第157話 若葉の抱える問題

『わたしは魔法少女らしくなんてないよ』


 そんな言葉を残した後、黄嶋はこの後に用事があるからと言って呼び止める空花や青嵐寺の言葉も聞かずに帰っていった。


「あーあ」

「はぁ、本当にあなたっていう人は」

「オレが悪いのか!? いや、オレが悪いのかもしれねぇけどよ」


 あの様子を見るに、オレの言葉が原因なのは間違いないだろう。用事があるってのが建前なのも見え見えだ。だが、今回に限っては別に変なことを言ったつもりはねぇんだが。


「オレ、そんな変なこと言ったか?」

「それがわからないからあなたはダメなのよ」

「この鈍感。まぁ素直に言葉にできない委員長も委員長だけど」

「どういうことだよ」

「ふぁ……晴輝ってホント、そういうところあるわよね」

「あ、てめぇフュンフ! 姿が見えねぇと思ったらそんなとこに居やがったのかよ!」


 置かれていた鞄の中から眠たげにあくびをしながらフュンフが出てきた。

 全然姿を見せねぇと思ったら、やっぱり黄嶋のとこに居やがったのか。こいつには言いたいことがいくらでも……って待て!


「それ黄嶋の鞄じゃねぇか! あいつ、鞄忘れて帰りやがったのか!」

「あ、ホントだ。でも鞄のことも忘れるくらい、いっぱいいっぱいだったんだ。今頃委員長焦ってるんじゃない? どうしよー、忘れちゃったー、でも今更戻れないーって」


 あり得るな。ってか、あんな感じで帰っちまったらオレだって戻るに戻れねぇ。鞄のことは諦めるだろうな。


「おいフュンフ、いい加減あいつに何があったか教えやがれ」

「何がって、そうね……言うの簡単なんだけど。誰でもぶつかることと言えばぶつかることだし。彼女も例に漏れずっていうだけというか」

「いいからはっきりしやがれ!」

「魔法少女としての壁、でしょ」


 オレの問いに答えたのは、フュンフじゃなく静かにお茶を飲んでいた青嵐寺だった。


「魔法少女としての壁? なんだよそれ」

「言葉のままだけど。思うように成長できない自分、魔法少女としての理想と現実の乖離。原因は想像に難くないだけど、それが彼女の態度の原因でしょう。彼女が見舞いに来てくれていた時から様子が変だったし、何かあるだろうとは思っていたけど。さっきの様子を見て確信したわ」

「なんでんなことになんだよ。順調にやってたんじゃねぇのかよ」


 少なくともオレの目から見てあいつの魔法少女活動は順調だった。怪人だってちゃんと捕まえてたし、それ以外のことだってちゃんとしてたはずだ。

 オレからすりゃ、順調も順調って感じだったと思うんだが。


「こればかりは本人にしかわからないでしょうね。いくら周囲が順調だと思っていても、本人の中にはもっと理想があったのかもしれないわ」

「理想……か」

「それでも理想と現実の狭間で自分の実力を見極め、すり合わせていく。そうしていつか自分自身の魔法少女の在り方を決める。そういうものなんだけどね。あんなことがあったから」

「もしかしてオウガか? でもあれは」

「それもあるけど。一番の原因はあなたよ」

「オレ!? なんでオレが関係あんだよ。むしろ一番無関係だろうが」

「うわ、ハルそれ本気で言ってる? ないわー」

「なんでだよ。別にオレ何もしてないだろうが」

「あはは、そうなんだけどさー。むしろ何もしてないのが問題というか」

「意味わかんねぇ」


 全く意味がわからねぇが、どうやら青嵐寺も空花も、フュンフですら黄嶋がどういう問題を抱えてるのかわかってるらしい。

 わかってねぇのはオレだけってことか。しかもあいつの問題にオレは関わってるらしい。


「教えてあげることはできるけど……それじゃあ彼女のために、あなたのためにもならないでしょう。知りたいのなら、直接話しを聞いてくることね」

「んだよそれは……」

「まいい機会なんじゃないの? ハルと委員長って微妙に打ち解けきれてない感じあるし」

「別に誰とも打ち解けた覚えはねぇよ」

「いいからさっさと探しに行きなさいよ。男らしくないわよ」

「うるせぇ、黙ってろ。お前に言われんだけは腹立つんだよ」

「はいはい。いいから喧嘩してないで。とりあえず今は見逃してあげるわ。秋穂ちゃん達もまだ帰ってこないでしょうし」


 青嵐寺に黄嶋の鞄を渡される。

 まぁつまりは行ってこいってことなんだろうが……。


「ったく、あぁもう! わかった! 行きゃいいんだろうが!」


 ふんだくるように鞄を受け取ってから、オレは家を出た。

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