった。今は説明を省くけど、突然暴れ出しちゃって。こっちの言葉も届いてない感じだし、なんとかできないかな?」

「……わかりました。わたしに任せてください」

「できるの?」

「はい。その場しのぎにはなりますけど」


 イエローはそう言うとその手に電気を帯びた矢を出現させて、それをなんの躊躇いもなくスティールモンキーの体に突き刺した。

 ビクンッと大きく跳ね上がるスティールモンキーの体。しかしそれも一瞬のことで、さっきまで暴れ散らかしてたのが嘘みたいに全く動かなくなる。

 ってこれ大丈夫なのか?


「ね、ねぇ。これさ、大丈夫なの? なんかめっちゃビクビクしてるんだけど」

「え、でもこういうときって電気ショックでなんとかなるんじゃ」

「その程度の知識であんなに自信満々だったの!?」

「……とどめ、刺した?」

「「…………」」

「ど、どどどどどうしましょう!!」

「そんな焦らないでよ! どうしようとか聞かれたって私だってわかんないし!」


 スティールモンキーの奴口から泡吹いてるしこれいよいよやべぇんじゃねぇか?

 あぁくそ、イエローだから大丈夫だろとか適当なこと考えたのが良くなかったか。このまま死なれるのはさすがに後味悪すぎるぞ。というかこいつから何の情報も引き出せないままなのは良くねぇし。どうする。こうなったら無理矢理にでも魔法を――。


「あぁもう、みっともなく騒がないで。みんな下がって。私がやるから」


 そう言ってブルーは慌てるオレ達を押しのけてスティールモンキーの前に膝をつく。


「これならまだなんとかなりそうね――癒やしの水よ」


 ブルーの手から水が生み出される。その水はまるで生きているかのようにスティールモンキーの体にまとわりつき、その傷を治癒していく。


「応急処置だけどこれで本格的な治療まではもつはずよ。それに、鎮静の効果も含まれてるからもう暴れたりもしないはず。協会の人はもう呼んでるの?」

「うん、それはもうとっくに。でもそんなことできたんだ」

「多少の怪我くらいなら自分で治せるようになっておきたかったのよ。まさかこんな形で使うことになるとは思って無かったけどね。それにしても、この怪人ずいぶん酷い怪我ね。あなたがやったの?」

「さすがにここまでボコボコにしないって。やったのはあっち」

「わたしがやった。すごい?」

「すごいけどやり過ぎよ。それじゃあ改めて自己紹介させてもらおうかしら私は――」

「ブレイブブルー、ホープイエロー。有名人だから知ってる」

「そう。なら自己紹介は省こうかしら。あなたはパッションパープルだったわね」

「そう。ラブリィレッドから聞いたの?」

「えぇ。まさか昨日の今日で会うことになるとは思わなかったけど」

「この様子を見るに噂通りの怪力みたいね。それがあなたの力なのかしら」

「そうだったかな? そうだった気がする」

「曖昧なのね。それとも誤魔化してるのかしら」

「?」

「そういうわけでもないみたいね。まぁ同じ魔法少女同士、これからもしかしたら協力することもあるかもしれないし」

「……ん、よろしく」


 そうこうしてる内に協会の人間がたどり着き、スティールモンキーを連れて行った。かなり疲弊した様子だったのは最近ずっと忙しかったからなんだろうが。

 それにしても妙なことを言ってたな。

 また薬の副反応が出てる……だったか。やっぱりあの様子、ただ事じゃ無かったんだな。

 同じ話を聞いていたイエローもまた難しい顔をしていた。


「薬……最近よく聞きますよね。どこが流してるのかはわかりきってますけど」

「そうだね。いい加減なんとかしたいんだけど。まだ上手く掴めてないんでしょ?」

「調査は難航してるみたいよ。ダミーのアジトがそこかしこに用意されてるみたいで。誰を捕まえてもトカゲの尻尾切り。原因にまでたどり着けないらしいわ」

「ムカつくなー。正々堂々戦えって言ってやりたい」

「怪人にそんなこと言っても無駄でしょ。なんとかしたいのはそうだけど。まずは目の前の怪人事件を一つずつ片付けるしかないわ。それが解決に繋がると信じてね」

「もどかしけど、それしかないかぁ」

「問題無い」

「え?」

「怪人はわたしが全部殲滅するから」

「パープルが言うと冗談に聞こえないんだけど」

「冗談じゃない。わたしは本気」

「まぁそう意気込むのはいいこと……いいこと?」


 どっちにしてもこいつのこの感じ、嘘や冗談で言ってるわけじゃないんだろうな。


「それじゃあわたしは次の場所に向かう。またね」

「え、あ、ちょ」


 こっちが呼び止める間もなくパッションパープルは跳んでいく。その姿はあっという間に砂粒ほどの大きさになって消えていった。


「なんていうか……嵐みたいな子ね」

「でしょ」

「あはは、でもまたどこかで会いそうな気がしますね。なんというかレッドと縁があるみたいですし」

「それは本気で止めて」


 ただイエローの言葉もあながち間違ってねぇというか。昨日も今日も遭遇してるわけだからな。

 とにかく、オレがラブリィレッドだってことだけはバレねぇようにしねぇと。

 明日からの生活を考えて、オレはため息を吐いた。

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