第176話 意外と根に持つタイプらしい
逃げようとしていたスティールモンキーにパッションパープルの蹴りが突き刺さる。
って、あの方向ビルじゃねぇか!
慌てて再加速して、スティールモンキーとパッションパープルが飛んでいった方へ向かう。この時間帯、ビルの中にはまだ人がいるはずだ。スティールモンキーはこの際死のうがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、ビルの中にいる奴らにまで被害を出すわけにはいかねぇ。んなことしたらこいつだけじゃなく他の魔法少女にまで悪影響が出る。それはさすがに無しだ!
「あぁもう! 結局こうなるの!?」
スティールモンキーとパッションパープルがビルにぶつかるタイミングで局所的に物質強化の魔法を掛ける。ビルごとぶち破らんとしていたパッションパープルの蹴りにも一撃くらいは耐えるはずだ。
「あがぁっ!?」
「うそっ!? 本気で硬化させたのに罅入ったんだけど!」
どんな威力で蹴ったらオレの魔法で硬化させた壁に罅入れれんだよ。やっぱあいつ頭おかしいんじゃねぇのか。
そんなことを思いながらビルの壁にぶつかって地へ落ちていくスティールモンキーを追いかける。すると案の定というか、パッションパープルがスティールモンキーに馬乗りになってたこ殴りにしてるところだった。
「ふっ、ふっ、ふっ」
「あがっ、おごっ、や、やめ! お、おいお前! たすけ、たすけろ!!」
うわ、もう顔面血だらけじゃねぇか。まぁどうでもいいけどな。
助けを求めるスティールモンキーを無視してオレはブルーとイエローに連絡を取る。
「あー、もしもし、二人とも聞こえてる?」
『聞こえてるわ。どうしたの?』
『あの、途中で止まってるみたいなんですけど。もしかして捕まえれたの?』
「まぁ捕まえれたと言えば捕まえれたんだけど。とりあえずこっちの方に来てくれるかな」
『? わかったわ』
『すぐに向かいます』
さてと、連絡は済んだし……これ、止めるべきか? 止めるべきなんだろうなぁ。さすがに止めるべきなんだろうな。はぁめんどくせぇ。
なんで学校終わって放課後になってまでこいつの面倒見なきゃいけねぇんだよ。
「あー、ねぇちょっと、聞こえてる? パープルさーん」
呼びかけてみるものの反応は無い。というか殴るのに夢中って感じだ。
さすがにあれ以上やると、逝っちまいそうだな。
「はいそこまで。うぉっとと」
後ろから無造作に手を掴んで止めようとしたら、その腕ごと持って行かれそうになった。なんとか魔力で腕力強化して耐えたけど、こいつの力マジでどうなってんだよ。
「あ、ラブリィレッドだ」
「気づいてなかったの? 思いっきりこの怪人のこと追いかけてたんだけど。とりあえずその辺でストップしてくれる? じゃないとそろそろ死んじゃうから」
「なんで?」
「いやだから死んじゃうからだって」
「こいつは死んでもいい。わたしのこと馬鹿にしたから」
「あ、もしかして地味に怒ってたりする? わかりづらー」
そう言われると確かに拳に怒りがこもってるような気がしなくも……いや、やっぱわからねぇな。でもこいつの言葉通りならこいつも怒るのか。それはちょっと意外だな。完全に無感情な奴かと思ってたんだが。
「わたし、すごく怒ってる。こいつ、わたしが帰り道で食べてたパンを盗んだ。その上馬鹿にしてきた。絶対に許さない。食べ物の恨みは忘れない。馬鹿にされたことも忘れない。ふんっ」
「ぅぁっ……」
「だから殴っちゃダメだって。ホントに死んじゃうから。でもそっか。こいつが気にしてたのってパッションパープルのことだったんだ」
「ずっと追いかけてた」
オレがスティールモンキーと会った時、誰かに追われてる風だったのはパッションパープルのせいだったのか。ってか、そう考えたらこいつ結構な距離追いかけてたんじゃないのか?
「パンならまた後で買ってあげるからさ、とりあえず一回殴るのは止めて欲しいな」
「パン……わかった」
「いやそれで納得するんだ。まぁ楽でいいんだけど」
パッションパープルが離れたのを見て改めて倒れてるスティールモンキーの様子を確認する。事前に魔法で縛っておくことも忘れずに。これなら抵抗できねぇだろうしな。
それにしてもひでぇ惨状だな。まぁ同情はしねぇが。むしろオレも一発くらい殴っとくか? いやいや、そんな死体蹴りみたいな真似はさすがに男らしくねぇ。
とりあえずブルーとイエローが来るまでに魔法少女統括に連絡を――って。
「ん?」
ふと異変に気づく。
スティールモンキーの体から煙みたいなのが上がってたからだ。
何かしたのかと思って警戒したが、そういうわけでもなさそうだった。
そして、その変化はすぐに訪れた。
「これは……」
倒れていたスティールモンキーの体がまるで空気が抜けるみたいにしぼみ始めた。
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