第155話 無趣味同士の語らい
「はぁ、めちゃくちゃ暇だ」
あのエビ怪人をとっ捕まえて帰ってきた後、オレはすることがなさ過ぎてリビングでボーッとテレビを見続けていた。
だが、
「あなた、家ではいつもそんな感じなの?」
「あ?」
「だから、いつも家ではボーッとテレビ見続けてるの?」
「んなわけねぇだろうが。てめぇがいるから何もできねぇだけだよ。ってかなんでまだいんだよ」
「だから何度も言ったでしょう。あなたのことを秋穂ちゃんから頼まれているって。彼女が帰ってくる前に目を離したらあなたが何をするかわからないじゃない」
「何もしねぇよ! だからさっさと帰りやがれ!」
「ふふ、本当のところを言うと帰ってしまってもいいのだけど」
「じゃあなんで帰らねぇんだよ」
「暇だから」
「ふざけんじゃねぇえええええ!!」
「あなた退院したばかりなのによくそんなに叫べるわね」
「誰のせいで叫んでると思ってんだ。ぶっ飛ばすぞてめぇ」
「冗談よ。実は秋穂ちゃんに夜ご飯にお呼ばれしてるのよ。一度帰ってからまた来るのも面倒だし、それならこのままこの家にいるのが賢明な判断というものでしょう?」
「マジか。秋穂の奴、余計な気の回し方しやがって」
「全く気の利かない兄の背を見て育ったからでしょうね」
「ぐっ……」
「そういうわけだから、私のことは気にせずいつも通りに過ごしてくれて構わないわよ。私はここで大人しくお茶でも飲んでいるから」
「んなことできるわけねぇだろうが。ったく、あぁくそ」
「……あなた、もしかして趣味が無いの?」
「趣味だ? それくらいあるに決まって……決まって……」
……オレの趣味ってなんだ?
中学の頃から喧嘩しまくってたが、喧嘩は別に趣味じゃねぇ。ただ向こうからふっかけられたから受けてただけだ。
ゲームもやったりするが、それは亮平の奴から誘われて無理矢理やらされてるだけだしな。中学後半からはずっとバイトしまくってたし。
「もしかしてないの?」
「…………」
「寂しい人だとは思ってたけど、まさかそこまでだったなんてね」
「う、うるせぇよ」
言い返す言葉にも力が無いのが自分でもわかった。
趣味か……言われてみりゃそんなもん考える暇もなかったからな。いや、違うか。作ろうともしなかったってのが正しいのかもしれねぇ。
「お前にはあるのかよ」
「無いわね」
「無いのかよ!」
「私もあなたと同じ寂しい人というわけね。茶道に華道、書道、剣道、家の都合で色々な習い事はしてきたけれど……どれも趣味にはならなかったわ。身につくのは技術ばかり。自発的に始めて続けているのはそれこそ魔法少女くらいじゃないかしら。それも趣味というには少し違うしね」
「確かにな」
「趣味が無いことは悪いと言うつもりもないけれど。それでも趣味を持ってる人を羨ましいとは思うわ。熱中できる何かがある人はね」
こいつの言うこともわからないわけじゃねぇ。亮平や空花の趣味に付き合わされてるとき、あいつらの熱量を見てると羨ましくなる時がある。オレには無い熱をあいつらは持ってるからな。
「探してみてもいいのかもしれないわね。趣味と呼べるものを。まぁ無理に探すようなものではないのかもしれないけど」
「……そうだな」
オレにはやることがある。詩音のことを調べるっていうことがな。青嵐寺の奴にも詳しくは知らねぇがなんかやることって奴があるんだろう。少なくともそれが終わるまでは趣味を見つける暇なんてねぇ。
とはいえ、手詰まり感はあるんだよな。この一ヶ月、入院してる間時間はあったからようやく調べ始めたんだが……すぐに見つかると思ってたのに何の情報も出てこねぇ。
ま、それについては追々考えるとするか。
「あぁでも、強くなることが趣味と言っても過言ではないかもしれないわね」
「それが趣味でいいのかよ」
「意欲的にやろうとしてるという意味では趣味と言えるんじゃないかしら」
「はっ、そうかもな」
それからはなんてことはない他愛の無い話が続く。不思議と会話が途切れることは無かった。
気が合うとかそういうわけじゃねぇけど、たぶん底に抱えてるもんが似てるからなのかもしれねぇな。
「その教官の一撃でもう見事に骨が折れちゃって。今でも右腕が繋がってるのが不思議なくらいだわ」
「ヤバすぎるだろ。いや、教官がヤバいのは十分知ってるけどよ。死人出してても驚かねぇぞあの人」
「さすがに死人は出してないと思うのだけど。たぶん」
「たぶんなのかよ!」
そんな話をしていた時だった。来客を告げるチャイムが鳴った。
「誰だ? 秋穂なら鳴らさずに入ってくんだろうし」
インターホンのカメラを確認しに行く。
そこに写っていたのは、緊張した面持ちの黄嶋と空花だった。
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