第174話 部室が唯一癒やしの場

 紫姫の存在は予想通りというか予想以上にオレの生活をかき乱した。授業中はもちろん昼休みまで。とことん我を貫き通すあいつは、どこまでも自由だった。

 授業中に寝るのはもちろん、授業がつまらないからって授業の真っ最中に出て行こうとしたしな。しかも魔法少女に変身して窓から飛び出そうとしやがった。

 それだけじゃねぇ、昼休みには金も持ってねぇのに購買の商品持っていこうとしやがるしな。おかげでオレが余計に金を払う羽目になったしな。

 もう最悪だ。朝から最悪なまでについてねぇ。

 そして現在放課後。ホームルームが終わるなり紫姫がどっかに姿を消したことでようやくオレもあいつのお守りから解放されたわけだ。

 さすがに放課後まで面倒見る気はねぇしな。というかそんな義理がねぇ。


「あー、気分最悪過ぎるだろ。なんなんだよあいつ」


 部室にやってきたオレは椅子に座って天を仰ぎながら毒づく。今日一日あいつのせいでどんだけ苦労させられたと思ってんだ。しかもまだ初日だぞ。

 いっそ明日からは完全に無視してやるか? って、それでも面倒なことになる気しかしねぇけどな。


「あはは、さすがにお疲れって感じだね」

「……なんだ、黄嶋か」


 そういや居たか。というかここ部室だし居てもおかしくないのか。疲れすぎてすっかり忘れてた。黄嶋だけじゃなくいつの間にか青嵐寺までいやがる。


「今日一日ずっと月夜さんに振り回されてたもんね。すごく大変そうなのは見てるだけでも十分伝わってきたよ」

「大変なんてもんじゃねぇよ。何度ぶっ飛ばしてやろうと思ったか」

「自業自得って言いたいけど。あなたがそこまで他人を気遣うのも珍しいわね。彼女と何かあったの?」

「あ?」

「確かに……ちょっと意外だったかも」

「知り合いだったの?」

「知り合いというか……まぁてめぇらなら言っても大丈夫か。青嵐寺あたりは薄々気づいてるかもしれねぇが、あいつ魔法少女だぞ」

「えぇ!?」

「やっぱりそうだったのね。妙に雰囲気のある子だし、何かあるとは思ってたけど」

「昨日会った。パッションパープルとかいう魔法少女らしい。知ってるか?」

「私は知らないわ。若葉は?」

「パッションパープル! 知ってますよその名前! 最近活動を始めた魔法少女で、その尋常ならざる力で怪人をねじ伏せて回ってるって」


 尋常ならざる力……確かにあの力は普通じゃねぇな。いくら魔法少女に変身して強化されるって言っても、あれはそんなレベルじゃねぇ。今のオレでもあのレベルの力を発揮することはできねぇしな。確実に何かあるんだろうが……。

 まぁ今は考えるようなことでもねぇか。


「昨日怪人の捕縛に言った時に会ってな。その時もあの調子だったが。何考えてるか全然わからねぇ顔で怪人のことボコりやがるし。まぁそん時はそれで終わったんだが。問題は今日の朝だ。学校に行く途中で変身した状態のあいつと運悪くぶつかってな。オレは変身してなかったんだが、あいつ何の躊躇いもなくオレの前で変身解きやがって」

「変身を? あなたがラブリィレッドだって気づいたってこと?」

「いや、そういうわけじゃねぇだろうな。ただ警戒してねぇだけだ。馬鹿なのか、それともバレてもどうとでもなると思ってるのかその両方か。今朝も教室で言いかけてやがったからな」

「なるほど。それで必死に止めにかかったってわけね」

「あぁ。オレの正体に気づいてるのか気づいてねぇのかもわからねぇからな。もし気づかれてたら完全アウトだ。あの様子じゃ秘密保護なんて考えはまるでねぇだろうからな。芋づる式に正体バラされちゃたまったもんじゃねぇ」

「それであの態度だったわけね。ようやく合点がいったわ。それにしても面白かったわね。あの子に振り回されるあなたの様子は。クラスの子達も目も丸くしていたもの」

「紅咲君に全く物怖じしてる様子が無かったですもんね。あっ、べ、別に紅咲君が普段から怖いとか近寄りづらいとかそういうことを言ってるわけじゃなくて、えとえと」

「別に今更誤魔化す必要なんかねぇよ」


 いくらラブリィレッドとしての名声を高めようが、それでオレの評価が変わるわけじゃねぇ。むしろ最近はたまに魔法少女関連の用事でたまに学校を休むこともあるせいで余計な噂まで生まれてる始末だ。

 まぁどうでもいいけどな。


「でも、そういうことなら私達も無関係とは言えないわね。明日からは私達も気に掛けておくとしましょうか」

「うん。紅咲君ばっかりに苦労はかけられないし。わたしにも任せてください」

「そういうことなら遠慮なく頼らせてもらうけどな。さて、いつまでも駄弁ってても仕方ねぇしそろそろ行くか。今日の相手は決まってるんだよな」

「えぇ。最近魔法ヶ沢市近辺で暴れ回っている怪人、スティールモンキーの捕縛よ」

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