第156話 退院祝い

「お二人とも、退院おめでとうございます」

「ハルも青嵐嬢も退院おめでとうー。青嵐嬢もハルの家に居たのは意外だったけど。まさか二人でいいことでもしてた?」

「茶化さないでちょうだい。ただ秋穂ちゃんに頼まれただけよ。彼が退院早々に無茶なことをしないようにってね」

「あはは、まぁそんなことだろうと思ったけど」

「んなことはどうでもいいんだよ。お前ら何しに来たんだ?」

「何しにって、もちろん退院祝いをしに来たんだけど。ほら、ちゃんとお菓子とか買ってきたし」

「えっと……迷惑だったかな?」

「いや、だから……はぁ、もういい。とりあえず座れ。茶でも淹れてやる」

「あ、そんな。お構いなく」

「ラッキー、あたしは紅茶でよろしくー」

「空花ちゃん!」


 オレはため息を吐きながら立ち上がり、二人に茶を淹れる。ついでに二人から貰った菓子をそのまま茶菓子として流用することにした。

 この辺りの作業は慣れたもんだ。


「ほらよ」

「あ、すみません」

「ハルって意外とこういうのちゃんとできるよね」

「意外とは余計だ」


 それにしてもこいつらも律儀っつーか。わざわざ退院した初日に来なくてもいいだろうに。というか、どのみち明日からは学校に行くつもりだったしな。退院祝いだってなら別にそのタイミングでも良かっただろ。


「ホントはリョウも来たがったんだけどさ。ほら、一応この四人だけの秘密ってのもあるわけだし」

「あー……部活のことか。そりゃ確かにリョウの奴に聞かせるわけにはいかねぇな。ってそういやずっと気になってたんだが」

「ん、なに?」

「オレと青嵐寺ってどういう理由で一ヶ月も休んだことになってんだ? 成績の方は魔法少女統括協会がなんとかしてくれるらしいが、クラスの奴らにはどういう風に説明されてんだよ」


 ずっと疑問に思ってたことだ。まさか魔法少女云々について説明されてるわけがねぇし、どういう風な説明されてんのか知らねぇんだよな。


「あ、え、えっと、それは……」

「ぷっ、くくく……」


 気まずそうに目を逸らす黄嶋と、思い出したかのように笑い出す空花。

 なんかめちゃくちゃ嫌な予感がするんだが。


「あなたまだ知らなかったのね」

「お前は知ってたのかよ」

「えぇ。以前病室に来てもらった時に聞いたもの。あなたは授業をサボろうとしていたときに怪人の破壊行為に巻き込まれたことになってるわ」

「おいっ!」


 なんだそのダサすぎる奴は!

 ってかあの襲撃の時最初はオレだって教室に居ただろうが!


「大幅な記憶の改変は面倒だけど、あの騒ぎだったし。生徒が一人居たか居なかったかなんて誰も気にする余裕が無かったのよね。ましてやあなただし。おかげで記憶の操作はしやすかったらしいわよ。ちなみに私は避難誘導の時に巻き込まれたことになってるわ」

「お前との扱い差の落差っ!!」

「あははははっ! 酷いよねー、あたしも初めて聞いた時は思わず笑ったよ。でもいいんじゃない? どうせ誰も気にしてないし。そもそもハルに何か言えるような奴なんていないだろうし」

「そうかもしれないけどな。それでもこう……イメージってもんがあんだろ。ってまさか秋穂達にも同じ説明してんじゃねぇだろうな!」

「さすがにそこはもう少し別のごまかし方してるみたいよ。安心するといいわ」

「はぁ。これでもし同じ説明されてたら協会に殴り込みに行くところだった」

「あなたなら本気でやりかねないわね」

「せっかく治ったんですから、そんな物騒なことしちゃダメですよ?」

「わかってる。マジでするわけないだろうが」

「ハルなら本気でやりかねないもんね」

「あはは……あ、そうだ。二人に渡すものがあったんだ。これなんだけど」

「なんだよまだなんかあんのか? って、ノート?」

「これもしかして」

「うん、二人が休んでた間の授業のノート。わたしなりにだけど纏めておいたから」

「ありがとう。すごく助かるわ」

「……悪いな。気ぃ使わせたみたいだ」

「そんな、気にしないで。わたしが勝手にやったことだから。わかりにくかったらごめんね」

「そんなことないわ。すごく丁寧に纏められているもの」

「……そうだな。これなら大丈夫だろ」


 チラッと開いて見ただけでもわかる。要点に絞って授業の内容が纏めてある。口で言うほど簡単なことじゃねぇはずだ。それを二人分だからな。こいつも生真面目っつーか。


「いや、違うか。黄嶋、お前ってホントにお人好しだよな」

「え?」

「頼んでもねぇのにこういうお節介するところとか。まぁでもそういうお節介なところがあるほうが世間一般で言う魔法少女らしいか」

「っ、わたしは……」

「あ? どうしたんだよ」


 表情を強張らせる黄嶋。

 オレなんか変なこと言ったか?


「わたしは魔法少女らしくなんてないよ」


 微妙な空気が流れるなか、黄嶋がポツリと言った一言が耳に残った。


 

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