第142話 『魔法少女研究部』
「ぶ、部活?」
急に妙なことを言い出した黄嶋に思わず素っ頓狂な声が出る。
何をどうしたらこの話の流れで部活なんてことになるんだ。
そんなオレの疑問は他の三人も抱いたものだったらしく、顔に疑問を浮かべていた。
オレ達三人の視線にそんな疑問の感情を読み取ったのか、黄嶋は慌てて口を開いた。
「あ、す、すみません。説明が足りませんでした。えっと、その何から話せばいいのか……前からずっと考えてたことではあるんです。部活を作るっていうのは」
そうして黄嶋が語り始めたのは、『グリモワール』で聞いたという魔法少女達の話だった。
「『グリモワール』で知り合った魔法少女の方達から聞いた話なんですが、その方達は部活動という形で学校での足場を形成しているそうなんです。表向きは普通の部活動として。そして裏では魔法少女活動の拠点として。ともかく、集まっても不思議では無い理由が作れれば良かったみたいで。学校を拠点とするのは、多くの人が集まる学校は情報収集に適しているからだそうです」
なるほどな。確かに学校は噂話には事欠かねぇし、人が多く集まる場所でもある。『グリモワール』だけじゃ収集しきれない細かい噂を集めるにはもってこいってわけだ。
確かに部活ってことにすりゃクラス外の連中でもつるんでて不思議はねぇ。
「それで部活。確かに部活という形にすれば私達が学校で一緒にいても言い訳ができると。そういうわけね」
「はい。ど、どうでしょうか」
緊張した面持ちで聞いてくる黄嶋。
期待してるとこ悪いが、オレの答えは決まってる。
「悪いがオレは――」
「いいんじゃないかしら」
「っ!? おい青嵐寺、お前マジで言ってんのか?」
てっきり青嵐寺の奴はオレと同じ答えだと思っていた。
オレもこいつもなんだかんだと一緒に戦うことは多かったが、それでも別に仲間になったわけじゃねぇ。
それなのに部活なんてもんにまで入ったらいよいよだ。だから青嵐寺は断るとオレはそう思っていた。
「何か? そんなに意外だったかしら」
「今までずっと仲間になるのは嫌がってたじゃねぇか。それがどういう心境の変化なんだ?」
「別に一緒の部活に入るから仲間になるわけじゃないでしょう」
「それはそうかもしれねぇが」
「私はもっと強くなる。そのために利用できるものはなんでも利用するって決めた。だから部活という形がその役に立つかもしれないのなら、私は部活に入っても構わないと思っている」
「…………」
「ま、別にそんなに難しく考えなくてもいいんじゃない? 別に今なんか部活に入ってるわけでもないんだし。むしろハルがなんでそこまで考えるのかわからないんだけど」
「オレは……馴れ合うのは好きじゃねぇ」
「はぁ。全く、小さい子供じゃないんだから。馴れ合うのが嫌だーなんて、今時中二病の子でもなかなか言わないんじゃない?」
「っ、お前なぁ」
「やってみるだけやってみる。気に入らなかったらその時はその時でしょ。何も最初から頑なに断ることなんてないと思うけど」
言い返す言葉が見つからねぇ。確かに空花の言う通り、オレの持ち出した理由はそれこそ自分でも引くぐらいガキじみた理由だ。
まともに考えりゃ別になんの損もない話。
「わ、私は!」
黙っていた黄嶋が口を開く。自分でも思っていた以上の声が出たのか、黄嶋も驚いたような顔をしていた。
それでも黄嶋は意を決したように言葉の続きを口にした。
「私は……紅咲君にも部活に入って欲しい。そう思ってるよ」
まっすぐ、オレの目を見据えて黄嶋はそう言った。
「お前……」
「ふふん、これで反対してるのはあんた一人ってわけね。女の子にここまで言わせておいてそれでも断るのは男らしくないんじゃない?」
「うるせぇ、黙ってろフュンフ」
ジッと三人の視線がオレに突き刺さる。
言いたいことがあるならはっきり言え。オレが前に黄嶋に言ったことだ。
それを黄嶋は実行してみせた。ならオレは……オレの答えは……。
「ちっ、わかったよ。とりあえず籍だけは置いといてやる」
「紅咲君!」
「でも勘違いすんだよ。仲間うんぬんと一緒だ。オレはオレのやりたいようにやる」
「よーし、それじゃあ決まりだね。それで委員長、部活動の名前はもう決めてるの?」
「あ、はい! それはもうばっちり考えてます」
「へぇ、なんて名前なの?」
「『魔法少女研究部』です! 『魔法少女応援部』と『魔法少女追跡部』『魔法少女マジ恋部』はもう存在していたので、カモフラージュにもなるかと」
「うちの学校そんな部活あんのかよ……」
「あら知らなかったの? 特に『魔法少女応援部』なんかは部員数30名以上の人気部活よ」
「マジかよ……」
部活とか全く興味ねぇから知らなかったな。部活動紹介の時はサボってたしな。
「っておい待て! オレにそんな名前の部活に入れってのか!?」
「ダメ……かな?」
「うっ」
「ハル、一度言ったこと覆すなんて男らしくないよ」
「そうね。諦めるべきだわ」
「ふざけんなぁああああっっ!!」
だが、三対一の状況でオレの意見が聞き入れられるわけもなく。
『魔法少女研究部』という、オレにとって最悪の名前の部活への参加が決まってしまったのだった。
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