第175話 煽り性能の高い怪人
今回の捕縛対象であるスティールモンキー。
こいつはその名前の通り、とにかく盗む。色んな物を盗む猿みたいな姿をした怪人だ。
人に怪我させたりとかそういうことはしてないらしいが、最近はどんどん盗む物が悪質に、大胆になってるらしい。女の下着にまで手を出してるらしいからな。
被害に遭った奴らから、さっさと捕まえてくれって以来が増えてるみたいだ。
女の下着なんか盗んで何が楽しいのか知らねぇけど、怪人になってまでやることなのかよ。
「でも、スティールモンキーの捕縛依頼って結構前からあったよね。なんで誰もやってないの?」
「やってないわけじゃないみたいよ。どうやらかなり厄介な怪人みたいでね。まともに戦おうとしない、ずっと逃げる。それだけならまだしも、魔法が盗まれたなんて話まであるわ」
「魔法が盗まれた? なんだよそれ」
「詳細はわからないけれど。とにかく、用心しておくに越したことはないわ」
今はオレとブルーの二人でスティールモンキーの目撃情報があった地点へと向かってる。イエローは別場所待機だ。追いかけるにしても、三人でまともに追いかけるよりどっかで待ち伏せした方が楽だからな。
あわよくばオレ達で捕まえる。それが厳しそうなら罠を張った地点まで誘導する。それがオレ達の決めた作戦だった。追い込み漁みたいなもんだ。
『位置に到着しました。いつでも大丈夫』
「りょーかい。そっちの方の索敵に引っかかったりしてない?」
『こっちの方はまだ。そっちはどうですか?』
「今のところは。毎日活動してるらしいから、いないってことはないと思うんだけどね」
オレとブルーの探知に今の所スティールモンキーの存在が引っかかることは無かった。大胆なのか慎重なのかわからねぇ奴だ。さっきもイエローに言ったが、今のところ毎日活動してる奴だ。今日に限って休みますなんてことはねぇはずだし、もしそうなら最悪過ぎるんだが。
「活動してるのはこの範囲で合ってるんだよね?」
「えぇ、それは間違いないはずよ。今さら活動範囲を変えるなんてことはないはずだけど」
「うーん、魔法少女に追われることが増えてきたから場所を変えたとかは?」
「あり得ない話ではないけど。でもそれも考え難いわ」
「どうして?」
「どうやらスティールモンキーは私達魔法少女を煽るのも楽しんでるみたいだから。以前挑んだ魔法少女が大層怒っていたわ」
「煽ってくるんだ。確かに煽られて逃げられたらムカつくかも」
「それに、土地勘というものもあるわ。逃げ慣れた場所から突然離れるということはないでしょう」
「確かに。それもそっか。でもそうなると……っ、今引っかからなかった?」
「えぇ。怪人の気配ね。かなりの速度で移動してるわ。ちょうどいいわね。こっちも作戦通りよ」
「了解」
察知した怪人の気配を見失わないように気をつけながら二手に分かれる。
イエローの待ち伏せている場所から外れすぎないように気をつけながら徐々に近づく。
そしてとうとう目視で見える範囲にまで近づいた時にその姿を見つけた。
茶色い毛むくじゃらの体、二メートルを優に超える体躯の割にその動きはかなり素早い。
でもなんだ? やたらと後ろの方を気にしてるというか。なんか焦ってねぇか?
いや、そんなことはどうでもいい。とにかく見つけたんだ。後はこっちの作戦通りに動くだけだ。
「見つけたよスティールモンキー!!」
「っ!? くそ、てめぇもかよ! 今日は大盤振る舞いだなおい!」
「てめぇも? よくわかんないけど、大人しく捕まってよね!」
「うるせぇ、誰が捕まるか! 俺はどこまでも逃げてやる! 逃げて奪って、好きに暮らすんだ!」
「そんなの許すわけがないでしょ! 『
「おっと、そんなの当たるわけがないだろうが! この鈍間が!」
「の、鈍間!? こんのぉ、調子に乗らないでよね!」
避けられたことも腹立つが、何よりあいつの表情だ。こっちを馬鹿にしたような猿顔。一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まねぇ。殴る。絶対に殴る。
足に装着した魔道具『ビュンビュンちゃん改』に魔力を注ぎ込み一気に加速する。前回からさらにドワーフメイスに調整を加えてもらったおかげでさらに速度は上がってる。
「へ、いっちょ前に怒ってんじゃねぇよ! どんなに速かろうがこの町で俺を捕まえられると思うなよ!」
距離が詰まったと思ったら急にスティールモンキーの姿が消えた。
「っ!? いったいどこに」
まだ気配は近くにある。でも姿が見えねぇ。まさか建物の陰に隠れやがったのか?
確かにこの変は妙にビルだのなんだのがあって、建物が入り乱れてやがる。あいつのあの速度で動かれたら面倒だ。だからって魔法少女って立場上、建物をぶっ壊すわけにもいかねぇし。なるほどな、そうやってこいつは今まで逃げ回ってたわけだ。
ブルーの言ってた通り土地勘もあるんだろう。だが、その程度で諦めると思うなよ。
オレを煽ったんだ。そう簡単に逃がすと思うなよ。
オレだって空中を飛ぶのは少しずつ慣れてきたんだ。ビルの合間くらい縫って飛んでやるよ!
動き出してから一瞬で最高速へ。体にかかるGは魔法で軽減しながら建物の間を跳びながら移動するスティールモンキーへ肉薄する。
「はっ、やっぱり追って来やがったか! だが、そんな速度出していつまで追いかけれる? ぶつかっても知らねぇぞ!」
「心配どうも。でも大丈夫だから。さっさと捕まってよね!」
そこから始まったのは猛烈なチェイスだ。逃げるスティールモンキーと追いかけるオレ。
土地勘と建物を利用して逃げるスティールモンキーを、速さにものを言わせて追いかける。だがオレだって何も考えずがむしゃらに追いかけてるわけじゃねぇ。距離が詰まったり詰まらなかったりを繰り返しながら、それでも少しずつイエローの待ち伏せ場所へと近づいてた。
ブルーの位置も掴んでる。このままいけば確実に罠にかかるはずだ。
「この先を曲がれば」
「はっ、てめぇが何考えてるか当ててやろうか? 俺のこと罠に掛けようとしてんだろ」
「っ、何の話かな」
「誤魔化さなくたってそれくらいわかんだよ。俺様はお前ら魔法少女と違って頭が良いからな!」
「むっ」
「だがそう簡単には捕まらねぇ。俺様を舐めんな!」
「っ?! 『炎想の――』」
「使ったな。奪わせてもらうぞその魔法!」
「なっ!?」
急反転してオレに向かって跳んでくるスティールモンキー。
とっさに魔法を撃とうとしたが、その魔法が忽然として消える。いや、奪われた。
「おらぁっ!!」
「きゃぁっ!」
オレから奪った魔法をそのまま投げつけてくる。進んでたオレは避けるのも間に合わずにもろに自分の魔法を喰らうことになった。そしてその隙を突いてスティールモンキーはオレの横を抜けていく。
「しまった!」
「残念だったな。雑魚魔法少女。俺はこのまま逃げさせてもらうぜ!」
まずい、あっちの方に逃げられたら罠がおじゃんになる。
そんな焦りがオレの中に生まれたその時だった。遠くからあり得ないほどの速さで飛んで――いや、跳んで来る気配が一つ。
スティールモンキーがその存在に気づいた時にはもう遅かった。
「は?」
間の抜けたスティールモンキーの声が聞こえた次の瞬間。
「どーん」
パッションパープルの蹴りがスティールモンキーに突き刺さった。
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